第221話 ドーンとゾンビを倒すオブ・ザ・デッド
極スタの設定資料集を公開しています。
『ダンジョンについて』
https://kakuyomu.jp/works/1177354055538793443/episodes/16816700427234510756
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翌日、朝早くから起きて宿を出る。今日はダンジョンの二階に行こうと思う。
ちなみに『二階』という言い方をしているけど、その場所が本当に『二階』なのかは分からない。
ただ、最初のエリアから裂け目を抜けた先にある二つ目のエリアだから二階と呼んでいるだけで、冒険者によっては『第二層』とか『地下二階』とか呼び方はまちまちらしい。
大通りに出て北側へ向かう。教会がこちらにあると冒険者から聞いた。
教会に向かう前にダンジョン近くの露店でマスクを何枚か買っておく。布の角に紐を縫い付けただけのシンプルな作りのマスクだ。
この町に来た時は、どうしてこの町にはマスクを売っている店が多いの? パンデミックでも起きてるのか? と不思議に思ったけど、単純な話、これが対アンデッド用の最終兵器だったからなのだ。
暫く進むと大通り沿いに大きく長い壁が見えてきた。それは大きな敷地を囲む壁で、壁の上からいくつかの建物の屋根が見える。そしてその壁にある門は開いており、冒険者達が出入りしていた。
僕も彼らに続いて敷地の中に入ると、正面にある木製の大きな教会に冒険者達が入っていくのが見えた。
教会の周囲には白い鎧を着た騎士がいて、周囲を警護している。
今までいくつか教会は見たことがあるけど、ここまで多くの兵に守られた教会は初めてかもしれない。
少し緊張しながら他の冒険者達に続いて教会に入る。
教会の中には既に多数の冒険者達がいて、教会の奥を見ていた。僕もそちらを向くと、奥にある石造りの祭壇の上に大きな金色に光る水瓶のようなモノが置いてあり、司祭っぽい男性が一人と修道女らしき女性が複数。その周辺には白い鎧を着た騎士がそれらを守るように複数立っていた。
「それでは始めましょう」
司祭がそう言うと、修道女が陶器の水瓶を持ってきて、金色の水瓶の中に水を注ぎだした。
「テスレイティア様に祈りを捧げなさい」
司祭がこちらを向いてそう言うと、冒険者達が片膝をついて頭を垂れていく。
一瞬『えっ!』と思うけど、何食わぬ顔で大人しく周囲に合わせて僕も片膝をつく。
「神よ! 祝福を与え給え!」
司祭がそう言うと、金色の水瓶の中が少し輝いた気がした。
司祭がそれを確認すると修道女の方を見て頷く。修道女は柄杓を使い、金色の水瓶の中から水を小瓶に移し替えていった。
「それではお並びください」
修道女がそう言うと冒険者達が素直に並び、修道女に銀貨を手渡して陶器の小瓶を受け取っていく。
なるほどな~、聖水ってこうやって作るんだね。
僕の番が来たので銀貨を渡し、聖水を受け取る。混んでいるので素早く教会から出て小瓶の栓を抜き、中を見てみると。
『聖水』
『不完全な聖水』
「……う~ん、なるほど」
予想通り半分。予想外半分。
これが本物の聖水なら聖なるモノなのだから僕なら鑑定出来るはずだと思っていたし。しかしその説明欄には『不完全な聖水』とあるのは予想外。
でもまぁ、不完全といっても現状はどうしようもない。これを使うしかないね。
◆◆◆
それからダンジョンに向かい、裂け目に入って一階に到着。一階を難なく直進し三〇分もかからず二階へ向かう裂け目に到着した。
「さて、と」
マスクと聖水を取り出し、マスクに聖水を少し垂らす。周囲を見ると、同じようなことをしている冒険者が複数いた。こうするとゾンビの臭みを少し中和してくれるらしい。
「シオン、マスク着けるよ」
「キュ?」
「この先、ちょっと臭いらしくてさ、これ着けてたらちょっとマシになるんだって」
