第100話 光魔結晶と魔法袋の検証と考察
いつもの宿の部屋でベッドに寝転がる。
「さて」
今日は色々と整理しないといけない事が多い。
まず、今日手に入れて、さっきギルドに売却した白い魔石――光の魔結晶の事についてだ。
光の魔結晶……。あの時は魔法袋を手に入れて浮かれてたせいか気付かなかったけど、今になって冷静に考えてみるとちょっとおかしくないか? 何でゴーストから光の魔結晶が出たのだろう? ゴーストが光って、イメージとはまったく合わないのだけど……。
まぁオーク倒してしゃもじが出るダンジョンにそんなツッコミを入れても仕方がないような気もするけど……。でも一応、ダンジョンのモンスターのドロップアイテムは基本的に倒したモンスターの素材が出るようになっているはずだし。まったく関係のない物、ではなく真逆な物が出ているのだから、やっぱりおかしいはず。
「うぅむ……」
真逆といえば、前にもゴーストやスケルトンから神聖魔法の魔法書が出たんだっけ。これも真逆といえば真逆だ。
……いや、やっぱり違うかな? 光と闇は真逆だろうけど、光と神聖は同じモノではないので、神聖と闇は真逆の関係ではない……はず。
うーん……それも自信はないなぁ……。光は神聖と相性が良いようなイメージがあるしさ。光と神聖は同じモノではないけど、近い感じはする。
そもそもの話だけど。さっきはあっさりと光の魔結晶を売却してしまったけど金貨三〇枚ってかなり凄い買取価格じゃないか? 前に闇の魔結晶を売った時は金貨六枚だったはずだから五倍も違う。闇魔結晶は出やすいから安めだと前に聞いたけど、それにしたって差が凄い。それだけ闇魔結晶の人気が低いのだろうか? それとも光魔結晶の人気が高いのだろうか? 今のところ他の属性の魔結晶は見たことがないので何ともいえないけど。
でも、もしあの階で光の魔結晶が出て、金貨三〇枚で買い取られるなら何故あの階はあんなに人気がないのだろう。攻撃魔法を使える冒険者が少ないのは分かるけど、もう少し一攫千金を狙う冒険者が出てきてもいいとは思うのだけど。
……いや、ないか。
よく考えると、デザートカウやオークの塊肉、あれが銀貨三枚前後で買い取りされていたんだし、魔石とか他のドロップを入れたら二、三体狩れば金貨一枚ぐらいになってるはず。
あの階で一日何体のモンスターが狩れるのか分からないけど、Dランクパーティで一日金貨一〇枚ぐらいは稼げてるんじゃないかと思う。だとすると、出るかどうかも分からない金貨三〇枚に魅力はないかもしれない。
「うーん」
ベッドの上でゴロゴロと左右に何度も半回転しながら考える。
でも、何か、何か見落としているような気がする。何か忘れている気がする。何かどこかに点と点を繋ぐ線があるような……。
思考の海にどっぷりと沈み、その大海に揺られ、何かを探すために手を伸ばす。何度も何度も、泳ぐように探るように。考え、思い出し、そして波に飲まれて沈み込み、また浮かび上がる。
やがて意識が深く深く思考の海に沈み込んだ時、その手に何かが触れたような気がした。そのあやふやな感触を信じて手を伸ばし、必死に掴み取り、手繰り寄せていくと――
――目の前に光があった。
思考の海から浮上し、現実に引き戻される。
あぁ、そうか……。そういえば、前に神聖魔法の魔法書をダンジョンで手に入れた時って確か……その前の時も……いや、そうだとすると……でも……うん、ここでは確認出来ないな。ダンジョンで検証してみるしかないかな。
自分の中で一応の答えのようなモノは見つかったので頭の中を切り替えていく。
さて、次だ。
「次は魔法袋について調べていこう!」
気合を入れ、ベッドの上に置いてあった背負袋からウエストポーチ型の魔法袋を取り出した。
魔法袋、それは見た目より多くの物が入り、その重さも感じなくなる魔法の袋。
僕はこれまで見たことがなかったし、詳細なスペックについて話を聞く機会もなく、それぐらいの情報しか知らなかった。
