第222話 本当の聖水
それからまたゾンビを探し、別の倒し方を模索してみることにした。
まずはターンアンデッドから。
この魔法は対アンデッド用の魔法だと分かっているけど、黄金竜の巣で見付けて以来、一度も使えてない魔法だ。
早速見付けたゾンビに対し、茂みに隠れながらターンアンデッドを放つ。
「神聖なる光よ、彷徨える魂を神の元へ《ターンアンデッド》」
ゾンビの体の周辺に光の輪が生まれ、異変に気付いたゾンビがもがくようにガクガクと震えたかと思うと光の輪が風に消えるように消滅し、そしてゾンビが崩れ落ちた。
そのゾンビに近づいて確認する。
ゾンビに外傷はなく、衣服の乱れもない。これは……完全犯罪だ!
……まぁ、これから外傷は付けるんだけどね。
ナイフを取り出し、ゾンビの胸に突き刺して魔石を取り出した。
このターンアンデッド、サックリとアンデッドを倒せるところは評価出来る。しかし……。
「う~ん、ちょっとないかな……」
魔力が一五%ぐらい減っている。これは浄化と同じぐらいの消費量。実にコスパが悪い。これならライトボールあたりで倒しておいた方がいい。
そう考えつつ森の中を彷徨い次のゾンビを見付け、素早く近づいて魔法を放つ。
「不浄なるものに、魂の安寧を《浄化》」
ゾンビはこちらに気付いて襲いかかろうとしたところで虹色のオーラに包まれ全身から白い煙を上げながら地面に倒れていった。
ゾンビが動かなくなってから近づいて観察する。
倒れたゾンビは全身の腐った肉や皮が浄化で中途半端に消え去り、一部の骨が見えてしまっている。
先程のように凶器がターンアンデッドの場合、外傷がなく犯行の証拠がなくなるけど、浄化の場合は全身に酷い外傷が出来て逆に殺人現場感が強まる感じだ。
「……さて」
ゾンビの服を調べ、ズボンのポケットを探る。
アンデッドを浄化で倒した時、またアイテムなどが変化するのか念の為にチェックしたいのだけど……。
「あっ、そうだ」
ゾンビのズボンのポケットの中に入っていたモノに手が触れた瞬間、思い出した。
それをポケットの中から引っ張り出す。
「銅貨か」
そう、ここのダンジョンでは一部のモンスターがお金を持っていることがあるのだ。
確か冒険者ギルドの資料室で読んだはずだけど、ついつい忘れていた。
親指で銅貨をピンッと弾き、キャッチする。
しかし、恐らく浄化でここのダンジョンのアンデッドを倒しても闇魔結晶が光魔結晶に変わるぐらいしか変化がないと予想している。
闇魔結晶を持つモンスターを浄化で倒すと魔結晶の属性が反転して光に変わる。これは外の世界でも確認したけど、手元にある闇魔結晶やカオスファイアの魔法書に浄化をかけても変化が起こらなかった。
なので魔結晶は例外として、浄化で敵を倒すとモンスターが落とすアイテムが変化するのは、所謂『迷宮型ダンジョン』だけの特殊ルールなのだろう。
エレムのダンジョンで魔法書をゲットした時に倒したスケルトンやゴーストは実際には魔法書を持っていなかったし、例の『しゃもじ』を落としたオークだってしゃもじを所持していなかった。つまりあのダンジョンでのドロップアイテムとは『倒したモンスターが持つアイテムの一部がその場に残ったモノ』ではなく『倒したモンスターに関連するアイテムがその場に出現したモノ』的な仕様で、そこに『倒し方によって出現するアイテムが変わる』的なルールがあるのではないだろうか。
要するに、迷宮型ダンジョンは特殊すぎて色々と意味不明! という話。
さて、気を取り直して検証を続けるとしよう。
次は聖水攻撃を確かめようと思う。ゲームとかでよく見るアレだ。
聖水を少し手に取り、ゾンビに向けてピシャっとブッかける。
「ヴァアア!」
ゾンビは聖水が付着した部分から白い煙を上げながら少し悶えるけど、致命傷には程遠い。ゾンビはまだこちらに向かってくる。
