第157話 魔法書選びと武器選び

「えっ……魔力?」

「なんだい、気が付いてなかったのかい。指先から出てくる紐ってのが魔力だよ」

 そう言ってウルケ婆さんは人差し指を立てて見せた。

 するとその指が次第に赤紫に染まっていく。


 なるほど、ね。

 よく考えるとランクフルトで手に入れた麻痺ナイフを使用した時も刀身に似たような色に染まって見えたし、闇水晶の刃に魔力を通した時もそんな色が見えた。あの時は麻痺ナイフとか闇水晶による効力的なものだと思っていたし、ウルケ婆さんの指先から出てた紐も、そういう技術なんだろうと思っていたけど、実は僕が魔力を感知出来ているから見えただけなのか。

 僕は魔法を使う時、体内の魔力が移動する感覚があるけど、もしかすると他の魔法使いはそれを感じていない可能性もあるかも。

 そういえば、あの白い世界で〈超感覚〉を五段階まで取った気がするけど、それが効いているのだろうか? それとも種族的なものなんだろうか?


「その目は大事にするんだね。魔力を目視出来るやつは珍しい。錬金術師なら誰もが羨む能力さ」

 彼女はそう言って、「あんた、いい錬金術師になるかもね」と続けた。

 う~ん、錬金術師かぁ。あの白い世界で錬金術は取らなかったし、元からも持ってなかった。なので僕には錬金術の才能はないはずなんだけどね。

 でも、才能はなくても出来ないわけではないし、やってみるのも面白いかも。


「で、あんた、なんの用だい? うちに来たんだ、なにか用事があるんだろ? まさか属性武器の作成風景を眺めるだけ眺めて帰る、なんて言わないだろうね」

「え、あぁ、そうですね。魔法書を見せて下さい」

 そう言いながらミミさんが書いてくれたメモを見せた。

 というか、あれって属性武器を作ってたのか。

 ウルケ婆さんはメモを読むと、それから僕の胸元にある金の爪のバッジをチラリとみてから「ついてきな」と言って店の奥への扉を開けた。


 扉の奥には倉庫らしき別の部屋があった。

 なにかの草の匂い。二階へと続く階段。並べられた大きな棚。積み上げられたよく分からないアイテム。

 彼女は奥にある棚の前へと進むと、その扉をガチャリと開け、「勝手に選びな」と言いながら一歩下がる。

 棚の中には大量の本。一〇〇冊はあるかもしれない。

 その量に少し面食らいながら棚の前へと進み、端から一つ一つ確認していく。

 光属性以外の各種生活魔法と属性ボール系魔法は反応なし。ボール系より難しいらしい属性アロー系魔法に関してはライトアローにも反応なし。

 そろそろ生活魔法ぐらいは全ての属性をコンプリートしておきたいけど、まだ僕には早いらしい。一体、いつになったら覚えられるのだろうか。

 その他、ファイアバースト、アーススキン、ウインドシールド、ウォーターライフ……などなど、属性を関した魔法が並んでいるけど、どれも反応なしだった。

 しかしこの品揃えは凄い。今までの町でも魔法書は探してたけど、ほとんどの店が生活魔法とボール系のみ。大きな町だとアロー系やアーススキンとかの補助魔法があるぐらいだったのに、それ以外の魔法も多く見られる。

 まぁ、あってもどれも覚えられないのだけども……。


 落胆しながら魔法書を見ていくと、一冊の魔法書で目が留まる。

 それは『ヒール』の魔法書。

 確か初級の回復魔法のはずだけど、今まで何故か一度も見たことがなかった。

 魔法書へと手を伸ばして背表紙に触ってみる。

「……」

 触れた指先から魔法書へとなにかが繋がる感覚。

 うん、やっぱり使えるね。

 光属性は回復系の属性だと例の白い世界で見たから取得したのに、まったく回復魔法の魔法書が手に入らないから不思議に思ってたんだけど、ここに来て見つけるとはね。

 ヒールの魔法書を棚から引っ張り出してウルケ婆さんの方を見る。

「これっていくらですか?」

「なんだい、あんた光属性の適正があるのかい。それもまた珍しいねぇ。金貨一〇枚だよ」

「金貨一〇!? 高くないですか?」

「あんたねぇ、回復魔法の魔法書は教会が端から買い取っちまうから市場には中々出回らないんだよ! それを独自ルートで仕入れて信頼出来る相手にだけ売ってるんだ! 文句があんなら帰んな!」

「あぁ、買いますから! 払いますから!」

 キレるお婆さんをなだめて金貨一〇枚を払う。


 しかし回復魔法の魔法書が出回らないそんな理由があったとは……。

 この分だと、他の有用な魔法書も普通の店では売っていないのかもしれない。



◆◆◆



「う~ん……」


 ウルケ婆さんの店からの帰り道。大通りで見付けた大きな武器屋の中にあった槍コーナー。

 そこで腕を組み、顎に手を当て考え込んでいた。


 銅っぽい金属の槍、鉄っぽい金属の槍、よく分からない金属の槍。

 長さは短いのから長いのまで様々。

 しかし刃の部分の形がどれも一緒。恐らくこれは、同じ型の中に金属を流し込んで作った鋳造だろう。と、思う。

 流石に鍛冶の経験はないので詳しいことまでは分からないけど、鋳造と鍛造では鍛造の方が質が良いらしいってことぐらいは分かる。つまり、ここの製品の質はあまり良くないのではないだろうか。

「どうしようかなぁ……」

 ギルダンさんから貰った鉄の槍が壊れ、とりあえずなにか槍でもと思って店に来てみたのにこれだ。

 とりあえず安い武器でも買っておいて後で良い武器を探すのもいいけど、腕が良いといわれてたギルダンさんの鉄の槍でもメンテナンスに苦労したのに、それ以下だと酷いことになりそうだし。まさに安物買いの銭失いになって終わりそう。

 かといって、良い武器を買うお金はなくなったし、当然さっきの鍛冶屋に注文するお金もない。

「とりあえず保留かな。店はここだけじゃないだろうし」

 そう考えながら槍コーナーから立ち去り、他の武器を見ていく。


 木の棒の先に鎖で繋がれたトゲトゲの鉄球が付いたモーニングスター的な武器。鉤爪的な武器らしきモノ。巨大な斧。小さな弓。大きな弓。大金槌。などなど……。

 どうもこの店は、質は良くないけど種類の豊富さは凄い。

 それから、楽しみながら様々な武具を見学して店を出た。

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