第155話 武器を何とかしないとさ

 ボロックさんから貰った地図に周辺の道などを書き足しながら目的の店へと歩く。

 今日はとりあえずクランホームの周辺にある店をいくつかチェックするつもりだ。

 この町はとにかく広い。今まで訪れた町の中で一番広い。簡単には探索しきれないし、地道に時間をかけてやっていくしかない。


 中通りを抜けて大通りに出る。馬車が通る道の中央を避け、行き交う人々の中に紛れて南側へと向かい、目印の十字路を左折して一つ中に入った道沿いにあったその店に入った。

 扉を開けると同時に吹き出すムワッとした熱。カツンカツンと金属を叩く音。部屋の奥では何人かの男達が金床を囲み、ふいごによってガフガフと送られた空気が炎を巻き上げている。壁にはいくつもの剣や盾が飾られ、部屋の角には木製の台座に掛けられた金属の鎧が直立し。そしてカウンターではやる気がなさそうに片肘を付いた手に顎を乗せた白髪交じりのドワーフの男性がいた。

「おう」

「あの……すみません、これなんですけど」

 なんとも商売っ気のない第一声にやりにくさを感じつつ、背負袋の中にあるモノをカウンターの上に出す。

「こいつは……」

 背負袋から出したモノ、それはボロックさんから貰った闇水晶の刃。

 それを見た瞬間、やる気がなさそうだったドワーフの目つきが変わり、闇水晶の刃を手に持つと窓から入ってくる光にかざしたり、軽く指で刀身を弾いたりして隅々まで確認していった。

 それから数分、時間をかけて納得するまで調べ終わった彼はゆっくりとこちらを見る。

「材質は闇水晶。濁りもなければムラもない一級品だ。刃の出来も素晴らしい。……ボロック・ワークスの作品だな」

「えっ?」

 いきなりボロックさんの名前が出て驚いた。

 こういうのって見ただけで誰が作ったとか分かるものなのだろうか? というかボロックさんのフルネームってボロック・ワークスだったんだね!

「で、これをどうしたいんだ? まさか柄を作って仕上げろ、なんて言わないよな?」

「えっ、いや……」

 いや、まさにそれを相談しようとして持ってきたのだけど……。

 二の句を出せずに黙る僕を見た彼は軽くため息を吐いてこちらを見た。

「水晶の特性を知らねぇのか? 確かにこいつの出来は良いが、そもそも武器に向いた素材じゃあねぇ。杖ならともかく、こんなもんを欲しがるのは見た目さえ良ければいいと思っとる貴族ぐらいだぞ」

「いや、それは聞いてますが……」

 ボロックさんからその話は聞いた。

 水晶は硬くて脆い。ダイヤモンドみたいなもので衝撃に弱いのだ。でも硬いだけあって刃物にすれば切れ味はかなり良いし、魔力の通りは良いので魔法発動体としての杖の素材には向いている。魔力を流せば強靭になる特性があるため切れ味の良い武器として使用出来るけど、魔力を常に消費し続けるので実用性は低い。

 まぁはっきりいうと、メリットはありつつもデメリットが大きすぎてこれをメイン武器にして使っていくのは難しいのだ。

 魔力が多い僕でもそう思うのだから、魔法適正の低い普通の人々からの評価はいうまでもない。

 とりあえずこれを槍にしておいて普段使いの槍は別に買い、状況に応じて二本を使い分けようかとも最初は考えたけど、持っている槍がころころ変わってると魔法袋を持っていることがバレバレになりそうだから扱いにくそうだし。それならとりあえず短剣にでもしておこうかと思っていたのだけどさ。


「剣にして下さい。サブとして使うので扱えると思います」

「そうはいうがなぁ……」

 彼は腕を組み、僕の胸にある黄金竜の爪のバッジをチラリと見てから言葉を続けた。

「黄金竜の爪……ボロック・ワークスの作品……か。……まぁあいつが扱えると判断したのなら、そうなのかもな。……いいぜ、作ってやる。で、属性は付けるのか?」

「属性、ですか?」

 いきなり話の方向性が変わって首を傾げつつ、属性について聞き返す。

「水晶の武器なら属性武器化して魔法発動体にしておくことが多い。まぁ闇水晶は闇属性一択になる。だから闇水晶は特に人気がないんだがよ」

 なるほど……。確か闇属性のモンスターが多いんだっけ? だから闇属性が効きにくいモンスターも多くて不人気みたいな話だったはず。

 よく考えてみると僕の適正属性は光と神聖だから闇の属性武器にしたら魔法発動体としては使えないのか……。まぁ属性武器としては機能するからいいけど、魅力は半減かも。


「属性を付けるための値段はどれぐらいですか?」

「Dランク魔結晶で金貨三〇。Cなら六〇ってところだな」

 う~ん……高い。ちょっとこれは無理そうだ。

 僕のなけなしの全財産が金貨一五枚と少し。エレムで稼いだお金も既になくなりかけている。ない袖は振れない。……いや、よく考えたら死の洞窟でDランク相当の闇魔結晶とBランク相当の光魔結晶を入手したはずだ。

「Dランク闇魔結晶をこちらで用意したら、いくらになりますか?」

「そうだな……なら金貨一〇枚でいいぞ」

 金貨一〇枚か……それなら出せるけど、所持金が一気に危険水域に入ってしまう。クランに入れば儲かるとは言われたけど具体的にどれぐらい儲かるのかわからないし、ここでの散財はちょっと怖い。

 まぁ余ってる魔結晶を売ればお金になるのだけど、エレムでは魔結晶を売ってトラブルに巻き込まれ、町から逃げることになったトラウマが尾を引いて魔結晶を売る気になれなかった。

 心の傷は深いのだ。


「あ~……ちょっと厳しいので、とりあえず短剣にするだけでお願いします」

「じゃあ金貨一枚だ。鞘も必要なら金貨もう一枚な」

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