五階村

第226話 四階への下見を兼ねた初挑戦

 そして翌日。今日も今日とて朝からダンジョンに向かう。


「よしっ!」


 しかし今日は思いきって四階に行ってみることにした。

 昨晩、悩みながら色々と考えた結果、出た結論だ。

 ゆっくりと強くなることも人生の一つの選択だと思うけど、僕はもう少し先を見てみたい。

 こう思ったのは僕が地球の日本での豊かな生活を知っているからかもしれない。

 ダムドさんは一杯のエールのためにダンジョンに潜っていると言っていたし、僕でもそれは分かる気がする。でもそれは、この世界には娯楽や楽しみの種類が少なく、一般大衆は広い世界を知らないからだ、とも思うのだ。

 僕はこの世界をまだ詳しく知らないけど、情報溢れる地球での経験から『世界は広くて多様』だと想像は出来る。戦国時代の地方の町の人間が西洋の国々を想像すら出来なかったように、この世界の多くの人々はこの世界について想像していない気がする。精々、自分が住んでいる町を中心とした自国とその周辺国ぐらいだろう。

 この世界の無限の可能性について想像してしまった僕には、一杯のエールのために仕事をするような生き方は難しいのかもしれない。

 そう考えつつダンジョンに入り、急ぎながら奥に向かう。

 しかし一階、二階を抜け、ようやく三階の奥に到着した頃にはもう太陽が頂点を通り過ぎていた。

 つまり今から帰っても外に出るまでに日が落ちる可能性が高い。四階は三階以上に広いという話なので、やっぱり四階で狩りをしたり五階村に行くにはここで野営をするしかないみたいだ。


「ここが三階の野営地か」


 四階に向かう裂け目の横に土や丸太が積まれた簡単な壁が出来ていて、その中にいくつかのテントっぽい建物や布が敷かれた場所があり、何人かの冒険者っぽい人々が鎧姿のまま寝ていたり、鍋でスープを煮ていた。

 野営地の中には小川が流れていて、角の方にはトイレらしき穴もあった。

 入口付近で鍋をかき混ぜてる若い冒険者に話しかける。


「すみません。この野営地って自由に使っていいんですか?」

「あ? あぁ……空いてる場所なら自由に使えばいいんじゃねーか」


 冒険者に礼を言い、野営地の中を見て回る。

 場所取りされてある場所は全体の五分の一ぐらい。まだまだ空いているスペースはある。

 テントっぽい建物を設営しているということは長期滞在を視野に入れているのだろうか? まぁ確かに、ここまでの距離を考えると出来る限り長く滞在した方が効率は良さそうだ。


「よし、じゃあ四階に行こうか」


 野営地のチェックが一通り終わったので本来の目的である四階に行くことにした。

 今回の目的は、四階に出現するCランクモンスター『グール』の調査だ。

 聞いた話によると、グールは素早くて耐久力も高く、ここのダンジョンでは一つの壁になっているらしい。ここに勝てなくて万年Dランク。なんてことも珍しくないとか。

 そしてここからは死者の数も跳ね上がる。

 気を引き締めながら裂け目を通り、四階の地を踏む。


「景色は似てるね」


 四階に変わっても相変わらず森と草原系の場所。代わり映えはしないけど、安心感はある。

 いつものようにマギロケーションを頼りに移動を開始する。

 草原を抜け、森に入り、いつもより慎重に、慎重に……いたっ!

 二〇~三〇メートルぐらい先、森の中に佇む一体のグール。

 見た目は普通のゾンビに近い。しかしゾンビはフラフラヨタヨタしていたのに対し、グールは腕をだらんと下げ、前かがみの体制で、今にも飛びかかってきそうな雰囲気があった。


「……とりあえず先制攻撃は魔法でいこう」


 物理でやれるかもチェックしたいけど、気付かれてないことだし最初は安全にいきたい。

 周囲に人がいないことを確認し、魔法を構築する。


「神聖なる光よ、解き放て、白刃ホーリーレイ


 虹色に輝く円錐形のツララをグールに向けて放つ。


「ガッ!」


 しかし遠すぎたからか、グールは身を捻ってそれを避ける。

 が、避けきれずに左腕を飛ばされる。


「上出来!」


 こちらに走ってくるグールを迎え撃つためにミスリル合金カジェルを構え、大きく振りかぶった。


「はっ!」

「ガアッ!」


 ミスリル合金カジェルとグールの右腕が激突し、こちらが弾かれる。


「強い!」


 弾かれた勢いのまま横に一回転し、そのままミスリル合金カジェルを横に薙ぐ。

 それがグールの横っ腹にめり込むけど、グールはたたらを踏むぐらいで止まる。

 ゾンビが相手なら吹き飛ばせてたのに! これは正面から攻撃を受けるのはヤバすぎる!

 それからミスリル合金の中程を持ち、二度、三度とグールの攻撃を受け流し、四度目の攻撃を横に弾いた。その瞬間、グールに前蹴りを入れてバランスを崩し、瞬時に魔法を詠唱した。


「神聖なる光よ、彷徨える魂を神の元へ《ターンアンデッド》」


 次の瞬間、グールの体を包むように光の輪が現れ、グールがガクガクと震えた後、地面に崩れ落ちた。

 そして光の輪が消えた後、僕も地面に膝をついた。

 そして体に溢れる光――女神の祝福。


「……はぁ」


 いやぁ疲れた。想像していたより強い。やっぱり僕にはまだ早い相手なのは間違いないと思う。

 とにかく初撃で腕を一本取れたのが良かった。それと切り札のターンアンデッドがあって良かった。

 どちらかが欠けていたらもっと厳しい戦いになったと思う。両方欠けてれば終わってた。

 しかしこのタイミングで女神の祝福を得られるとはね。まるで『厳しくてもこの四階で戦え』と誰かに言われているかのようだ。

 それにしても――


「ターンアンデッドさん、強すぎない?」

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