第224話 三階攻略と迷い

 それから毎日のようにダンジョン二階でゾンビを倒し、一階に子供達がいた時はマッドトードをあげたり、たまにリゼを召喚したりして過ごし、シオンが四回目の女神の祝福を受けた段階で三階でのレベル上げに移行することにした。三階にもゾンビは出るらしいので、僕がスケルトンを倒し、シオンがゾンビを倒せば今までとそんなに変わらないだろう。

 翌日、いつもの宿屋を出てダンジョンに向かった。

 シオンが聖水を出せるようになってから聖水は買わなくなったので、ダンジョンには直行だ。

 裂け目に入り、一階を抜け、二階を抜け、三階に到着。その景色は一階や二階とさほど変わらない。


「さて、やりますか!」

「キュ!」


 マギロケーションで冒険者が少ないエリアを探してモンスターを探し、最初に見付けたスケルトンに狙いを定め、一気に走り寄ってその頭蓋骨をミスリル合金カジェルで叩き割った。

 スケルトンがその場に崩れ落ち白骨死体が残る。


「やっぱりここのスケルトンも問題ないね」


 エレムのダンジョンで戦ったスケルトンと強さはあまり変わらないと思う。でも、持っている剣が少し違う。

 剣身がボロボロで刃こぼれや錆まみれなのは同じだけど、剣の柄とかのデザインとか剣の太さや長さがまるで違う。同じスケルトンだからどこでも同じ装備、というわけではないらしい。

 彼らにも地域ごとに文化や風習の違いがあるのだろう。


「で、その剣をどうするか……」


 エレムのダンジョンでもそうだったけど、スケルトンが落とす剣の買取価格は非常に安い。武器としての価値はなく、鉄としても質が悪くて価値が低いとか。冒険者としては他に持って帰れそうなアイテムがなければ渋々持ち帰るけど、基本的には捨てていく人が多いらしい。

 僕は魔法袋があるから重量オーバーでも持ち帰れるけど、それで魔法袋を持っていると疑われるリスクを取ってまで持ち帰りたくはない感じ。このあたりのアイテムの取捨選択はかなり重要で、時には価値のあるアイテムでも残して帰らなければいけないこともある。魔法袋があってもそれは基本的に変わらない。

 思い出してみると、硬派なリアル系RPGなんて呼ばれてたゲームでもアイテムの所持量は多かった気がする。武具なら二~三セットぐらい持ち運べて当たり前みたいな感じ。やっぱり『アイテムが持てないから町に帰るしかなくなる』という状況はプレイヤーにとっては単純にストレスでしかないのだろう。しかし現実ではそうはいかない。鎧なんて普通は邪魔すぎて複数持てないし、僕にしても鎧は魔法袋に入らないから持ち帰れない。もしこのダンジョンで大きなモンスターやドロップアイテムが多いモンスターを倒しても大部分のアイテムは諦めて捨てて帰ることになるだろう。

 ボロボロの剣をポイッと投げ捨て、魔石を拾って次を探す。

 暫く森を歩いているとゾンビを見付けたのでスタスタと近づいていく。


「シオン!」

「キュ!」


 シオンの目の前に現れた虹色の水がゾンビにかかり、ゾンビが絶命した。

 ゾンビは動きも遅いので、もはやただの作業と化している。

 ゾンビから魔石を取り、盗っ人のようにゾンビのズボンのポケットをまさぐっていく。


「おっ! ラッキー!」


 このゾンビは財布的な布袋を持っていて、中には銀貨が二枚、銅貨が五枚も入っていた。中々にブルジョワなゾンビだ。

 商店街のくじ引きのガラガラしたヤツで青玉を引いたぐらいの嬉しさが込み上げてくる。

 中には銅貨の一枚すら持っていないシケたゾンビもいるので、たまにこういうゾンビがいると殺りがいがある。

 ……って、カツアゲしてる不良みたいな感覚になってくるな……。良くない良くない。

 しかし、このお金はどこから来ているのだろうか? ゾンビが出るような階層で死ぬような冒険者は少ないし、冒険者から奪ったお金とは思えない。つまりこれはゾンビが生前所持していたお金か、もしくはダンジョンが生み出しているモノなのだろう。もし後者なら、この世界のお金はダンジョンが生み出している?


