第47話 余裕のための保険とゴブリンの生態

 翌朝、パーティ全員で冒険者ギルドへと向かった。

 ギルムさんの用事はまだ終わらないらしく、もう少しこの村に留まる必要がありそうだからだ。

 個人的には、暇な時間には魔法の練習など、いくらでもやる事はあるから、ここに来てまで働かなくてもいいのだけど、金銭的にそんなに余裕がないのも事実なので特に反対する事もない。

 いや、よく考えてみると、僕の所持金は金貨で数枚しかないわけで、ここで病気になったり、食べ物が悪くて食中毒にでもなって数日寝込んだら詰んでしまう可能性もあるのか。

 そう考えてブルッと震える。

 昨日、何気なく屋台で買って食べた腸詰めだって、朝に販売していたという事は作られたのは前日かそれより前だろう。もし作成過程や保管方法に問題があって大腸菌なんかが繁殖していたらベッドから起き上がれなくなっていたかもしれない。

 この世界に食品の衛生基準を定めるような法律があるとは思えないし、そういうのは生産者の良心任せなはず。現代日本の感覚で、何でも基本的には安全という考え方を引きずったままだといつか痛い目に遭いそうだ。

 イレギュラーな問題が起こっても余裕を持って対処出来るように、日頃からサボらずに準備を重ねていくべきだろう。


 冒険者ギルドに着き、皆に続いて中に入る。

 ギルドの中は何グループかの冒険者がいて賑わっていた。掲示板の前には何人もの冒険者が集まって依頼を確認していて、酒場スペースでは冒険者同士で何か話し合いをしている。やはり南の村よりも人が多い。

 ダンが掲示板の方へと進む。

 僕達は酒場スペースの方へと向かい、空いているテーブルを見付けて座る。

 基本的に、掲示板を見に行くのはパーティで一人か二人、というのが暗黙の了解となっているらしい。何人も見に行くと掲示板前が混み合うからだ。ルールと言うほど厳密ではない、マナーという感じだろうか。

 イスに座って周囲の冒険者の噂話に耳を傾ける。


「ランクフルトの方ではモンスターの数が増えているらしい」

「へー……まぁこっちではあまり関係ねぇだろう」

「それがな、ここからランクフルトまでの道もモンスターが増えているらしくてな。あちら方面は低ランクじゃ厳しいかもしれん」

「なるほどな……うちの若いモンにも注意しとかなきゃならねぇか」


「商業ギルドの薬草採取が失敗したってよ」

「マジかよ! 薬の値段が上がるんじゃねーのか?」

「それは大丈夫だろ。薬師ギルドの方には在庫があるからな」


「最近、西の方がきな臭ぇらしい」

「そうなのか? そんな噂は今まで聞いたことねぇが」

「あぁ、俺も昔馴染みに最近聞いたばかりだからな」

「その昔馴染みって何者なんだよ。信用出来るのか?」

「さぁてな。信じるか信じねぇかはお前次第だぜ」

「ケッ! 酔っぱらいの与太話かよ」


 そうこうしている内にダンが戻ってきた。

「特に良い依頼はなかった。適当にモンスターを狩ろう」

「えぇ~ここ、モンスターが出る場所まで遠いから面倒なんだけど!」

 ダンの言葉にメルが即行で待ったをかける。

 この村は何故かモンスターが近寄らない。つまりモンスターを倒そうとするなら村から離れるしかない。

 確かに少々面倒かも。モンスターが出ないってのにも問題はあるんだね。



◆◆◆



 前を歩いていたラキがこちらに手をあげて立ち止まる。そして全員に屈めと手で指示を出した。

 村を出て南へと向かい、森の中を二時間ほど歩いた頃、ようやくモンスターを見付けたのだ。

 屈みながらラキが見ている方向を見た。

 顔を動かして、草と草の隙間から奥が見えやすい場所を探す。

 いた。ゴブリンだ。

 数は……見える限りでは三だろうか。

 何か棍棒のような物で木の幹を殴って、傷がついたところから木の皮を剥いでいる。そして皮の内側の柔らかそうな部分をグチャグチャと食べ始めた。

 うーん……。今まではダンジョンのゴブリンしか見たことはなかったけど、野生のゴブリンというのは草食性なのだろうか?

 それとも、あの木の皮には何かがあるのだろうか?

 一部のカエデの木のように樹液に糖分が含まれる木もあるので、樹皮に何か有効成分が含まれる木があってもおかしくはないのではないだろうか。

「グギャグギャ」

 いやぁ……木の皮をグギャグギャ言いながらグチャグチャ食べてる姿からは、そんな難しい事を考えて行動する知能があるとはちょっと想像出来ない。

 やっぱり変に難しく考え過ぎなのだろうか。

 ……ゴブリンはモンスターの中では最弱の部類で、獲物を狩る能力が低い。つまり木の実などの自然の恵みを得られなかったゴブリンは、基本的に草や木の皮ぐらいしか食べるものがない。

 そう考えた方が妥当な気がするな……。


 そうこう考えている内にダンが手でサインを出す。

 その瞬間、ラキが立ち上がって弓を射た。

 そしてすぐにダンとメルがゴブリンへと向けて走り。それを見た僕も慌てて後に続く。

 事前にサインと、敵を見付けた場合の動きは決めていたのだ。

 先頭のラキが敵を見付けたら合図を送り、そこからダンが状況を見て、ダメなら撤退で、行けそうならラキが一撃を入れた後に即全員突撃。


 今回は色々と考え込んでいて、動き出すのが遅れてしまった。

 結局、ラキが初撃でゴブリンの胸を射抜き、ダンとメルが一撃で一人ずつ倒し、僕は槍を持って走っただけで終わった。

 まぁゴブリンは三匹だったから、しょうがないさ。

 次は頑張るとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る