南の村と初心者ダンジョン

第11話 新たなるスタート

 一瞬で霧が晴れるように頭からモヤが取り除かれ、まどろみの中から一瞬で覚醒した。


「知らない天じ……」

 言いかけて止まる。

 いやどう見ても目の前にあるのはただの木であって天井ではない。

 そもそも立った状態で目が覚めたので天井側を見ていない。


「……」

 気を取り直して色々と確認していこう。

 まず腕を確認する。問題なし。そから足に向かって体全体を確認する。問題なし。一五歳に設定したからか、若干身長が縮んでいる気もするが、よく分からない。

 そしてやはり"あの場所"での姿そのままで、貫頭衣を着ているようだ。

 ついでに顔も確認したいが、鏡なんてあるはずもない。


 次に周囲を確認する。目の前に広がるのは人の手が入って綺麗に整備された林。後ろを振り返ると二メートルほどの高さがある板と石で出来た壁があり、その奥には家の屋根が見える。

 そして僕の足元には布袋に縄を一本付けて斜めがけに背負えるようにしただけの背負袋が落ちていた。

 この背負袋が〈アイテム〉で選んだ〈魔法使いセット〉なんだろう。

 背負袋の口を結んでいた紐を解いて中を確認し、靴とローブをササッと身につけてから樫の杖を持つ。

 樫の杖は、長さ一〇〇センチほどで、先端がクルクルうねって丸くなっていて棍棒にも見える。靴は革製の紐靴のようで、履き心地はそんなに悪くない。が、靴下が欲しいところ。ローブに関しては、白っぽい色で全身を覆えてフードとポケット付き。生地は薄めで今の季節に合っている。

 この世界の今の季節が何なのか、季節があるのかすら分からないけど。


 最後に、底に入っていた小さな袋には小銭が入っていて、確認すると銅貨らしき硬貨が一〇枚と、銀貨らしき硬貨が一〇枚と、小さな金貨が一枚入っていた。しかし現時点ではその価値がわからない。

 背負袋に小銭と袋を入れて背負う。

 

「はぁ……」

 とりあえず一段落ついて、さっきまでの事を思い出してしまう。

 こんな形で皆と別れて本当に正解だったのだろうか。

 あの時は皆と話し合うような時間はなかった。しかし、それでもちゃんと口に出して何か言うなり聞くなりするべきだったのではないか。

 結局のところ僕は違和感に気付いて、一人で理解した気になって、一人で納得して、一人で決断してしまった。

 もしトランキスタ城に行く事で何か問題が起こると思ったのなら、皆にも警告するべきだったのではないか。

 自然と出そうになったため息に気付き、噛み殺して鼻からゆっくりと息を吐き出す。

 ……今はこれからの事を考えよう。


 とりあえず、まず様式美としてゲームでは当たり前の"ステータス"を確認しようとするが、「ステータス!」と言おうが「メニュー!」と叫ぼうが、踊ろうが歌おうが反応しない。どうも"ステータス確認が出来るシステム"という有りがちなシステムが存在しない世界のようだ。

「いやいや、あの白い空間には似たようなのがあっただろ。なら普通あると思うでしょ……。神様そこは用意しとこうよ」

 まぁこれはこれで良い事もある、はず。ステータス確認が出来ないのであれば、簡単に人のステータスを見るような能力もないのでは? と思う。実際、そういう能力は〈スキル〉や〈アビリティ〉には無かったはず。

 ……いや、天龍眼と地龍眼とか言う眼に関する何だか凄そうなモノがあった。どういう効果があるのか分からないけど、眼と書いてあるんだから何かを見る効果があるんだろう。ポイント的にも凄いモノが見れてもおかしくない。

 そういえば勘を信じて取った審美眼と鑑識眼も何かを見るためのモノのはずだ。こちらはコストも安かったし、持ってる人はそれなりにいるだろう。どういう性能かは分からないが注意は必要だ。

 んー……いや待てよ。あの白い空間ではSTRやらVITなんかを設定したし、ステータス自体はあるのか。ゲームのように誰でもステータス画面で確認出来ないだけで。

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