第99話 夏の訪れ

「これは……はい、光の魔結晶ですね。……えぇっと、現在の買取価格は……」

 受付嬢は「少々お待ち下さい」と言って席を立ち、後ろの棚から紙の束を引っ張り出し、それをペラペラと捲って何かを確認しながら戻ってきた。

「お待たせしました。こちらのDランク光魔結晶。……そうですね、金貨三〇枚での買取となりますが、それでよろしいでしょうか?」

 受付嬢は読んでいた紙の束を机の上に置き、そう言いながら僕を見た。


 全ての通路をチェックしていく隠し部屋探しは予想以上に時間がかかり、地下二〇階を探索し終えたところで地上へと戻る事にしたのだけど。その途中で倒したゴーストの白い魔石が予想以上に高い値段になって驚いた。

 うーん……売るかどうか悩む。

 一応、魔法袋を手に入れた今は多少アイテムが増えても問題なくなっている。何かに使えそうなアイテムはストックしておいてもいいけど……。

「じゃあそれでお願いします」

 やっぱり売る事にした。

 防具を新調すると決めたしね。今はそれよりお金が欲しい。

 ぶっちゃけ、僕の装備、特に防具に関してはほぼ初期状態だ。ローブの中に着るズボンやシャツを揃えたりはしたけど、布のローブはそのまま。そろそろ何かまともな防具を身に着けておきたいところだし、どうせ買うなら出来るだけ良い装備にしたい。

 なので今は少しでもお金が欲しい。


 受付嬢からお金を受け取り冒険者ギルドから出た。



◆◆◆



 沈みゆく太陽が赤く染めた町を、いつもの宿へ向かって歩く。

 大通りには家路を急ぐ人々が早足に通り過ぎていき、夜も営業する飲み屋などの店員が軒先に吊るしてあるランタンに火を入れていた。

 この世界には光源の魔法やランタンなどがあるけど、ほとんどの人は日常的にはそういうモノは使わない。光の生活魔法である光源の魔法は使える人が少ないし、ランタンや光を灯す魔道具を使えば燃料代がかかる。なので基本的には太陽が昇ると活動し、太陽が沈むと寝る事になる。

 この辺りは大通りなので夜も開いている店が多く、夜もそれなりに明るいけど、裏通りは真っ暗だ。明かりを持たなければ歩くのにも苦労する。なので家路を急ぐ人々は日が沈む前に家に戻りたいのだろう。


 魔法袋を手に入れて心が弾んでいたのか、僕も無意識に歩くスピードが早くなり、額にうっすらと汗がにじんできた。それをローブの袖口で拭い、ふと気が付く。

「なんか……暑くなってる?」

 いや、よく考えてみると僕がこの世界に来てからもう数ヶ月だ。最初に来た頃は若干肌寒いぐらいの感じだったから春頃とすると数ヶ月経てば夏になってきていてもおかしくはない。まぁ地球と季節的なモノが同じだとすればだけどさ。

「そうか、夏か……」

 夏の冒険者ってどういう感じの格好をするのだろう? 薄着になるのか、それとも変わらないのか。夏だからといって薄着になって防御力を減らすのはダメな気もする。でも毛皮の装備だったら夏はキツそうだし脱がないとダメだろう。

 しかし一般的な冒険者に夏用、冬用と複数の装備を持ち歩く余裕があるのだろうか? 基本的に冒険者の多くは僕と同じように宿暮らしだから余計な荷物をストックしておくような場所はないはずだし。

 いや、ダンジョンの中は地下だからひんやりしていて、恐らく年中似たような気温なんだろうし、この町の冒険者の装備は年中変わらないのかもしれないな。

「まぁ、そのあたりの事は防具屋に行ってから色々と相談してみようか」

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