ヒーラーの不思議な迷宮編

革命の後

第316話 プロローグ

「――ということがあったんですよ!」


 ザンツ王国の王都ソルマール、その冒険者ギルドの二階にある一室――僕らにとってはいつもの部屋で優雅にお茶を飲みながらエレナから僕が知らない間に起こった事の顛末を聞き、思わず「えぇ……」と声を漏らしてしまう。

 なんというか……普通にビックリとか通り越してドン引きなんだが。


 先日、僕がいつものように依頼を受けて町の外に出ている間、どうやらこの国では革命が起き、王族やその重臣らが即日処刑され、その革命の中心人物であるサリオール伯爵による統治へと移行したとかなんとか……。

 以前エレナに偉そうに絡んでいた若い男も実はこの国の王子だったらしく……詳しくは聞いていないが末路はお察しだろう。


「展開が早すぎるんだが……」

「?」


 僕がいないところで全てが始まって全てが終わっていた……。

 普通、もうちょっとこうさ、事前に色々と予兆とかあるモノじゃないの? そんな一日でいきなり事が起こって国が変わるとかある? ……というか、今この国って本当にザンツ王国なんだろうか? 革命が起きたなら国がぶっ壊れて別の国になっている可能性もあるんじゃないの?


「で、エレナがそのサリオール伯爵の娘であると」

「はい。今まで黙っていて申し訳ありません……」


 エレナが申し訳なさそうに言う。

 エレナリア・サリオール、これがエレナの本名であり、サリオール伯爵の娘なんだそうな。

 サリオール伯爵は僕がここソルマールに来る前に立ち寄ったルバンニの町の領主で――今回の革命の首謀者と噂されている。


「防衛上の問題で軽々しく身分を明かすわけにはいかなかった。理解してほしい」


 窓際でイスに腰掛けていたマリーサがそう言った。

 マリーサも革命の折のゴタゴタで瀕死の重傷を負ったらしいが、エレナによると僕が試しに召喚した例の駄馬がいきなり現れて治療し一命を取り留めたらしいのだ。


「あぁ、分かってるよ。僕も事情があるんだろうとは思ってたしさ」


 エレナの身分が高いっぽいことは最初から分かっていたし、彼女らが言ってこない以上は聞かない方がいいのだろうとも思っていた。

 好奇心は猫を殺すと言うが、世の中には知らない方がいいこともある。

 下手に知ってしまうと面倒な状況になったりするかもしれないしさ。


「でも先生! 本当にユニコーンって凄いんですよ! 私達の絶体絶命の危機に颯爽と現れてマリーサを一瞬で治してしまったのです! そして私達の先頭に立ち、我々を導いてくださったのです! きっと私達を不憫に思い駆けつけてくださったのでしょう……あぁ神よ……」


 今日何度目かのユニコーン話をしながら、またエレナは神に祈り始めた。

 どうやらエレナの中ではピンチを救ってくれたユニコーンが異常に神格化されているようで、何度もユニコーンの素晴らしさについて語ろうとしてくるのだ。


「あの駄馬にそんな意図があったとは思えないんだけどなぁ……」

「なにか言いましたか?」

「……いや別に」


 でも、よく考えたらユニコーンも神獣なんだし、神格化っていうか神格ではあるのか?

 だとするとエレナの考え方も間違ってはなくて――いや、神獣は神の獣だから違うのか? 神様が犬を飼ったとしても別にその犬はただの犬であって、ただの犬がいきなり神になるわけじゃないし。獣神だと獣の神だから神なんだろうけども。


「ところで、この国ではユニコーンが凄く重要視……というか神聖視されてるよね?」

「勿論そうです! なんといっても聖女ステラ様が騎乗されていた話が有名ですから! ステラ様は常にユニコーンと行動を共にされ、この国に降りかかるいくつもの難題を解決されたと伝えられています。なのでユニコーンはこの国では希望の象徴なんです!」

「へ~……」


 ユニコーンを駆り、難題を解決していく聖女様か……。

 なんとなく、ユニコーンにまたがって草原を駆ける聖女様をエレナで想像し脳内再生してしまう。

 そう考えると幻想的な姿かもしれないな。当時の人々がそれを見て伝承として残したくなる気持ちも分かるし、ユニコーンが神聖視されたのも理解出来るかも。

 それにしても、聖女ステラがユニコーンに騎乗していたとなると、彼女が神聖魔法使いなのはほぼ確定なんだろう。

 もしかすると過去には野生のユニコーンがそこらに生息していた可能性もあるけど、廃坑の奥で見付けた例の『聖馬の門』でユニコーンが召喚出来るようになる『サモンユニコーン』の魔法を覚えられたことを考えると、聖女ステラもあの場所でサモンユニコーンを覚えた可能性の方が高いと考えていい。


「う~ん……」


 となると、気になることがいくつか出てくるな。

 あの廃坑にあった祭壇がどうして壁の中に埋まっていたのか、とか。

 祭壇の上にアナライズの魔法書を置いたのは誰か、とか。

 いや、それ以上にもっと気になることもある。

 まぁでも、今はそんなことよりも――


「とにかく、二人が元気そうで安心したよ」

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