第158話 ヒールについての考察
自室に戻り、ベッドに腰掛けて背負袋から取り出した魔法書を読んでいく。
パラパラとページをめくり全て読み終わると、いつものように魔法書は炎に飲まれて消えていった。
そして頭の中に残るヒールの魔法の知識。
「いつものことながら、やっぱり不思議だ」
そうつぶやき、フードの中にいるシオンを引っ張り出しベッドの上にぽすんと置いて、その手にまとわりついたり甘噛みしてくるシオンを片手でワシャワシャとあやしながらヒールについて考えていく。
このヒールの魔法書を買った理由。それは単純にカモフラージュ目的だ。今までは小さな傷でもホーリーライトで治してたけど、人前で使えば使うほどバレる可能性は上がるわけで、可能なら一般的な回復魔法に切り替えていきたいところだった。
以前、南の村でハンスさんが言っていたように、弱い回復魔法では大きな傷は治せないらしいので、最下級の回復魔法であるこのヒールではあまり大したことは出来ないかもしれないけど。それでもこれでホーリーライトを使わなくても堂々とヒーラーを名乗れるわけだ。
今まではおおっぴらにヒーラーを名乗りにくい状況だったんだよね。
リスクは減らしたいからホーリーライトは極力使いたくなかった。でも、ヒーラーを名乗ると回復魔法が求められる。しかし使える回復魔法はホーリーライトのみだ。結果的に、自分からはヒーラーとは名乗らずにここまで来ることになった。
「いや、待てよ……」
本当にヒーラーを名乗れるのだろうか?
ヒールしか使えない者がヒーラーを名乗っていいのだろうか?
英検三級では英語を喋れるとはいえない的な可能性もあるんじゃないか?
確かヒールの次の回復魔法はラージヒールだったはずだけど、『せめてラージヒールぐらいは使えてからヒーラーを名乗れよ』的な風潮があってもおかしくない。
もしそうなら、安易にヒーラーとは名乗らない方がいいかもしれない。
……それ以前にもっと重要そうなことがあった。
ウルケ婆さんは『回復魔法の魔法書は教会が端から買い取っちまうから市場には中々出回らない』と言った。この世界の宗教がどういう形態になっているのか、僕はまだよく掴めてはいないけど、つまりこれは教会とやらが回復魔法を独占的に運用しようとしている可能性があるのではないだろうか。
それが成功しているかどうかは別だけど。
実際、高ランクパーティならヒーラーぐらい普通にいるとダンが言っていた気がするし。
まぁこのあたりの話は追々考えていくとしよう。
「光よ、癒やせ《ヒール》」
長めのシンキングタイムを終わらせ、短めの詠唱と共にヒールを使ってみた。
丹田付近にあった魔力がグルグルと移動して右手に集まって、シオンをワシャワシャしていた手から放出される。
「キュキュ?」
「大丈夫。回復魔法だよ」
手のひらから淡い光の塊がポワッと生まれ、シオンに吸収された。
ん~、やっぱりホーリーライトとはかなり違う。他の回復魔法ならエフェクトも多少変わってくるのだろうし。よく分かってない人ならホーリーライトを見ても高ランクの回復魔法だと勘違いしてくれる可能性はあるけど、詳しい人が見たらその違いは歴然かもしれない。
などと考えながら、もう一度使ってみる。
「光よ、癒やせ《ヒール》」
次は左手からだ。
魔法は意識しなければ、利き手の手のひらか、利き手で持っている武器から出る。それが一番自然に出来るから大体の人はそうしているっぽい。でも意識をして左手へと魔力を流そうとすれば左手からも出せたけど、少しやりにくい。
「光よ、癒せ」
次は右手でも左手でもなく、脇腹から出そうとしてみた。が、これが上手くいかず、発動しない。
「ん~……」
戦闘中、両手を使わず、意識を他に割かずに脇腹とかの傷を治せたら便利かな、と思ってやってみたけど、難しいみたいだ。
これは今後の課題だろうか。
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