第34話 町に着き、兎にも角にも、宿確保

「しかし、エルシープが二匹も出るとはな」


 ダンが疲れた声でつぶやく。

 今はそのエルシープを馬車に載せているところだ。

 ダンジョンの魔物は倒せばドロップアイテムを残して消えるけど、それ以外、普通のフィールドモンスターは倒しても消えない。なので倒した後は解体作業が必須になる。まぁ当然と言えば当然か。

 本来ならこの場で解体して有用な部位を持ち帰り、残りは燃やすなり埋めるなりするのが一般的らしいが、このエルシープに関しては全身が色々と有用だ。肉は食用。腸は腸詰め。一部の内臓も食用。皮は革製品や獣皮紙。毛は糸などに。全身使えるからそのまま持ち帰る。

 と言っても僕らは持ち帰る方法なんて持っていない。まさか担ぐわけにもいかないので、ここで商人に売却する事になるんだけど。


 それにしても解体か……。

 生まれてこの方、動物の解体なんてやった事もないし見たこともない。そして今までダンジョンでしか戦ってこなかった僕が解体なんて出来るわけがない。正直、見たくもないけど……そういうわけにもいかない。これから冒険者をやっていくなら必須の技能となるはずだ。

 それにダンが言うには、ダンジョンでの仕事ばかりして解体が出来なかったりフィールドでの常識を知らなかったりする冒険者は軽く見られると言うか馬鹿にされるようなところがあるらしい。必須技能を身に付けていないから一人前とはみなされないのだろうか。

 よくは分からないけど、やはり解体を覚える必要はありそうだ。


「ねぇ、さっきの魔法、凄かったじゃない!」

 馬車に運び込む作業が一段落した後、メルが話しかけてきた。

 この娘は元気が良いと言うか、勢いが凄いのでちょっと一歩引きそうになってしまう。

「そうなのかな? 自分ではよく分からないんだけど」

 とりあえず無難に返しておく。

 あれれ、僕また何かやっちゃいました? と言うすっとぼけたような話ではなく、比較対象がいないから本当によく分からないんだ。

 僕はまだ他の人が魔法を使っているのを見たことがない。基準がないから自分がどの程度なのか判断する事が難しい。

「あぁ凄いと思うぞ。確か光魔法は攻撃では一番弱かったはず。ライトボールであの威力なら十分凄いんじゃないか。まさか一撃でエルシープをぶっ飛ばすとは思わなかったから俺らもびっくりしたしな」

 ダンはそう言ってから「まぁ俺もそんなに詳しくはないんだがな」と付け足した。

 そう言われるとちょっと自信になるな。


 恐らくライトボールの威力が高かったのは、僕――クォーターエンジェル――のINTが高かった事がまず一つ。それとさっきは何故か魔力を多めに消費してライトボールが通常より一回り大きくなっていた事がもう一つ。理由としてはそんなところだろうか。

 初期状態では普人族の倍ほどあったINTだけど、それがどれぐらいのアドバンテージになっているのか。それとレベルが上がってINTがどうなっているのか。そしてそれが他の人と比べてどれぐらいの差があるのか。色々と知りたい事が沢山ある。

 やっぱり自分や他人のステータスを見る鑑定系の能力があるのなら、それだけで物凄いアドバンテージなんだろうなと思った。



◆◆◆



 それから数時間後、太陽も傾いてきて空が赤く染まる頃、ランクフルトの町に着いた。

 今日は例のエルシープとの戦闘と、その後の積み込みやらがあってこの時間になったけど、いつもはもっと早く着いていたらしい。


 町に近づいていくと南の村よりかなり大きいのがよく分かった。

 町は高さ四メートルはありそうな壁で囲まれていて、その壁の上部は木材でかさ増しされているものの、下部はしっかりとした石材で出来ていて頑丈そうだ。

 長さ的には、ここからだとよくは分からないが最低でも南の村の数倍はある事が分かる。そしてその壁の近くには何かの畑のようなものが広がっていた。

 ここの畑は壁の外にあるけど防犯的に大丈夫なのだろうか、とか考えている内に馬車が門を通り抜けて町の中へと入っていく。

 門の前には兵士が立っていたけど、特に出入りをチェックするような動きはない。南の村と同じで出入りは自由らしい。大きな町では出入りのチェックが厳しいのではないかと思っていたけど、そんな事もないようだ。


 馬車に続いて町の中に入る。

 門から続く大通りはしっかりと石畳が敷かれ、その左右に店が建ち並ぶ。その隙間にある路地を覗きこむと民家らしき建物が並んでいるのが見えた。

 建物の外見などは南の村とほとんど変わらない。やはりガラス窓はなく、窓は木窓だ。

 それにしても、町の規模から考えると人通りが少ない気もする。もう日が落ちかけているからだろうか。


「それじゃご苦労さん。報酬とエルシープの買取代金は入れてある。今回は色々あったが無事で良かった。また次回も頼むな」

 そう言ってギルムさんが袋をダンに渡した。

「はい。また次回も頼みます」

「ギルムのおっちゃん、また店に寄るね」

 ダンとメルがそう言うと、商人二人は「じゃあな」と馬車に乗って大通りを北へと進んでいった。

 僕も頭を下げて挨拶しておく。


「さて、それじゃあ時間も遅くなってきてる。早くしないと宿屋の空き部屋がなくなるかもしれん。とりあえず今日はここで解散にする。明日はルークに町を案内するから、朝にいつもの宿屋に集合で。分配はその時にやる。じゃあメルは早く帰れ。親父さんが心配する」

 ダンがそう言うとメルが「うん、分かった。じゃあね!」と手を振りながら走っていった。

「俺らも急ぐぞ。良い宿があるから、ルークも今日はそこに泊まればいい」

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