なるほどなるほど、聖水はこれぐらいの威力ね……。まぁこれは不完全な聖水らしいし、こんなものでも上出来でしょ。
若干の失望と共に、次はどの検証をしようか……と思っていると、フードの中から出てきたシオンが僕の肩の上に乗り遠吠えのように鳴いた。
「キュゥーン!」
するとシオンの鼻先にソフトボールぐらいの大きさがある虹色に輝く水の塊が現れる。
『聖水』
『浄化効果がある聖なる水』
「おぉん!?」
いきなり謎鑑定さんが反応して変な声を出してしまう。
シオンが出した聖水はゾンビの方にフヨフヨと飛んでいき、ゾンビの頭上で弾けた。
「ウバァァァァァ!」
聖水を頭からかぶったゾンビは全身から白い煙を上げながら悶え苦しみ、やがて地面にガクリと倒れ伏した。
「えぇぇぇぇ!」
するとシオンに光の渦が巻き付き、その体内に吸収されていく。女神の祝福だ。
「おぉぉぉぉ!」
ゾンビをミスリル合金カジェルの先端でツンツンと突いてみる。
「し、死んでる!」
冷静に考えるとゾンビは最初から死んでいる。
いや、そうではなくて……。もう! 情報量が多すぎる!
「シオン! いつの間にそんな謎魔法を! よく分からないけど偉いぞ! そして女神の祝福おめでとう!」
「キュキューン!」
シオンが得意そうに鼻を高くした。
これ、感覚的に魔法だと思ったけど本当に魔法なのだろうか? 今までシオンに魔法書なんて読ませたことなんてないし……。いや、モンスターでも魔法を使う種族もいるらしいけどモンスターが魔法書を読むとはあまり考えられない。特に動物系のモンスターだと……。
おっと、今はそれよりも大事な問題がある。
背負袋から鍋を取り出す。
「シオン、さっきの水……聖水をここに、出せる?」
「キュ」
するとまたシオンの顔の前に虹色に輝く水の玉が生まれ、鍋に落ちた。
『聖水』
『浄化効果がある聖なる水』
「やっぱり聖水か……」
聖獣だから聖水を生み出せたのか? この聖水と買った聖水の違いは?
「シオン、もしかして他にも魔法、使えるの?」
「キュ?」
シオンは首を傾げながら聖水の塊をまた生み出した。
なるほど。どうやら使える魔法はこれだけのようだ。
聖水を鍋に入れてもらい、手持ちの水筒から安い葡萄酒を捨て、水筒を浄化でキレイにしてから聖水を詰め替える。そして恐る恐るそれを口に含む。
「んん! 美味い!」
味は普通に美味しい水。問題なく飲める。これからは葡萄酒の替わりに聖水を飲んでもいいかもしれないね。流石に聖水だし体に悪いとかはないだろう。いや、もしかすると聖水ばかり飲んでたらおしっこも虹色オーラを放ちだし、これが本当の聖……おっと、これ以上は放送コードに引っかかる。
まぁそれに他人に見られたら面倒そうだしね。基本的にはいつも通り薄い葡萄酒にしておこう。
そしてシオンが女神の祝福を得た。今までシオンは生まれたばかりだったから考えてこなかったけど、こうなったらシオンのレベリングをした方がいいかもしれない。
聖水でここまでのダメージを与えられるのは恐らくアンデッドだけ。とすると聖水で一撃で倒せるゾンビが湧くこのエリアはシオンにとってまたとないチャンスだと思う。ゾンビなら反撃も受けないし安全だし。ここを逃すと次はないかもしれない。
僕としては、以前エレムのダンジョンでDランクのスケルトンやオークをソロで狩れてたし、Eランクのゾンビしか出ないこのエリアに魅力は感じなかった。なので一通り調べ終わったらすぐに抜ける予定だったけど、こうなったら事情が変わってくるね。
「よしっ! この階はシオンのレベル上げをするよ!」
「キュ?」
「シオンを強くするってことさ」
そしてゾンビから魔石を抜き、次のゾンビを探し始めた。
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