第13話 村の雑貨屋と魔法
さっきの村人が教えてくれたように、すぐ近くに雑貨屋はあった。
古びた木製のドアを開けると、六畳ほどの店内に所狭しと並べられた様々な物に目が奪われた。
ナイフ、よくわからない葉っぱ、瓶、服、鎧、よくわからない板、紙、桶、袋、何かの乾物に、水筒のような物。そして本。
こんなの、男の子がワクワクしないわけがないじゃないか!
「いらっしゃい。何が必要なんだ?」
店の奥からの言葉で我に返る。
いけないいけない、今は生活基盤が整ってないどころか何の情報も足りてないんだ。浮かれている余裕なんてない。
店の奥を見ると店主らしき中年男性がこちらを見ていた。
「えぇっと、ここで魔法書が買えると聞いてきたんですけど、何がありますか?」
僕がそう聞くと、店主は横の棚から一〇冊ほどの本を取り出してくる。
「今あるのはこれだけだな。生活魔法とボール系が三属性だ」
そう言うと机の上に本を並べた。
魔法書は全体的に濃い緑系の色で、大きさ的には文庫本より一回り大きい程度だろうか。表紙には見慣れないけどよく知ってる文字で魔法名が書かれてあるが、それ以外に差異はほぼなく、魔法名以外では区別できそうにない。
生活魔法はともかく、ボール系が何かはよく分からなかったが、ファイアボールの魔法書を見つけた時点で攻撃呪文だと当たりを付けた。
何となくライトボールと書かれている魔法書を手に取ってみる。
「ぅえっ!」
その瞬間、魔法書と手の間に何かラインが繋がるような感覚があり、何故か手に馴染んだ。
そのまったく新しい未知の感覚に思わず声が出てしまう。
「おっ、珍しいな、光魔法の適性があるのか? あっ! わかってるとは思うが本は使うなよ。使ったら当然買い取りだからな」
その言葉にちょっとビクッとするが、使うなと言われても、どうやって使えばいいのかわからない。
でも怖いので魔法書を机へと戻す。
「このライトボールの魔法書は幾らですか?」
「金貨二枚だな。他のボール系も同じだ。それと生活魔法は銀貨二枚だぞ」
うーん……。所持金は金貨一枚と銀貨一〇枚と銅貨一〇枚だ。銀貨が一〇枚で金貨一枚になるならライトボールの魔法書は買えるが、違っていれば買えないし、硬貨の価値を分かっていないという不自然な行動を取ることになる。それ以前に所持金が銅貨一〇枚になってしまうのは問題がありすぎだ。まだ金策の手段も確保してないのに所持金をほとんど使い果たすのは怖い。
とりあえず他の魔法書にも一通り触ってみるが、ライトボール以外には光源の魔法書を触った時にしか例の感覚はなかった。
どうも光魔法にしか適性がないらしいが、これは予想通り。あの“例の白い場所”で僕が取得した属性に関するアビリティは〈光属性〉だけだったからだ。
どうしようかと考えていると、店主がしたり顔で話しかけてくる。
「さては兄ちゃん、そんな格好してっけど魔法なんて使った事ないんだろ?」
「うぇえっ……えぇまぁ……。そうですね」
いきなりズバリと言い当てられ、一瞬ビクッとして変な声が出てしまう。
そしてその勢いで素直に認めてしまった……。これは失敗かもしれない。変にボロが出ないように気を引き締めないと。
「ははーん、さては格好から入るタイプだろ? ダメだぞ、そういうのは。そういう奴は大成しねぇからな」
「あっはい。すみません。気をつけます」
というやり取りを経て、店主に魔法について色々と教えてもらう事になったのだ。
この世界では、魔法と言えば基本的に六属性魔法の事を指し、それぞれ属性ごとに適性があって、適性に合った魔法を覚えて使うのが基本らしい。
しかし適性のない魔法が使えないというわけでもなく。修練を積めば適性外の魔法書でも使用できるようになるそうな。特に生活魔法は一番簡単に使える魔法で、何らかの修練を積んでいけばほとんどの人が使えるようだ。
色々と気になる事はあったが下手な質問はしないでおいた。
あまり無知を晒して目立つのは良くない。勘違いされて貴族とか商人など金持ちのボンボンに間違われるのもトラブルの種だけど、転生者とバレたらどういう状況になるのかも現時点ではわからない。この世界に今まで何人の転生者が来たのかは知らないけど、少なくとも今回は一気に一〇〇人ほど来たはずだ。その内、転生者と公言する奴も出てくるかもしれないし、そいつらがどういう行動を取るのか読めない。なのであまり僕と他の転生者を結びつけるような線は残したくはない。
色々な話を聞いたあと店主に礼を言い、光源の魔法書とナイフと布を買って店を出る。
「さて、と」
とりあえず、最初に考えていた目的は大体達成した。
まず、言葉が本当に通じるのか。
そして魔法書が売っているのかどうか。
この村についての情報。
物価など、セットに入っていたコインの価値の調査。
あとは仕事だけど、これもさっきの雑貨屋の店主に場所を聞いている。
それでは行こうか、冒険者ギルドへ。
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