「あっ!」


 よく考えてみると僕はこの硬貨を例の白い場所で選んだ特典で貰ってカリム王国で使い、そのままこのカナディーラ共和国に来ても同じ硬貨を使っている。


「もしかして、ダンジョンから出る硬貨がどこも同じモノで、それが統一通貨化している?」


 この世界では国が通貨を発行していない。もしくは発行しているけど統一通貨が便利すぎて使われていない感じか。もしそうなら、お金が出てくるダンジョンってこの世界の国々からするとまさに打ち出の小槌的な存在で、国力にも関係する重要な存在なのかも。


 なんてことを考えつつゾンビとスケルトンを狩り続け、幾日か過ぎた。

 シオンは五回目の女神の祝福を受け、僕は――まだ特に変わっていなかった。


「どうすればいいと思います?」

「知らねぇよ!」


 冒険者ギルドの酒場で飲みながらこぼれた僕の悩みをダムドさんが適当に流す。

 最近はダンジョン帰りの冒険者ギルドにダムドさんや顔見知りの冒険者がいた時は積極的にコミュニケーションを取っていくことにしているのだ。


「いやね、最近は女神の祝福も貰えないし、停滞してるなって……。ちょっとこれでいいのかな? って思うんですよね」


 少し酔ってきた僕がそう言うと、ダムドさんはエールをガッと飲み干して口を開いた。


「毎晩こうやって飲んで騒げるだけの金を安定して稼げる。これのどこが不満なんだよ。俺達冒険者は、この一杯のためにダンジョンに潜ってるんだぜ!」


 そう言って彼はジョッキを掲げ、次の一杯を注文した。

 まさに『宵越しの金は持たねぇ』的な江戸っ子スタイル。そういう生き方も悪くはないと思うけどね。


「もう少しリスクを取って四階に行くべきかって、考えちゃって……」

「四階ってお前、女神の祝福は何回ぐらいなんだ?」

「あ~……確か一六回ぐらいだったような……」

「一六回……それよ、目安としてはDランクに成り立てぐらいだぞ。Cランク帯なんざどう考えても早すぎだぜ」


 ダムドさんはそう言った後、少し考えてから話を続ける。


「お前、見た感じ、冒険者になってから一年とかそこらだろ? そもそもの考え方がおかしいんだよ。女神の祝福なんざEランクぐらいからは年に数回程度が普通だぞ。それで何年かやってようやく一つ上のモンスターと戦えるようになるんじゃねぇか。なにをそんなに焦ることがある。お前はまだまだ若いだろ」


 そう言われて『確かに、そうかも』と思う。

 確かに僕が最初に冒険者登録してから現在で半年と少しぐらい。それはもう冒険者としては駆け出し中の駆け出しだ。普通の冒険者にとっては、Cランク帯とか目指すような段階じゃない。

 僕は、先に進もうとしすぎているのだろうか?

 強くなる必要性はランクフルトのスタンピードの頃から感じていたし、このダンジョンにはレベル上げに来たのだけど、命を賭けるリスクを取ってまで無理にレベル上げをする必要があるのだろうか。

 Cランクのモンスターは強さがグンと上がるという話だし、このまま三階のスケルトンを相手に他の冒険者と同じように時間を掛けて安全にレベル上げをしていっても十分なのでは?

 現時点では特に急がなければならない理由もない。


「そもそもだ。その女神の祝福の回数でスケルトンをソロで倒せてるのがおかしいんだよなぁ。ランクはパーティ基準で考えられてるんだからよ。DランクのスケルトンはDランク成り立てのソロでは倒せねぇ。普通はな」


 ダムドさんはそう言って肉を口に放り込む。


「でもよ、本当に上に行く冒険者は女神の祝福の回数が少なくても格上に勝つ……なんて噂も聞くからよ。まぁ、お前がそうなるかどうかは知らんがな」


 ……う~ん、上に行く冒険者は女神の祝福が少なくても強い。これは例の白い場所で見た種族とかアビリティの違いが関係しているのだろうか?

 種族によってパラメータの数値に大きな違いがあったし、アビリティが本当に才能を表しているのだとすると、それによっても大きく変わってくるはず。もし種族やアビリティによって差が出るのだとしたら、僕にはそれなりに才能はあるという判定になるはず。


「まぁ、俺は忠告したぜ。後は自分で決めるんだな」


 そう言ってダムドさんは残りの酒を流し込み、酒場から消えていった。

 それを見送りながら考える。

 あの白い場所でのこと。南の村でのこと。送り出してくれた風の団の皆のこと。

 そして、この町での無名冒険者の扱いのこと。

 僕はこれから、どういった人生を歩みたいのだろうか。


「……よしっ!」


 立ち上がり、店の外へ向かう。

 気持ちは固まった。

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