第121話 マギロケーション改良

「ゴホッゴホッ……風邪でも貰ったかな?」

 黒いスライムを倒しつつ、壁から突き出ている黒い水晶の内、大きい物や綺麗な物を選んで採取し、謎の汚れが積もって黒く染まった廊下を進む。


 テスレイティア――それはこの世界、テスラの最高神である女神の名。女神の祝福の★女神★とは、このテスレイティアを指しているのだろうし、この世界の名、テスラもこの女神由来なのだろう。

 最高神、と聞いた時、まず最初に思い出したのは例の白い空間で出会ったあの男だったけど、どうやらあの男は最高神ではないらしい。だとすればあの男は何者なのだろうか。気になるところだ。

「あー……もしかして、転生担当大臣ならぬ転生担当神とかだったりして」

 だったらちょっと面白いかも。

 そう考えると、あの無愛想で怖そうだった男が急にリアルな存在に思えてきて、少し楽しくなってきた。


 暫く歩くと十字路が見えてきた。どの道が正解かを探るためにマギロケーションの範囲を広げたけど、よく分からない。

「ここが神殿的な何かだとするなら、真っ直ぐに進むのが正解な気がするけど……」

 ゲームじゃないんだし、ここが実用的な教会とか神殿として作られたなら、迷路みたいな構造にはしないはず。まぁでも、最高神テスレイティアの像があった部屋が神殿の最奥だと仮定した場合の話になるのか。

「何にしろ右の道から確かめるんだけどね」

 RPGではマップの隅々まで調べて宝箱は全て取らないと気が済まない派だったんだよね。正解のルートが中央なら左右から確かめたい。


 右に曲がって進むと通路の左右に規則的に並ぶ空間の反応があった。

 黒い汚れにドアが埋もれているのか目視は出来ないけど、恐らく小部屋が並んでいるのだと思う。

「不浄なるものに、魂の安寧を《浄化》」

 ドアがありそうな場所に近づいて範囲を絞った浄化を使うと黒い汚れが白い粒に変わって地面にパラパラと落ち、壁から木製のドアが現れた。そして出てきたドアノブを握り、古くなってギシギシと音を立てるドアを無理やり開くと、現れたのは黒く染まった小部屋。全体が黒い汚れの層で覆われているけどシルエットから机、イス、棚、ベッドだと何となく分かった。

 どうやらここに住んでいた人が寝泊まりしてた部屋らしい。

 棚の中に何もなさそうな事を確認してから机の引き出しを手探りで開け、中に浄化をかけて何かないか調べていく。しかし特に何も見つからなかった。

「う~ん……」

 全ての部屋を調べて宝探しをするのはいいとしても、こんなやり方をしていたら日が暮れてしまうし、それ以前に浄化の使いすぎで魔力が切れてしまう。

「もうちょっと、こう、何か――」

 ――って、マギロケーションを上手く使えば何とかなるんじゃないだろうか? 範囲を広げると魔法が分散されるのか、情報が薄れて曖昧になっていたし。逆に範囲を狭めて魔法を濃縮すればもっと詳しい情報が読み取れるようになる気がするんだよね。

「やってみる価値はあるかもしれない」

 机の横にあるイスを浄化で綺麗にしてから腰掛け、目を瞑って集中していく。



◆◆◆



「う~ん……どうしますか」

 外套を敷いた木枠だけのベッドの上に寝転がり、乾燥肉を口に咥えながら考える。


 あれから試行錯誤の末、マギロケーションの範囲を一メートルほどにまで短縮する事が出来るようになり、その範囲内限定でより詳細な情報が得られるようになった。今までの一〇メートル範囲では表面的な情報しか得られなかったけど、一メートル範囲では目視以上の詳細情報が得られている。これによって浄化で綺麗にしなくても引き出しの中まで調べられるようになった。これはまさに透視能力!

「……」

 何となくアレな考えがちらりと頭に浮かぶ。

 まぁ、男の子だしね!


 ……さて、マギロケーションを範囲縮小する事が出来た後は小部屋を順番に回って使えそうなアイテムを回収。右の通路の小部屋を調べ終わった後は左側の通路の方も全て調べた。それは良かったのだけど……。

「熱中しすぎて時間を使いすぎた!」

 時計がないから正確な時間は分からないけど、マギロケーションの練習に数時間は使っていた気がする。そこから小部屋の探索に一時間程。山の頂上から地下に入ったのは昼前で、そこから女神像まで二時間程度だと考えると――

「既に日が沈んでいてもおかしくない……」

 この小部屋で一泊する事が確定した。


 そして大きな大きな大問題が一つ。

「何なんだろ、アレは……」

 中央の通路を進んだ先。マギロケーションの最大範囲の端に引っかかった大きな反応。

 巨大モンスターだ。

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