第48話 冒険者の信用と薬草採取の護衛

 そうしてこの日は何回かゴブリンやフォレストウルフを倒した後、村へと戻る。そしてその次の日も、そしてまた次の日も、同じように狩りに行って、また何回かモンスターの群を倒して戻った。

 モンスターが出る場所まで遠いからか、稼ぎは明らかにランクフルトより悪いみたいだけど、ゴブリンなどのFランクモンスターでもランクフルト含むこの地域では討伐報酬が銀貨一枚出るので問題なくプラスにはなっている。


「そろそろ、町に戻りたいな」


 夕方、宿の酒場で食事をしていると、普段はあまり喋らないラキが、そう口にした。

 いつもはあまり自分の意見を言わない彼がそう言ったので少し驚いたけど、確かにそろそろランクフルトには戻りたい、とは思うが……。

「言わないでよ。私だってそろそろ家に帰りたいし」

「元々こういう条件なんだ。最悪一〇日は戻れない可能性があると最初から分かっていただろ。……それにストル商会からの依頼なんだ。断れん」

 メルとダンがそう言った。

 詳しく話を聞いてみると、今回のこの依頼は冒険者ギルドの掲示板に用意されていた依頼ではなく、ギルドから直接持ちかけられた依頼らしい。

 商人からの護衛依頼というのは商人と商品の護衛が主目的なのだから、商人側も実力があって信用出来る相手にしか依頼したくはない。なので大きな商人であれば、その町を拠点にしている冒険者パーティや有名冒険者の中から信用出来る相手をリストアップし、そのリストの中で当日に冒険者ギルドに来ていたパーティに直接、声を掛けて要請するよう、ギルドに依頼していると言う。

 要するに、お抱え冒険者、と言った感じだろうか。

 うちのパーティの場合、メルの実家の伝手でストル商会との縁が出来。ダンがギルドのDランクで、若手有望株と見られている事から条件を満たした。

 そういう事情もあるので、せっかく信用を得たのだからそれを無くしたくはなくて、ストル商会からの依頼は断りにくいらしい。


 現実問題として、そうやって商人からの信用を得た冒険者と、信用されていない冒険者では天と地ほどの差があるという。

 信用のある冒険者は、今の僕達みたいに割の良い依頼を受けれたりするのは勿論。その商人の店で割引が受けられたり、冒険者活動で必要なアイテムや情報を優先的に回してもらえたり、その商人と関係の深い貴族の依頼を受ける事もある。

 ギルドのギルドカードは、現代地球の生体認証技術並の不思議な技術で個人認証するような機能は付いていない。つまりギルドカードはただの金属の板でしかない。恐らく偽造しようと思えば偽造出来てしまう。

 それにギルドカードは基本的には誰にでも発行される。そしてギルドのランクは冒険者ギルド、或いはギルドマスターなどが何らかの基準で付けているはずで、必ずしも客観的な理由からランクが決められているとは限らない。

 なのでギルドカードやギルドカードのランクが、その冒険者の能力や信用を保証するとは言いきれないのだ。

 つまり、結局のところ腕一本でのし上がる冒険者にしても、人と人との繋がりから信用を得て、実力を証明して名声を得て、得た名声で人との繋がりを増やし、周囲に自分をアピールしていかないと一流とは呼ばれないのではないか、と感じた。


「町に戻りたいのは俺も同じだ。……もうすぐなんだし我慢しよう」


 ダンが言ったその言葉に、僕はまた心に引っかかる何かを感じたのだった。



◆◆◆



 翌朝、僕達はまたギルドへと向かった。

 今日も朝から何か依頼を探しに来たのだ。


「この依頼を受けてみようと思うんだが、どう思う?」


 ダンが持ってきた木片を見てみると、薬草採取の護衛、と書いてあった。

「受付で聞いてみたが、商業ギルドからの依頼で日帰りらしい。モンスターが出る場所までは行かないみたいだし。商業ギルドなら信用出来る。ここ何日か同じ討伐ばかりだったしな。こういうのもいいんじゃないか」

