第14話 冒険者登録

 冒険者ギルドは剣と盾のマークが入った看板が目印で、村の中心付近にあった。広さはさっきの雑貨屋とは比較にならないほど大きく、三階建になっているようだ。

 そもそもの話をすると、冒険者については“例のあの白い場所”にいた頃から存在は確信していた。なんたって〈ウィンドウ〉の〈アイテム〉に〈冒険者セット〉なんて言う名前のアイテムがあったんだから。だから職を探すのなら、とりあえずは冒険者になるかな、とは思っていたんだ。


 冒険者ギルドの扉を開けて中に入る。

 中は銀行みたいな形になっていて、長いカウンターテーブルが正面にあり、窓口が三つ並んでいる。右手側の奥にはテーブルとイスが置いてあり、レストランのようになっていた。

 ギルドの中を見回してみても、窓口に座っている職員が一人と、その後ろで雑務をしている何人かだけで、ほぼ人がいない。あとは冒険者風の格好をした人が何人か食事をしているだけだ。

 太陽の位置を見る限り、今は昼過ぎぐらいだと思う。冒険者は仕事に出ているのだろう。


 左側の受付の若い女性に声をかける。

「すみません。登録したいのですが」

「はい。新規登録の方ですね? それではこちらの記入をお願いします。文字が書けないのであれば代筆も可能ですよ」

 そう言って手渡されたのは色白な木片だった。

 この世界ではまだ紙が貴重なのかもしれない。

 少し頭の中で考えてみてから「書けるので大丈夫です」と代筆を断り、テーブルに用意された羽ペンをインク壺に浸して書こうとするも、ペンが止まる。

 書く項目は、名前、年齢、適性属性、特技の四つ。

 年齢、適性属性、特技の三つは特に問題ないけど……名前をどうしようか。本名を書くのは転生者とバラしたくない今はちょっと考えられない。転生したのだから生まれ変わったという事なんだろうし、新しい名前がいいかな。

 んー……リスタージュと同じビショップでいいか? ……いやダメだな。暁の九人のメンバーから僕の名前が出るかもしれないし。うーん……じゃあルークにしようか、チェス繋がりで。うん、そうしよう。

 名前はルーク、年齢は一五、属性は光、特技は槍。そう書いて提出する。

「えーっと、名前はルークさんですね。属性は光ですか、珍しいですねぇ。……はい、出来ました。それではギルドの事と、ギルド規約を説明しますね」

 と、受付の女性が説明してくれたギルド規約は単純明快だった。


 まずギルドランクはFから始まりSSSまであり、Fは登録した場所でしかギルドカードの効力がなく、Eになり銅製のギルドカードを得てやっと他の町でも使える正式なカードとなる。らしい。

 これで何か問題が起こらない限り、当面この村にいる事が確定してしまった。まぁそれは何とかなるだろう。

 ギルド規約は、その地域のルールを守る事。ギルドメンバー同士での争いは極力控える事。民間人に危害を加えない事。依頼は出来る限りちゃんと遂行する事、など。要するに、煩くは言わないけど常識的な事ぐらいは守っとけよ、という感じかな。

 まぁ細かく決めても守らせるのが大変だし、こんな身一つで稼ぐ危険な業界に入る人に煩く言っても仕方がない。妥当なところか。


「はい、それではこれがギルドカードになります。なくさないようにして下さいね」

 受付嬢から渡されたのは、この村の名と僕の名前とFの文字が書かれた茶色い木片だった。それをちらっと確認してから聞きたい事を聞いておく。

「えぇっと、ここで受けられる依頼で初心者向けのものはありますか?」

 そう僕が聞くと、受付嬢は少し思案してから答える。

「そうですね。モンスター討伐もありますが、この村なら初心者ダンジョンですね」

「初心者ダンジョン、ですか?」

「ええそうです。総階層数五という浅い構造で、モンスターも弱いですし、罠もありません。クリアすれば一度だけ良いアイテムも貰えますしね。ここら辺の冒険者なら一度はここのダンジョンに潜りに行きますよ」


 なるほど、ダンジョンか。いきなりファンタジーらしいモノが出てきた。

 ちょっとワクワクする。これは行ってみるべきかな。

 受付嬢からダンジョンについて情報を集め、宿屋の場所もついでに聞いてからギルドを出る。

 ダンジョンに行ってみようか、とも思ったけど、太陽の傾きからして日没まで数時間だろうから微妙な時間だ。

 明日から頑張ろう。と、ニートの働かない言い訳みたいな理屈で宿屋へと向かう事にする。

 と言ってもギルドの隣なんだけど。

 ギルドの受付嬢から紹介された宿は“森の安らぎ亭”という宿で、低ランカーに人気らしい。

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