第285話 新たなる槍を求めて
翌日。朝から冒険者ギルドに顔を出す。
が、いつものように掲示板を確認しようとするも、掲示板の周辺にはいつも以上の人だかりが出来ていて近づけない。
近くにいた顔馴染の冒険者に話を聞いてみる。
「なにかあったんですか?」
「あぁ、どうやら鉱山の募集人数が減らされたらしくてな。あぶれた奴らがこちらに殺到したらしいぞ」
「募集人数の削減? そんなこと、あるんですか?」
「さあな……。俺も聞いたことねぇよ」
なにかあったのだろうか?
受付に行き、回復依頼の確認ついでに聞いてみる。
「これ、どうなってるんです?」
「私共も完全には把握しておりません。ただ、鉱山労働者の募集が減っていることは間違いないようですね」
「そうですか……」
ギルド側も状況を把握してない? いや、把握していても一人の冒険者にペラペラ話すことでもないのか。これがモンスターの情報とかなら話は別だろうけど。
逆に言うと、問題の原因は冒険者ギルドが詮索するような内容ではない――つまりモンスター絡みではないのかもしれないな。
恐らく冒険者ギルドは冒険者と依頼者の仲介役でしかない。周辺モンスターの情報や周辺地域の情報など冒険者活動に有益そうな情報を冒険者に積極的に開示しても、町の政治や商業について関係しそうな内容を積極的に開示したりはしない印象がある。
それも地域によってまちまちだし、ギルドマスターによっても方針が違いそうだし、状況によっても変わるっぽいけどね。
まぁとにかく、これ以上ここではどうにも出来なそうだ。
「ルークさん。また廃坑の調査をお願いしたいのですが、大丈夫ですか?」
「あぁ、はい。行きます」
調査依頼を受けることにして、冒険者ギルドを出て町の壁を目指して歩く。
しかし調査依頼に行く前にニックさんに紹介してもらった鍛冶屋を見ておきたい。
お手製の簡易地図を見ながら大通りから脇道に入り、暫く進んで道を曲がった先にその店はあった。
店の中からトンテンカンとハンマーを振る音が漏れてきている。
「すみません」
扉を開けて中を見ると、正面にカウンターがあり、そこで若い男の店員がカウンターに肘をついてうつらうつらしていた。
どうやらこの店は鍛冶場と店が分離しているようで、ハンマーの音は若い男の後ろにある扉の奥から聞こえているようだ。
周囲を見回してみると、一面の壁に様々な武器や防具が陳列されていた。
「すみません。ちょっといいですか? お~い!」
「んん……あぁん?」
「店内の武具、見てもいいですか?」
「あ~……あぁ、好きにしてくれ」
店員に確認を取ってから店内の武具を見ていく。
剣に槍、メイス、鎧、等々、様々な武具が置かれている。が、大体が鉄製か銅製でミスリルとか高そうなモノはないように見える。
その中の一本の槍を手に取り、軽く振ってみた。
「いいね」
手に馴染むし重量バランスも悪くない。
そろそろメインで使える刃物系武器が欲しいんだよね。例の白い場所で見た僕の才能的には槍が一番合ってたし槍が良さそうだ。アルッポでは打撃武器が効果を発揮する環境だったからこのミスリル合金カジェルを買ったけど、やっぱり打撃武器だけでは難しい場面も多いはず。前に戦ったロックトータスにしても、良い槍があれば引っ込んだ頭や手足に強引に槍を突き入れられたかもしれないし、もしかすると槍であの甲羅を一刀両断出来たかも! ……というのは難しいとしても、もう少しやれることは増えた気がする。
でも、鉄の槍だと刃こぼれや歪みが発生するから動物の骨とか硬いモノを避けて攻撃する必要があって難しいんだよね。ロックトータスの甲羅相手には絶対に使えない。
となると、もっと良い素材を使った武器がいいし、ホーリーディメンション内にはアルッポのダンジョンで倒したドラゴンゾンビの骨があるけど……。
「まだここでは怖いんだよね」
アルッポのダンジョンにドラゴンゾンビが出たことは恐らくすぐに知れ渡る。僕が回収した素材の残りは誰かが持ち帰っただろうし、それがどう使われたか売られたかは知らないけど彼ら以外のルートからドラゴンゾンビ素材が持ち込まれたら、そりゃ気付かれる可能性が高いはず。特にこんなアルッポとは人の行き来が多くて経済的にも繋がりが深そうな隣国では情報が伝わってしまう可能性が高い。もう少し遠くに行かないとドラゴンゾンビ素材は怖くて使えない。
「仕方がないか」
槍を元に戻し、別の槍を掴む。
並んでいる槍にもいくつかタイプがあって、短い物から長い物、穂先が真っ直ぐなタイプから二又や三又になっている物とか、斧のようになっているハルバードタイプもある。
が、やっぱり僕は真っ直ぐなタイプが使いやすく感じる。家での修練で使ってた木の槍がストレートだったからかもしれない。
しかし、色々と展示品を見てきたけど、良い形はあるけど僕が求めているような良い素材製のモノがない。
店員に話しかける。
「ミスリル製とかの槍って置いてないんですか?」
「ミスリル製なんか作り置きはねぇぞ。高い武具は使用者に合わせて作らなきゃ無駄が多すぎるからな。注文するのか?」
「そう……ですね。お願いします」
「ちょっと待ってろ」
店員は後ろの扉を開け、そこから「親方! 注文です!」と叫んだ。
暫くすると奥から中年男性が現れる。
「注文だって? なにを作るんだ?」
「槍が欲しいです」
「素材は? どんな槍にするんだ?」
そう聞かれ、暫し悩んでから答える。
「ロックトータスを貫ける槍を!」
「無茶を言うな! そんなモン、オリハルコン製の槍でも貫けねぇだろ。それがしたいなら自らの技量でなんとかしろ」
「えっ? オリハルコン製でも無理なんですか?」
「いや、俺もオリハルコンなんざ触ったことはねえけどよ。いくらオリハルコンつっても結局はただの金属だろ? 槍にすればそりゃ硬いだろうし斬れ味は最高だろうが、それだけでロックトータスが貫けるわけじゃないだろ?」
う~ん……。なんかこう、ファンタジー的な凄い素材で作った武器ならなんとなく岩でも鉄でも豆腐みたいにスパスパ斬れるようなイメージがあったけど違うのか?
