第306話【閑話5】組織の男
暗い暗い部屋の中、机に置かれた一つのランプの明かりだけが周囲を照らす。
そのテーブルに両肘を突き、なにかを考えているように見える男が一人。
そんな沈黙と暗闇が支配する部屋にドアをノックする音が響いた。
「入りなさい」
男がそう言うと、ドアが開いて白いローブの人物が入ってくる。
その人物は軽く一礼した後、一言も発さない。
「実験体を入手しなさい。分かっているとは思いますが、町とは関わりの薄いスラムの新参者にするのですよ」
男がそう言うと白いローブの人物は一礼し、すぐに部屋から退出していく――が、それを男が「そうだ――」と引き止めた。
男は言葉を続ける。
「例のキノコも採取してきてください。アレもそろそろなくなりそうです」
白いローブの人物は肩越しに振り返りながらその言葉を聞き、軽く頷く。そして部屋から出ていった。
「……」
またその部屋に静寂が戻ってくる。
ランプの中でジジッと油が跳ねる音だけが響く。
男は立ち上がり、ランプの火を吹き消して呪文を詠唱した。
「光よ、我が道を照らせ《光源》」
魔法の光が宙に舞い、部屋全体を明るく照らす。
男は白いローブの人物が入ってきた扉とは違う扉から出ていき、光源の光の玉と共に消えていった。
今度こそ、その部屋は沈黙と暗闇を取り戻した。
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