「キュ……」
シオンが少し嫌そうな顔で『ヤレヤレ……』という感じに返事した。
シオンにマスクを結び、僕もマスクを装着する。
シオンには少しかわいそうだけど、どこかに預けることも出来ないし、今は連れて行くしかない。
準備が整ったので心を決め、二階への裂け目を抜けた。
「……」
「キュ……」
二階に入ると空気が変わったのが分かった。
雰囲気的な意味ではなく、そのままの意味での空気だ。微妙になにか臭う気がする。シオンも少し嫌そうな顔をしながら僕の肩からフードの中に戻った。
「とりあえずゾンビと戦ってみるかな」
地図を見ながら冒険者の間を抜け、草原から冒険者の少ない方へ向かっていく。
暫く歩いていると、ゾンビと戦っている若い冒険者パーティを見付けた。
「ウヴァァァァ」
ゾンビはボロボロの服を着た腐りかけの人間そのもの。移動速度は人の歩く速度とほぼ同じぐらいで、そこまでのスピードはない。ゾンビは謎の奇声を発しながらノソノソと冒険者へ向かっていく。
「やるぞ!」
「そっちに回れ!」
ターゲットにされている冒険者が棍棒を振り回しながら襲いかかってくるゾンビの両腕を叩き落とし、他の冒険者が横や後ろから棍棒でボコボコと殴りつける。しかしゾンビは耐久力が高いのか、あまり効いている感じがしない。
「オラッ!」
側面の冒険者が思いっきり棍棒を跳ね上げるとゾンビの片腕が宙を舞った。U一五規制が入りそうな液体がビチャビチャと飛び散る。
「ここだ!」
それを好機と見たのか、正面の冒険者が棍棒を横にフルスイング。ゾンビの頭が向いてはいけない方向にグルリと回転して千切れかけ、ゾンビはフラフラっと地面に突っ伏した。
「ヴォエエエエ!」
新手のゾンビか!? と思ったら冒険者の一人が吐く音だった。
「だからゾンビの腕は飛ばすなっていつも言ってんだろ! モロに顔にかかったわ!」
「しゃーないだろ! そうなっちまったんだからさ」
ボロ布で顔を拭いながら口論を続ける冒険者を見つつ「あれは大変だわ……」と呟く。
単純に戦闘力で比較するなら、ゾンビはモンスターの中では比較的戦いやすい部類だろう。スピードは遅いし。しかしそういう問題ではないのだ。
そして暫く歩くと僕にもゾンビと戦う機会がやってきた。
「ウヴァァァァ」
森の中にいたゾンビはこちらを確認するとノソノソと歩いてくる。
あまり接近したくないのでミスリル合金カジェルでゾンビの頭目掛けて突きを放ってみる。
「ヴァ……」
パンッと弾けるような音と共にゾンビの首がもげ、後ろにコロコロと飛んでいった。そして体の部分が液体を撒き散らしながら地面に倒れた。
「おぇ……」
「キュ……」
嫌な臭いが辺りに広がる。
しかしこれで終わりではない。もうここで帰りたいけど、魔石は抜いておかなければならない。つまりゾンビの腹を開く必要がある。
「あぁ……嫌だ嫌だ嫌だ」
とは言っても終わらないのでナイフを持ち、ゾンビの胸をえぐって魔石を取り出した。
「ダメだ……これは耐えられない! 不浄なるものに、魂の安寧を《浄化》」
浄化を使い、全身一気にキレイにする。
「ふ~! リフレーッシュ!」
とりあえず最初は物理で倒してみようと思ったけど、これはちょっと色々と耐えられない。別の倒し方を模索しよう。
しかしここに来て浄化という便利魔法が使える弊害が出てきたかもしれない。僕は汚れたらすぐに浄化でキレイにする習慣がついてしまっていて、汚いままでいることに慣れてない。そして最近は女神の祝福で魔力も増えてきて浄化を使っても一五%ぐらいしか魔力を消費しなくなってきているし、魔力は時間経過で回復するけど、敵を一体倒すごとに浄化を使っていてはすぐに魔力が枯渇するはず。
「これは思ったより苦戦するかも……」
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