第108話 始まりはいつも突然①

 冒険者ギルドの二階。資料室に続く通路の途中にあった何に使うのかよく分からない部屋の一つ。そこで僕と彼女――ミリルと名乗った冒険者ギルドの受付嬢がテーブルを挟んで向かい合って座り。部屋の入り口の近くには熟練の戦士の雰囲気を纏わせる四〇代の男性が腕を組み、壁に背を預けながら立っていた。


「早速ですが本題に入らせて頂きます」

 彼女の言葉に僕が短く「はい」と返すと彼女は言葉を続ける。

「我々、冒険者ギルドは、冒険者の皆様の冒険者活動をサポートするため日夜ダンジョン及び周辺モンスターについての情報を収集しております」


 本題に入ると言いつつも本題に入らない彼女の言葉を聞きつつ、入り口の近くに立っている男性をちらりと盗み見る。

 適当に切り揃えた白髪混じりの黒髪を後ろに流し、顎には髭を蓄え、顔にはその人生を示すような深いシワを刻んだ全身黒ずくめの男は、鎧こそ着ていないものの腰には短めの剣を差していて――何かあれば即……という雰囲気があった。

 確かに、若い冒険者と若い受付嬢を密室で二人きりにするのは良くない。誰かもう一人ぐらいは同席するべきだろう。

 しかし――


 ちょっと威圧感ありすぎじゃないですかね……。


「冒険者ギルドとしましては、ダンジョン内に出るモンスターの情報、そしてダンジョンから産出するアイテムについての情報も常に把握しておくべきだと考えています」

 中々核心部分にたどり着かない遠回しな前置きに「はあ」としか返せない。

 しかし何となく最初から感じている嫌な予感が少しずつ、じわりじわりと膨らんできていた。


「仮に一人の冒険者が発見した情報を自らの利益のために秘匿したとしても、それを我々冒険者ギルドが咎めるような事は出来ません。しかしです。もし、その冒険者の方が何らかの事情で冒険者を続けられなくなったり、別の町へと移られたりして、貴重な情報が永久に誰にも知られる事なく消失したとしたら……それはもったいない事だと思われませんか?」

 ミリルの問いかけには、「はあ、まあそうですね……」と無難な返答に留めておく。

 僕のその言葉を肯定と捉えたのか、ミリルは話を続けた。

「ルークさん。我々はそういう情報を提供して頂きたいのです。勿論、タダでとは申しません。貴重な情報にはそれなりの対価が必要でしょう」

 そう言ってミリルは机の下からパンパンに膨らんだ布袋を取り出して机の上に置く。

 布袋が机とぶつかり、ジャリっと金属がぶつかり合うような音が聞こえた。


「金貨で二〇〇枚、用意しております」


 その金貨二〇〇枚という言葉にピクリと反応してしまう。

 話のスケールがどんどん大きくなってきている。その事を肌で感じて心臓の鼓動が少しずつ早くなってくる。

 ミリルは僕の反応を確かめるようにしっかりと僕の目を見つめ、そして言葉を続けた。


「ルークさん。この金貨二〇〇枚で――光の魔結晶をどのような方法で入手したのか、教えて頂けませんでしょうか?」


 彼女のその言葉を聞いた瞬間、体が何か反応する前に目を閉じた。

 怪しまれるかもしれないけど、何か悟られるよりはマシだ。

 自然と早くなりそうになる呼吸を意識的に抑え、心を落ち着かせ、そして目を開ける。


 こうなる可能性については考えていた。

 いや、正確に言うと、、と先日その可能性に気付いただけで。どういう問題があるかはまだ予想出来ていなかったし、そもそも実際に問題が起こるかどうかについても検証途中で確信はなかったのだ。


 全ての始まり――最初に違和感を持ったのはスケルトンからホーリーファイアの魔法書が出た時だろう。あの時、闇の存在っぽいスケルトンから神聖魔法の魔法書が出るのはおかしい、と思った。しかしダンジョンではモンスターとはまったく関係のないハズレアイテムも出るのだし、そういう事もあるか、と自分を納得させた。

 次に違和感があったのはゴーストから光の魔結晶が出て、そしてそれを冒険者ギルドに売った後の事だ。あの時も、どう見ても闇っぽいゴーストから光の魔結晶が出るのはおかしいと思い、そして考え、悩み、思い出し、一つの可能性に辿り着く。


 、可能性にだ。

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