第317話 司祭様に話を聞きに行こう
すみません。
諸事情あって更新が遅くなってしまいました。
異世界ではどういう武術や武器が生まれるのか、地球での事例から深く考察する。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885207682/episodes/1177354054912589837
◆◆◆
二人と別れて冒険者ギルドを出る。
冒険者ギルド前の通りは行き交う人も多く賑わっていた。
この辺りは特に戦闘が激しかったようで、冒険者ギルドの前の店は建物の壁が崩壊していて大工らしき男が壁石の積み直しをしている。
革命から数日経つが、まだ町の至る所にその爪痕が残っているように感じる。が、住民らの顔に暗い色は見えない。むしろ希望に満ちた色が僕には見える。
結果として、この町は良い方に向かっているのだろう。
◆◆◆
「あっ、司祭様」
ステラ教会を訪れると数日ぶりに司祭様を見付け、声をかける。
革命の日から毎日のように教会に顔を出すようにしていたのだけど、司祭様はお忙しいのか一向に出会えなかったのだ。
「おぉ、ルークさん。ご無事でしたか」
「司祭様もご無事でなによりです」
挨拶もそこそこに本題に入っていく。
「それで、例の怪しい男らについてと、ジョンについてはどうなったのでしょうか? 進展はありましたか?」
「そう、ですね……」
司祭様は目を伏せ少し言い淀むような素振りを見せる。
なんだろう? なにか言いにくいことでもあるのだろうか?
「さて、どこまでお話すべきなのか――いや、ルークさんにはある程度のことは知っておいてもらうほうが良いかもしれませんな」
なんだか非常に微妙な言い回しというか、微妙に面倒そうな話の予感がするというか……。
「例の怪しい男らの正体は……お恥ずかしながら大教会に非公式に属する裏の組織の人間だったのです」
「教会の裏の組織……」
「はい……。以前――私が大教会に所属していた頃にはそのようなモノは存在していなかったはずなのですが、一部の司祭が独自に裏の非合法な活動をするために作っていたようで……」
おいおい……あの男達が教会の一員だった、か……。
教会がああいった暴力的な行為を行う組織を抱えていたという事実。
なんとも言い難い情報に頭が混乱する。
今まで教会に関係する人でそんなに嫌な人に会ったことはなかったけど、やはり教会勢力を完全に信用するってのは危ないのだろうか?
「それで……僕らはどうなるのでしょうか?」
非公式とはいえ教会に属する勢力と対峙してしまったことには違いない。
状況によっては僕もジョンらも今すぐこの町から離れなければならないけど……。
「そちらについてはご安心ください。その組織は既に解体しておりますし、彼らや関係者も既に捕縛済みです。教会運営に関しましても新しいモノに刷新中ですから、もう心配はありませんよ」
「もう大丈夫……ですか」
教会という組織への信用が揺らいだ後だけに、その言葉をどこまで信じてよいものか判断に迷ってしまう。
本当に組織が解体されたのか。そもそもこの司祭様をどこまで信用してもよいものか……。
「ご不安は当然でしょうな。しかし、これに関しましては私を信用していただく他になく……」
まぁ実際のところ、明確な警察組織も明確な法律も確実な科学捜査も、カメラもレコーダーもない世界な以上、こういった場合、最終的には誰かの言葉を信用するしかないわけで、特に権力があるわけでもない僕が踏み込めるのはここまでだ。
後はそれを聞いて自分自身がどう判断するかしかない。
「分かりました」
とりあえず今は納得しておくことにして、詳しい情報などを司祭様から聞いていった。
ジョンがこれからどうなるか、とか。教会がどうなるのか、とかね。
そして一通りの話を聞いた次にずっと気になってきたことを聞いていく。
「それで結局、あの廃坑の奥にあった祭壇は、どういう意味があるモノだったんですか?」
廃坑の奥、偶然崩れた壁の奥から現れたユニコーンが描かれた祭壇と、僕の謎鑑定で見えた『聖馬の門』があった場所。
気になるのはどうして教会があの祭壇に目を付けたのか、だ。
恐らく聖女ステラが関連する場所だろうと思うし、聖女に関係する遺跡なら教会が興味を持つのは当然だけど、どうして裏の組織まで使って強引に事を進めたのかが見えてこない。
教会なら堂々と表から正式に調べれば済むはずの話なのにだ。
司祭様は「これは私の推測も入った話になってしまうのですが」という前置きの後、話し始めた。
「あの場所は、このステラ教会の名の由来にもなった聖女ステラ様がユニコーンに祈りを捧げたと伝わる伝説の祭壇で間違いないでしょうな。文献にその存在は記されていたのですが、長年場所が特定出来ずにいたのですが……。恐らく彼らは聖女の謎に迫る鍵がそこにあるとでも思ったのでしょう」
「聖女の……謎?」
「……えぇ。聖女とは神によって選ばれた神聖なる存在なのですが、嘆かわしいことに、そこに疑いを持つ者が教会の中にも一部存在するのです。そういった者達は聖女の出生に謎を感じている……。彼らの過激派の中には聖女がどのようにして生まれ育つのかを解析し解き明かせば人為的に聖女を生み出せるのでは、と考えている者もいるのですよ」
聖女を意図的に生み出す?
