第49話 森の村から戻り、鍛冶屋であれこれ
それからいくつかの群生地を見付け、採取し、ギルドへと戻った。
そして依頼達成の報告をして報酬を受け取り、今は宿に居る。
今回の依頼は精神的にはちょっと疲れたけど、得るものは多かった気がする。ハナ婆さんは少々口うるさい面はあったものの、薬草採取に関する知識は本物だと感じた。特に、薬草が生えやすい場所の傾向など、長年薬草採取に携わった彼女の経験に裏打ちされた情報には値千金の価値がある。
僕は途中から護衛なんて半分ほったらかし、初心者ダンジョンで使った紙と鉛筆の残りを背負袋から引っ張り出して必死にメモを取っていた。そしてさも当たり前のようにハナ婆さんに質問までしていた。
後で皆には謝ったけど、「ハナ婆さんの相手をしてくれて助かった」と逆に言われて何とも言えない気分になってしまった。
「メシが出来たぞぉぉ!」
階下から酒場の親父の叫び声がする。
もうここの親父の大声には慣れてしまった。もうそれだけこの村に滞在していたんだな、とか考えながら階段を下り、皆と合流して空いてる場所を探して座った。
コトリと小さな音を立てて目の前に置かれた今日の夕食を見る。
ブラウン系のシチューと黒パン。今日も変わらない。村が変わっても基本の食事はこれだ。たまには違うものが食べたい、とは思うけど、今のところ良い案がない。メルにでも高い店を紹介してもらえば何か変わるのだろうか。
などと考えながらシチューを木の匙でズズッとすすっていると、入り口からギルムさんが現れ、そしてこちらを見付けて近づいてきた。
「おう、明日帰るぞ。準備しといてくれ」
彼はいきなりそう言うと、僕達のテーブルの空いている場所にドカッと座った。
「やっと帰れるか」「やっとかぁ~」と言いながら喜んでいる三人を横目で見ながら僕は黒パンを千切る。
やっと仕事が終わるのは嬉しいような気もするけど、心残りもある。
もう少しハナ婆さんの話を聞いてみたかったし、妖精の庭と妖精の門についてもっと詳しく調べるべきなんじゃないか、と思う。しかし妖精の門は浄化で別物になるまで綺麗にしてしまったし、近づかない方がいいような気もする。
……うーん、難しいな。
まあどちらにせよ今はパーティを組んでいて、依頼でこの村に来ているのだから、この村での滞在を延長する事は不可能だろう。このまま大人しく帰るしかない。
そう考えながら、シチューに黒パンを浸してから口に放り込んだ。
「昨日はここの商業ギルドが頑張ってくれたらしくてな。最初の予定より早く薬草が集まった。お前らも早く帰れて嬉しいなら商業ギルドに感謝しとけ」
そう言いながらギルムさんはガハハと笑ったのだった。
うん。なるほど。
薬草の大量購入を持ちかけたのってギルムさんだったのね。
◆◆◆
翌日、荷物をまとめて宿を出て、ギルムさんと一緒に村を出た。
そのまま馬車を護衛しながら進み、来た時に使った野営場所で一泊し、フォレストウルフの群に何度か襲われながらも、特に大きな問題もなくランクフルトへと戻ってきた。
その翌日、予定通り休暇になったのでギルダンさんの鍛冶屋へと向かう。
地球では槍の練習はしていたけど、当然ながら本物の槍で実戦をした事は今回が始めてで、色々と無茶な使い方をしてしまっていた。なので鉄の槍を本職の人に見ておいてもらおうと思ったのだ。
大通りを抜け、裏道へと入り、ギルダンさんの鍛冶屋の扉を開ける。
「らっしゃい! おう、ルークか。今日はどうした? あいつらは一緒じゃねーのか?」
ギルダンさんの元気な声に迎えられながら中へと入り、槍を見てもらいたい事を告げて鉄の槍を渡した。
ギルダンさんはその槍を様々な角度から見ていく。
「うむ。若干歪みがあるな。あと先の方に少し刃こぼれもある。骨か何か硬い物を切ったろ? 鉄の刃物は傷みやすいんだ。長く使いたいならしっかりと骨の隙間を狙え。……そうだな、これだと銀貨一枚ってところだ」
そう言ってギルダンさんは僕を見た。
なるほど、確かにゴブリンの頭に槍を叩きこんだ事があったはず。
急所への一撃で仕留めた方が良いだろうと感じたのと、心臓を狙うと魔石を傷つけそうで避けた結果、頭を狙ったけど、マズかったみたいだ。
よく思い返してみると、皆はモンスターの首筋や腹を狙っていたような気がする。
うーん……。僕もただモンスターを倒すだけでなく、ちゃんと倒し方も考えなきゃいけないんだろうな。
こういう事は平和な日本で武術を習っているだけでは身につかない事なんだろう。もう一度、戦い方を考え直した方がいいのかもしれないな。
そう思いながら袋から銀貨一枚を取り出してギルダンさんに渡す。
するとギルダンさんが後ろを向いて「おぉいギル、仕事だぞ!」と叫んだ。
暫くするとカウンターの奥からダンに似た青年が現れる。
ギルダンさんがその青年に僕の鉄の槍を渡していくつか説明すると、青年は僕の槍を持って奥へと消えていった。
「すぐに終わる。少し待ってな」
ギルダンさんがそう言うので店の中で待っている事にする。
さっきの青年。ギルと呼ばれていたけど、あれはこの店を継ぐダンのお兄さんなんだろうな。顔も似ていたし、名前だってギルダンにギルとダンだからそのままだしね。
「今回の仕事は長かったみたいだな。どうだい、あいつはちゃんとやってるか?」
ギルダンさんのネーミングセンスについて考えていると、ギルダンさんがそう聞いてきた。
何と言うか、この人はダンの前では見せないけど本当にダンの事が心配なんだろうな。さっき、僕が入ってきた時もダンがいないと分かったらちょっと残念そうにしてたし。
「真面目で色々な人から信頼されているし、ギルドでも期待されてるらしいですよ。僕には真似出来ない凄いリーダーだと思います」
日本にいた頃から薄々気がついてはいたけど、ダンを見ていて、僕はリーダーには向いてないんだなと思い知らされた。マサさんにしてもそうだけど、ああやって皆の話を聞いて、そしてグループ全体としての方向を決め、全員を纏めて引っ張って行くってのは一種の才能だと思う。
僕が中心になった自分のパーティとかグループを作るなんて、考えただけでストレスで禿げ上がりそうだ。
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