第307話【閑話6】密談

306話、一部だけ改定しました。

拐わせようとしているのを『スラムの新参者』と変えました。


それともう一つ。

今更ですが、最近は一日に複数話アップロードする日もあったので、読み飛ばしにご注意ください。



―――――――――――



 大きく豪華な会議室の中、これまた大きく長い重厚なテーブルの一席に男が座っている。

 その男は上質そうなコートを身に纏い、優雅にお茶を飲みながら誰かを待っていた。

 暫くすると大きな扉がコンコンとノックされ、大きな男が入ってくる。

 その男は腰に立派な剣を差し、背中に上質な布で作られたマントをなびかせ、その大きく筋骨隆々な体で周囲を制するように力強く歩いて、座っている男の反対側の席に着いた。


「待たせたな、内務卿殿」

「こちらも来たばかりですよ、将軍閣下」


 お互いありきたりな挨拶もそこそこに、すぐに本題に入っていく。


「王太子殿下がまたやらかしたそうだな」

「えぇ……本当に頭が痛いことです」


 ラディン商会による鉱石の買い取り延期の許可。

 国営事業で国の財政を支えている鉱石の販売を延期するという暴挙により国の財政は逼迫していた。


「それを追認した公爵閣下も、また問題であるな」

「王妃殿下の兄で王太子殿下の伯父という立場を最大限活用されているようで……。大方、ラディン商会と裏で色々とあったのでしょう」


 重大な問題が起こっているというのに二人の顔には切迫した焦りの色はない。むしろ二人共に余裕すら見える。


「だが、その状況も、やりようによっては上手く使える、か」

「えぇ、その通りです」


 二人は顔を見合わせ、口の端を釣り上げた。

 内務卿は言葉を続ける。


「減った予算は増税で補いましょう。そして争いの空気を演出することで……金属の需要を高める」

「うむ。古来より金属の価格が高まるのは戦時であるからな」

「そうすれば鉱山が再開され内需は回復し、軍の重要性が見直されて――」

「軍事費増強案が通りやすくなる、か」

「いいえ、通して見せますよ。将軍閣下にご協力いただけるなら、ですが」


 二人はまた口の端を釣り上げる。


「問題はどこに火種を作るか、だが……」

「今は万が一にでも外に敵は作りたくありませんよ」

「分かっているとも。つつくのは内部……サリオール伯爵領にする。最近、あそこの村でラディン商会が食料の買い取りに失敗してな」

「なるほど……それなら軍を動かす名分も立ちましょう。そのうえ……ラディン商会が得るはずだった食料を別の商会に流してやればラディン商会を弱体化させることが出来、ひいてはそれを庇護する公爵閣下の派閥を弱体化させられると」

「うむ。一石二鳥というヤツだな」

「それに――」


 内務卿は将軍の言葉に被せるように言葉を続けた。


「その流してやる商会を将軍閣下と近しい商会にすれば、将軍閣下の懐も大層温かくなるのでしょうね。一石三鳥とでも言うのでしょうか」

「うん? ……まぁ、そういうこともあるかもしれんな」


 二人は顔だけで笑い、相手の目を強く見つめ合う。


「ところで、サリオール伯爵が今回の作戦の後にもことを起こさないと将軍閣下は確信されておられるのですか?」

「ん? あぁ、アレは起こさぬだろう。あの家には昔からそんな度胸などない。それが出来るのなら我が国への併合など許さず戦い、とっくの昔に滅ぼされていただろう」

「なるほど……」

「それに、サリオールの子もまだ学院にいるのだろう?」

「えぇ、在籍してますね」

「人質がいて反旗を翻せるような蛮勇など、あの家の者は持ち合わせておらんわ。精々、遺憾の意を伝える手紙が届いて終わりよ!」


 将軍は小さく笑った。


「それにだ。仮にサリオール家が反旗を翻したとして、それがなんだ。所詮は田舎貴族。ものの数ではない! 王都に駐留する騎士団だけで捻り潰してくれるわ!」


 そう言って豪快に笑う将軍に対し、内務卿は『その田舎貴族に食料の大部分を頼っているのが我が国なのだがな』と思いながら、小さく「それは頼もしいですね……」と返した。


「……後は、王太子殿下を少しつついてみるのも面白いかもしれませんね」

「ほう?」

「少し焚き付けてやれば揉め事を起こして火種を少し大きくしてくれるかもしれません」

「確かに、面白いかもしれんな」


 そうして二人の密談は続き、作戦の細部が詰められていった。


「それでは将軍閣下、計画通りよろしくお願いしますよ」

「あぁ、内務卿殿も軍事費増強の件、期待しているからな」


 二人は固く握手を交わす。そして並んで部屋から出ていくのだった。

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