第50話 ギルダンさんの言葉と新たなる魔法書
「そうか……あいつは真面目ではあるからな」
僕の言葉を聞いたギルダンさんは、そう呟くように言った。
何か含みのあるその言葉に僕は首を傾げる。
ダンは真面目だし、能力も高いと思う。まだ若いのにこれだから、冒険者としては普通に将来有望に見えるけど。ギルダンさんから――親の目から見ると別の何かが見えるのだろうか。
「あいつは……自分では冒険者が性に合っていると思ってるみたいだがな。……それなりにやれるだろうが、大成はしねぇ。あいつには足りないモノがある」
そう言ったギルダンさんは一呼吸置いてから言葉を続けた。
「まあ、あの三人は、その辺り似たようなモノだし、それはそれでもいいかもしれんのだがな。……お前さんはどうなんだ? 冒険者として名を立てる気があるのか?」
いきなりそう聞かれて返答に困ってしまう。
冒険者として名を立てる……か。具体的にどうなる事なんだろうか。
言葉の意味そのままなら、冒険者としての僕の事が色々な人に知られて有名になる、というような意味なんだろうけど、そういう状態になりたいか、と聞かれると、あまり興味は湧かない。ちょっと面倒そうだ、といったイメージが先に来てしまう。
戦国時代の日本人ならいざしらず。現代日本から来た僕としては何かピンとこないものがある。
「あいつはな、鍛冶師としてなら大成したんだ。そいつは俺が保証出来る。なのに冒険者になっちまった。俺にはそれが残念でならねぇんだ」
ギルダンさんはそう言うと、ため息を吐いた。
それを見計らったかのようにカウンターの奥からギルさんが出てきて、ギルダンさんに槍を渡す。
ギルダンさんはそれを一通り確認すると、僕に渡した。
「男なら、いつかは身を立てなきゃならねぇ。お前さんも少し考えてみるんだな」
◆◆◆
「身を立てる……か」
宿への帰り道。歩きながら色々と考えた。
ギルダンさんの言葉は今の僕には色々と難しくて、全てを理解出来たとは言えない。
彼は何が言いたかったのだろうか。
少なくともダンの事を心配する気持ちは感じた。鍛冶師になってほしかったという気持ちも感じた。……そこから何にどう話が繋がるのだろうか?
そしてダンに足りないモノとは何なのだろうか。
メルとラキも似たようなモノだ、とも言った。そして、だから大成出来ないと言った。何故なのだろうか。何故、大成出来ないのだろうか。
最後にギルダンさんが言った言葉を思い出す。
僕に対しても、考えてみろ、と言った。
僕は何を考えてみるべきなんだろうか?
身を立てる事についてだろうか。
だとすれば僕は……。
◆◆◆
それから一ヶ月ほど、依頼を受けたりモンスターを狩ったりと、色々と精力的に仕事をこなした。
ランクフルトの町の北側にはエルシープの生息地があり、それがこの町の冒険者の良い収入源になっていて、僕達も何度もエルシープ狩りに行った。
エルシープは全身が使える素材だらけなので、全身まるごと売れる。まるごと売れるから解体はしなくてもいいけど、逆に言うとそのまま持ち帰らなければならない。なので馬車かリアカーのような荷車を借りる必要があって、それはそれで大変だったけど、実入りはとにかく良かった。
モンスターが増えていた事もあって遭遇率も上がり、いつも以上に利益も増えていたらしい。
そんな日々が続き、儲かるからって働きすぎ、という事で久しぶりの休日になった。
休日と言ってもこの世界にはゲームセンターもないし、映画館もないし、娯楽というモノがほとんど見当たらない気がする。もしかすると大人の娯楽ならあるかもしれないけど……今のところ遭遇していない。誰かに聞けばいいのかもしれないけど、気まずくなりそうで聞くに聞けない。
まあそれ以前に、休日は本当の意味で休憩しなきゃマズいんだけどね。
疲れが溜まらないようにするための休日なのだから。
そう思いつつ、今日は外に買い物に来た。
やっぱり定期的に日用品なんかは買い足したり買い替えたりしておかないといけないし。それともう一つ。町の北側にある上層区とでも言うべきエリアの店を見てみたいと思ったからだ。
今までは上層区と言うと貴族やら大商人やらがいて、一般人は入れないのではないか、みたいなイメージで考えていたけど。実際に行ってみると普通に入れて驚いた。
と言うか、エルシープを狩りに行く時に北門から出るので、この町の冒険者ならよく通るのが上層区だ。
元々、北側は王都に近い事から高級な店が集まりやすく、この地域を治める領主の館も北側にあるため、自然とそういうエリアになっただけらしい。
上層区の大通りを歩く。
一般人お断りの地域ではないけど、やっぱり高級店が多い。外から店を見ただけでもそういう雰囲気が出ているし、冒険者の格好では入りにくい。
そして窓にガラスっぽい物がはまっている店もある。これはずっと気になっていた。この世界にはまだガラスが存在しないのではないかと前は考えていたけど、そんな事もなかったらしい。しかし、地球のガラスのような透明度はない。
そして色々な店を見ながら歩いていると、看板に本のマークを付けた店があった。間口は三メートルほどしかなく、この高級店が多い北側の店にしては小さい。でも……。
「……これって」
何となく、予感がして、その店に入る。
店の扉を開けると木製の棚が見え、その棚の中には本、本、本。これは間違いない。ここは本屋だろう。
はやる気持ちを抑えながら中に入り、棚の端から本を物色していく。
植物図鑑。気になるけど分厚すぎるから買っても持ち歩けない。
モンスター全集。これも同じ。
編み物の全て。これはどうでもいい。
鉱物全集。うーん……気になるけど今はいいかなぁ。
英雄物語。今は別にいらないや。
地域別お尻拭きに適した葉っぱ・分布図付き。興味がなさすぎて逆に気になる!
そして――
ホーリーウインド。頭の中に浮かぶ“ホーリーウインドの魔法書”の文字。
これは……。って、こんなところにあったのか……。盲点と言えば盲点かも。
手にとって確かめてみる。
するとやはり手に持った瞬間、手と本が魔力で繋がるのが分かり、これが本物の魔法書だと確信した。
それを大事に手に抱え、他にも何かないか店を全て探してみるも、これ以外の魔法書は存在していなかった。勿論、僕が分かる範囲では、だけど。
「これは、他の町に行っても本屋さんは全て確認していかないとな」
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