第122話 覚えられない魔法と巨大な影

「さて、と」

 ベッドから起き上がり、机の上に積み上げられた今日の戦利品を一つ一つ確かめていく。

 まずは部屋の中に落ちていた銀貨と銅貨。変色はしていたけど意外と普通で、古代の硬貨とかではなく、普段使っている物と同じだった。この場所がこうなったのが比較的最近なのか、それとも硬貨が昔から変わっていないのか、それは分からない。

 そして魔法書。これは通路の一番奥の倉庫に保管されていた。まず生活魔法の魔法書が六種類、二セット。そしてヒールの魔法書、ディスポイズンの魔法書、ストレンジスの魔法書、アーススキンの魔法書。ここが神殿だからだろうか、回復補助系の魔法書がいくつも保管されていた。

「まぁ、僕はまだ覚えられないみたいだけどね……」

 今まで読んだ本や、例の白い空間で得た情報などから考えると、魔法――六属性魔法は適正があれば習得条件が緩和されるだけで、基本的にレベルさえ上げれば誰でも習得可能なはず。南の村にいた頃は仕方がないにしても、一四レベル程に上がっている現時点でも生活魔法すら覚えられないのは驚いた。

「それにヒールも覚えられないんだもんなぁ」

 ヒールは光属性の回復魔法のはず。僕は光属性の適正を持っているはずだから覚えてもいいはずなんだけど、覚えられなかった。つまり、まだレベルが足りないのだろう。

「そう考えると、回復魔法って難易度高すぎなんじゃないかな?」

 光属性持ちの僕がDランクになれるまでレベルを上げても覚えられないのだからね。まぁ僕は光属性Ⅱだったはずだし、ⅢとかⅣの適正がある人ならもっと早い段階で覚えられるのだろう。


 数々の戦利品を魔法袋に詰め込んでイスから立ち上がり、ベッドに座って壁に背を預ける。

 他にも生活用品やナイフや服などを見付けたけど、全てボロボロになっていたり錆びていたりしたので放置してきた。そんな中でも魔法書だけが普通に残っていたのは驚きだけど、そういうモノなんだろうと納得しておく事にして、ゆっくりと瞼を閉じた。



◆◆◆



「光よ、我が道を照らせ《光源》」

 意識が覚醒してすぐに光源の魔法で灯りを確保した。

 そして前に起きた時と変わらない室内と自分の体を見てホッと胸を撫で下ろす。


 この部屋で一泊すると決めたものの、得体の知れない黒いスライムが徘徊していたエリアで眠るのは勇気が必要だった。周囲の黒いスライムは全て排除したし、ドアはちゃんと閉め切っているものの、あのスライムがどうやって発生してるのかが分からないし、スライムならドアの隙間から侵入出来る可能性もあるし、怖くて座ったまま眠る事にしたのだ。そして熟睡しないまま何度か覚醒と睡眠を繰り返して今に至る。

 洞窟の中の閉め切られた部屋の中だとホーリーファイアのランタンも使いにくいし。このまま旅を続けるなら、もう少し安心して外で夜を越せるように何か考えないとね。

「というか、秘境とか前人未踏の地を巡るならそういうのって必須だよね」

 もしかするとモンスターが物凄く多い場所に秘境があるかもしれない。そういう場所でも安心して眠るための手段は必要だろう。もしくは、どこかの街のエロいスイーパーみたいに殺気を感じたらすぐに目が覚めるような特殊能力を身につけるか……。

「それは無理かな」

 少し考えたけど、そういう能力を得られるような気がしなかった。

「……でも」

 何となくだけど、いつか何とかなりそうかな、という根拠のない自信のようなモノが頭の中に浮かび、そして消えた。



◆◆◆



 黒と闇に染まった神殿の外の世界。神殿の通路の壁に背を貼り付けるように隠れながら外を見た。見た、といっても光源の魔法は消してあるので目には見えてない。マギロケーションを通しているだけだ。

 神殿の外は広い洞窟。天井は三〇メートル以上あり、奥行きはマギロケーションでは見えないほど広い。地面や壁には黒い水晶がいくつか飛び出しているのが分かる。

 そして神殿の前にいる黒くて巨大な塊。塊といっても形は不定形。うねうね動いたり、プルプル体を震わせたり……そして今は地面に広がりながら体を波打たせている。

「スライム、か……」

 大きさはグレートボアぐらいありそうだけどね……。


 今まで戦ってきた小さな黒いスライムでもDランクかCランクぐらいあった。つまりこの大きなスライムは最低でもBランク……。

「……いや、これ、勝てる……のか?」

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