メルの実家の商会でいくつか保有しているらしい、という話をメルから聞いたけど、彼女も触らせてもらえなかったらしく、詳しくは知らないようだった。
どうも所有する魔法袋のスペックは出来る限り隠すものらしい。
まぁよく考えてみると、その理由も理解出来るというか。例えば一〇トンのアイテムが入る凄い魔法袋があるとして、それをどこかの国が保有していたら、恐らく戦争の時などは物資の輸送の概念から変わってしまうはずだ。
仮にそれをどこかの商会が保有していたとしても輸送費の大幅な削減が可能になるだろう。
そういう輸送能力を公開してしまうのは色々な意味でリスクが大きいしメリットも少ない気がする。
「よし、とりあえず容量を確認しようかな」
容量が一番重要だしね。
ベッドから立ち上がり、魔法袋を持ちならが部屋中をキョロキョロと見回す。
部屋の中にはベッドと机と椅子があって、それと僕の背負袋があった。
「まぁ最初はベッドからいってみようか」
一番大きいのがベッドだしね。大きいのから試してみるのがセオリーでしょ。
そう思って魔法袋のフタを開けてガバッと開き、ベッドの角にカパッと被せた。すると魔法袋はベッドの角にカパッと被さった。
「……」
魔法袋はベッドの角にカパッと被さっている。
「……」
おもむろに魔法袋をベッドからパカッと外し、今度は机の前にある椅子を横倒しにして、その一本の足を魔法袋の闇の中へズブズブと沈めていく。
すると魔法袋は椅子の足を一本全て飲み込み、座面のところでつっかえて止まった。
「……まぁ……そうだよね」
いくら物理法則を無視して容量以上の物質を収納出来るとしても、その入り口は普通の鞄。つまり……。
「……開口部の大きさ以上の物は収納出来ない、か……」
よく考えなくても当然だ。むしろ何で僕は可能だと勘違いをしてしまったのだろうか? どこかのゲームかファンタジー作品の影響でも受けてしまっていたのだろうか? ……RPGなんかに出てくるアイテムボックスはどんな物でも収納出来るのが基本だし、それのイメージが残っていたのかもしれないな……。
ベッドと椅子を収納する事を諦め、背負袋に入っている物を取り出して一つ一つ入れていくと全てのアイテムが収納され、他に入れる物がなくなってしまう。
「これじゃ限界は分からないな。容量は後にしよう」
魔法袋の中からアイテムを全て取り出し、次の実験に移った。
「次は、中に時間経過があるのかどうか」
よくあるRPGだと主人公が食品などをずっと持ち続けても腐らないというシステムがほとんどだ。そういうイメージから何となく時間経過がないようなイメージがあるのだけど……。
「さっきもイメージからの思い込みで失敗したしね……」
まぁ検証はしておくべきなんだけど。
でも検証といっても時計はないし。氷とかあれば分かりやすいけど、これもないし。あ、酒場でお湯でも貰ってこようかな? ……いや、今は忙しい時間だし難しいか。
「うぅん……お湯……いや、作れない、こともない? かな?」
何となく出来そうな気がした。
ベッドの上に放置されている鍋を机の上に置き、そこに水筒から葡萄酒の残りをゴポッと注ぎ入れると鍋の四分の一ぐらいまで葡萄酒が溜まる。
「神聖なる炎よ、その静寂をここに《ホーリーファイア》」
そして出来る限り出力を抑えるように念じながら人差し指にホーリーファイアの白い火を灯し、それをそーっと鍋の中に入れた。
すると白い火の玉の周辺の葡萄酒がボコボコボコと沸き立ち始め、すぐにボッコボッコと沸騰したかと思うと、ブシャと鍋から吹きこぼれた。
「わ、おぉぉおお!? あっつ! あぁぁっ!」
そして検証作業は一時中断となった。
良い子のみんなは真似しないように!
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