 ダンがそう言うと、「そうね、そろそろゴブリン討伐は飽きてきたしね」とメルが言い、ラキも「それでいいんじゃない」と言った。僕も特に反対する理由もないので肯定しておく。

「よしっ! じゃあ決まりだな」

 そうして僕達は薬草採取の護衛の依頼を受ける事になったのだ。



◆◆◆



「儲かる依頼だか何だかよー分からんがの。こんな老いぼれまで引っ張り出されるんじゃからの、たまったもんじゃねぇわさ」

 そう、お婆さんが僕達に向かって愚痴った。


 あれから、依頼が書かれた木片を受付に渡すと、すぐに受理され、そのままギルドの裏庭へと連れて行かれた。

 裏庭には何組かの冒険者パーティと、背負い籠を背負った人が何人かいて。ギルド職員が冒険者パーティと背負い籠を背負った人を引き合わせると、それが揃って裏庭から出ていく、という流れが繰り返されていた。

 暫くすると僕達の番が来て、ギルド職員から一人のお婆さんを紹介された。

 それがこのお婆さん、ハナ婆さんだ。

 歳は六〇歳から七〇歳ぐらいだろうか。それでも足腰は丈夫そうで、杖は持っているけどシャキッとしており。緑色のローブを着て、背中には籠を背負っている。


 そのハナ婆さんが言うには、どこかの店に薬草の大量注文が入ったらしく、それに対処出来なかったその店が商業ギルドに泣き付き、商業ギルドが使える人材を最大限までかき集めた結果、既に引退していたハナ婆さんまで引っ張り出される事になったらしい。

 僕達がこの護衛依頼を受けられたのもそれが原因かもしれない。

 本来、護衛依頼は信用出来る冒険者パーティに任されるはずだけど、引退しているハナ婆さんを引っ張り出すほど人数を増やした結果、対応出来なくなったんだろう。


 ちなみにだが、ハナ婆さんの愚痴はこれが三回目だ。

 メルが「お婆ちゃん、森の中だしそろそろ喋らないようにして――」と言いかけると、すかさずハナ婆さんが「こんな浅い場所にモンスターなんぞ出やせんわ!」と返す。このやり取りも三回目だ。

 勿論、ダンとラキはもう何も言わない。こんな時に男は何も役に立たないのだ。

 ……僕も含めて。


「ん? これはケル草じゃな。一番数が多い、大体どの地域にもある薬草じゃ」

 ハナ婆さんが薬草を発見したようで、そう言いながら背負い籠を下ろして中から草刈り鎌のようなものを取り出し、そのケル草を刈っていく。

 ケル草は高さ二〇センチから三〇センチ程度のヨモギに似た草で、直径一メートルぐらいの範囲に密集して生えていた。

「このケル草はな、生命力が強いんじゃ。じゃから全部刈り取っちまっても問題はないがね。この真ん中あたりの一本だけ残しておきゃあ次に生えてくるまでが早いんじゃ」

 ハナ婆さんは、刈ったケル草を袋の中へと詰め、籠へと入れる。

「薬草はな、何故か栽培する事が出来やせん。畑に植えても何故か枯れちまう。今まで多くの者達が色々と試行錯誤したが無駄じゃった。だからの、ワシらは自然に頼らねばならん。森を大切にするのじゃぞ……」

 そう言いながら、ハナ婆さんは背負い籠を背負って歩き始めた。


 なるほど。だから薬草採取なんて依頼があるんだな。

 普通、有用な植物なら種を採取するなりして増やそうとするよね。そうすれば危険を冒して森の中なんかに入らなくても得られるようになるんだし。安定して手に入るんだから。

 それをしないのにはちゃんとした理由があるって事か。

 今回は中々面白い話が聞けた。この依頼を受けて良かったかもしれない。

 そう思いながら、歩き去るハナ婆さんの背中を見つめた。


 ……いやハナ婆さん。

 かっこいい事を言って、護衛をほったらかして先に進むのは止めてもらえないですかね。

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