「まぁ属性武器とか魔法武器、アーティファクトならロックトータスぐらい貫ける武器もあるだろうぜ。俺は専門外だけどな」
やっぱり最終的にはアーティファクトを探し求めるしかないのかな。
ん? いや、待てよ。
「そういやさっき、自らの技量でなんとかしろって言ってましたけど、実際にロックトータスを貫けるような人っているんですか?」
「あぁ……いるんじゃねぇの。そんな話は聞くしな。すげぇ冒険者が大地を叩き割ったとか、どっかの国の騎士団長が鋼鉄の門をぶった斬ったとかよ。そういう奴らならロックトータスでも真っ二つなんだろうぜ」
「実際に見たことはないんですか?」
「おいおい、俺はここで鎚を振るうだけの鍛冶師だぞ。そりゃ俺だってそれなりに凄いヤツらに剣を打ってるが、そいつらが本気で剣を振るうところなんざ見るこたぁねぇよ」
まぁそうか。こんな店の中で武器を本気で振り回すなんてないか。
しかし、なんとなく分かってきたのは、この世界でも物理武器でロックトータスを貫いたり鋼鉄の門を斬り飛ばしたりするのは戦闘をしない一般人からしたら異常だってこと。でも、一部の凄い人はそういったことが出来る能力を持っていると。それが単純にレベルを上げていってSTRを上げれば可能になるのか、アーティファクトのような特殊な武器があれば可能になるのか、それ以外になにかあるのか、それは分からないけど。
思えばAランク冒険者のゴルドさんの本気の戦いをチラッと見たけど鉄の鎧ぐらいは叩き斬っていたイメージだし、それぐらいの存在になると可能になるのだろうか。
「で、どうすんだ?」
「作ります! 丈夫で魔力の通りが良い槍を」
とりあえず今は槍が欲しい。斬れ味が良くて頑丈な槍が。鉄の槍のようにちょっと骨に当たっただけで刃こぼれするようだと強いモンスターと戦った時に心もとないし、魔法武器やアーティファクトを入手する伝手もないし。
「長さはこれぐらいで、穂先はこんな感じ」
「なるほど、じゃあ石突は――」
自分の理想とする槍のイメージを親方に伝えていき、親方からもフィードバックを貰ってイメージを修正していった。
そして大体の形が決まった頃、親方が別の話をし始めた。
「ところでお前さんが持ってるその棒、ちょっと見せてくれねぇか?」
「これですか?」
手に持ってるミスリル合金カジェルを親方に渡すと、彼はそれをゆっくりと確かめていった。
「面白いモノを作ってやがるな。鉄にミスリルと……他にも金属を混ぜて軽量化しつつ強度を高めたんだな。これはアルッポで作られたんだろ?」
「分かるんですか?」
「ミスリルはアンデッドに効果が高い。打撃武器もアンデッド向きだ。だがこの金属量を必要とする武器にミスリルを使おうとするとかなり高くなっちまう。普通はこんな武器は作らねぇよ。あるとしたらアンデッドダンジョンがあったアルッポしか考えられねぇな」
「なるほど」
やっぱり希少価値の高いミスリルを棒状にすると剣や槍なんかより多くの量を必要とするし、贅沢な使い方だよね。
「これ、いくらしたんだ?」
「確か……金貨一〇〇枚だったような」
「おいおい安すぎだろ……それじゃ赤字だぜ」
「あぁ、確か売れ残ってて、それで値引きしてくれたんじゃないですかね」
「よくやるな……」
親方からミスリル合金カジェルを返してもらう。
「それで、槍はいつ出来るんです?」
「そうだな……。ここ数日は仕事も入ってねぇから暇だしよ、柄の発注先次第だが数日で出来るだろうな」
「じゃあ数日後に様子を見に来ますね。これは手付金の金貨三〇枚です。残りの七〇枚は完成後に」
「あぁ、良いモノ作ってやるよ」
「期待してます」
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