第225話【閑話】とある男の冒険者人生
「まぁ、俺は忠告したぜ。後は自分で決めるんだな」
男はそう言って冒険者ギルドを出た。
町は夜の帳が下り、出歩く人も少ない。
周囲の酒場から漏れる灯りと冒険者達の声だけが辺りを照らしている。
「若ぇなぁ……」
男はボソリと呟くと東に向かって歩きだした。
冒険者なら誰でも一度は強い冒険者に憧れて上を目指す。しかしその多くが、いつかどこかで妥協していく。
その理由は簡単だ。自らの命の危機を肌で感じるからだ。
何度もモンスターと戦っていれば嫌でも気付かされる。たった一回の失敗でも命を落とすことがある、と。
だから自分の強さに合ったモンスターを狩るようになる。しかしそれでは女神の祝福が得られにくくなる。そして女神の祝福が得られないと強くならなくなる。
なので妥協してしまうのだ。あぁ、自分の『場所』はここなのだ、と。
そうして多くの冒険者はCランクやDランクで落ち着いていく。Cランク、Dランクの冒険者が一番多い理由はここにあるのだろう。
男は一軒の家の扉を開け、その中に入っていく。
「帰ったぞ! 今日はお土産もあるからな」
「よっしゃ! パパおかえり!」
「おかえりなさい」
男は子供に包み紙を渡し、椅子に腰掛けた。
男は思う。俺はこの『場所』でいい、と。
冒険者が死ねばその家族は路頭に迷う。子供が小さければ特に悲惨。そんなリスクを犯してまで格上の敵を相手にする必要があるのか?
男は考える。かつて名を馳せた高ランク冒険者が行方不明になった後、その家族がどうなったのかを。
「ロクなもんじゃねぇ」
男は吐き捨てるように言った。
「あなた、どうかしたの?」
「どうしたの?」
妻と子供に心配され「なんでもない」と軽く手で制し、男は寝室に向かう。
ただ、若い頃に感じたあの高揚感と似た感情をぶつけられ、羨ましくもあり――そして少し苛立ちがあっただけだ。
まぁ、それも――
「悪くはないがな」
男はそう呟き、ベッドに体を預けた。
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