「えぇっと……では、彼らは聖女ステラの足跡を調べれば聖女を生み出す方法が分かると考えていた、と?」
「そうなのだと思います。彼らは聖女が貴賤の上下や信仰の大小を問わず生まれてくることに疑問を持っていました。そして――これはこの国でも知る者は限られているのですが、ステラ様はこの町のスラムの生まれであると一部の伝承に残っているのです。つまり、恵まれない環境で生まれ育ったステラ様の人生には、どこかに聖女として覚醒出来た未知の理由、キッカケのようなモノがあったはずだと、彼らはそう考えたのでしょうな」
そもそも『聖女』の定義ってなんだろう。
神聖魔法が使えること……でいいのだろうか?
……いや、エレナは神聖魔法が使えなくても聖女と呼ばれているか。
気になったので、その辺りの疑問を司祭様にぶつけてみた。
「そもそも聖女ってなんなのです? エレナは聖女と呼ばれていますよね?」
「……聖女とは神に選ばれし、神の権能を宿す存在であると教会本国から認められた人物のこと。なので正式にはエレナさんは聖女ではありませんな。勿論、彼女の行いは聖女と呼ばれるに相応しいモノだと思いますが」
神の権能を宿す……か。
それはやっぱり神聖魔法のことでいいのだろうか?
司祭様は言葉を続ける。
「そしてステラ様も厳密には聖女とはされておりません」
「えっ? でも『聖女ステラ』なんですよね?」
なんだかややこしくなってきたぞ。
聖女なのに聖女じゃない? どうなってんの?
「本来、聖女は神聖テスレイティア教国でお生まれになり、教会によって導かれて聖女になられる。なのでこの国にお生まれになったステラ様は聖女認定されておりません。だから正式には聖女ではないのです。ですがステラ様はその行いによって人々から聖女と呼ばれるようになった。そう、今のエレナさんのように」
司祭様は教会の奥にあるテスレイティア像を見つめる。
「そうしてステラ様を想う民衆の手によって建てられたのがこのステラ教会なのです。だからここは正式には神聖教会の施設だとは認められていないのです」
司祭様は「なので教会からの支援も受けられず、万年金欠なのですよ」と続けた。
う~ん……つまり教会が認めた本家本元プロフェッショナル聖女と、民間で勝手に発生したアマチュア聖女がいるって認識でいいのだろうか?
……アルファベット三文字系アイドルグループかな?
まぁしかし、エレナは恐らく神聖魔法を使えないと思う。でも、聖女ステラは神聖魔法を使えたはずだ。
つまり神聖魔法は神聖テスレイティア教国で生まれたとか教会に認められたとかは関係なく、使える人は使えるし使えない人は使えないのだろう。
僕だって教会とは関係ないが神聖魔法を使えている。
「私を含め、ステラ様を慕う者達にとって、あの祭壇の発見は悲願でした。今まで多くの信徒が探し求めた場所がついに発見され……。これで多くの信徒が喜びに震えることでしょう……」
「……そうなんですね」
確かに、自分が崇めている対象に関連する名所が発見されたら嬉しいよね。
人気アイドルの実家みたいなモノだろう。
今後あの場所は聖地化でもするのだろうか? 本来の意味ではなく、新しい観光地みたいな意味で。
「しかし、あの祭壇を覆うように存在している透明な壁のようなモノはなんなのでしょうか? あれのせいで祭壇を調査出来ないのです! どの文献にもあんなモノが存在するとは書かれていなかったのに……」
ん? あの祭壇を覆うように存在していたバリアのようなモノが過去には存在していなかった?
なんだか違和感があるぞ……。
「あの透明な壁って昔はなかったんですか?」
「えぇ、そのはずです。昔は一般の人もあの祭壇に登ったりしていたと書かれていましたから」
ちょっと待てよ。
聖女ステラの時代には祭壇はあったけどバリアはなかった。
つまりその後にあのバリアが現れ、あの場所自体も埋まってしまって場所が分からなくなった。
だとすると――
「聖女ステラがあのバリアを設置した?」
極振り拒否して手探りスタート! 特化しないヒーラー、仲間と別れて旅に出る 刻一(こくいち) @kokuiti
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