第203話 ボロックさんとの再会
それから数時間後、急に滝の水が止まり、洞窟の先が見えるようになった。
「行きましょう」
ミミさんに促され全員で洞窟の外に出ると、いつか見たあの景色が広がっていた。
真っ暗闇の中、断崖絶壁に囲まれた滝壺と、それを淡く照らす二つの月。少し恐ろしくもあり、美しい光景。
また、ここに戻ってきたのだ。
「うわぁ……」
「本当に水が止まったのか? どういう仕組みなんだ?」
全員、周囲をキョロキョロを見渡しながらも向かい側の崖にある洞窟へ進んでいく。
そしてそのまま道沿いに洞窟を暫く歩くと、ついにドワーフの里が姿を表した。
本当に懐かしいや。まさかまた戻ってくるとは思わなかった。
真っ暗闇の中、光源の魔法の明かりを頼りに石造りの家が建ち並ぶ道を進むと、ただ一軒、木の窓の隙間から光が漏れている家があった。この家のことはよく知っている。ボロックさんの家だ。光が漏れているということは在宅中なのだろう。
ミミさんがその家の扉をコンコンとノックすると、中から人の気配がしてドアが開き、懐かしい顔が現れる。
「騒がしいと思うたら、お前さんかい」
「ボロック様、お久しぶりでございます」
「こんな大人数で、一体どうしたのかの? っと、ゴルドも、モス伯爵も……ルークまでおるのか?」
「お久しぶりです、ボロックさん」
「こりゃまた、ただごとではないのぉ……まぁええわい。とりあえず入りなさい」
◆◆◆
「なるほどのぉ、黄金竜が……。どうりで洞窟の雰囲気が変わったわけじゃ」
ミミさんが今の状況を一通りボロックさんに伝えると、ボロックさんはそう言って大きく息を吐いた。
そして僕達の顔を見回しながら言葉を続けた。
「それで、黄金竜の巣に入りたいから案内しろ、という感じかの?」
「概ねお察しの通りです」
「ふむ……」
そう呟いた後、ボロックさんはなにかを考えるように難しい顔で腕を組みながら髭を触った。
「どうしたんだよ、ボロックの爺さん。なにか問題でもあんのか?」
なんだかスッキリしない感じのボロックさんに苛立ったのか、ゴルドさんが声を上げる。
「問題もクソもないわい! あの場所は、無闇矢鱈に立ち入ってよい場所ではないんじゃ。それが分からんのか?」
「おいおい、あの場所への道を見付けた張本人がなにを言ってんだか」
「それは……ワシも若かったんじゃよ」
「ボロック様、黄金竜の巣に行けない理由でもあるのでしょうか? 確かに黄金竜の巣の重要性と危険性は理解しているつもりですが、今はその黄金竜もいませんし。今回の調査は公爵様からの直接の依頼ですので、このままなにもせずに帰るわけにもいかないのですが……」
ミミさんが少し困惑したような顔でそう言った。
ミミさんのこういう顔は初めて見たかもしれない。
「……本当に公爵自身が決めたのかのぅ?」
「ボロック殿、それは俺が保証する。確かに公爵閣下が決めたことだ」
モス伯爵が力強く断言した。
「……エルクのやつ、自分の息子になにも話さずに逝きおったな。あれだけここのことは次代に語り継ぐように言っておいたのに……そうか、確かあいつは突然死。それで引き継ぎが――」
エルク、というのは確か前公爵の名前だったはず。例の日記も突然、更新が途絶えて終わっていた。ルシールの存在はそのせいで公表されなかったはずだ。
しかし、黄金竜の巣とは、どんな場所なのだろうか? どんどん興味が膨らんできた。
「仕方があるまい。案内はしてやろう。しかし各々、あの場所のことは決して漏らすでないぞ? そして公爵にことの仔細を必ず報告するのじゃぞ」
ボロックさんは「用意してくるわい」と言って部屋の奥へと引っ込んでいった。
その背中を見送ったゴルドさんが疑問を口にする。
「おい。黄金竜の巣ってよ、黄金竜を刺激しちゃマズいから立ち入り禁止なんだよな?」
「はい。私はそう聞いてますね」
その問いかけにミミさんが答えた。
顔を見合わせた二人はダリタさんの方を見る。
「いや、あたしも父上からはそう聞いていたがよ。セム爺はどうなんだ?」
「俺も同じ……。いや、確か先代が『黄金竜の巣には問題が多い』とかなんとか言っていたか……」
う~ん、なんだか予想とは少し違う方向に話が進んでいるような気がするのだけど、気のせいだろうか?
整理しよう。
黄金竜の巣は黄金竜の素材、主に鱗や毛などが落ちている宝の山。
しかし黄金竜を刺激すると危ないので普段は立ち入り禁止。
そもそもボロックさんしか道を知らないので普通は入れない。
今は黄金竜が留守なので巣の中に入っても比較的安全である可能性が高い。
過去にボロックさんが成功させたという実績もある。
むしろ調査と素材の回収が出来る今のタイミングは大チャンス。
だけどボロックさんが嫌がるということは、他になにか問題でもあるのだろうか?
う~ん……。
◆◆◆
「では行くかの」
そんなこんなでボロックさんを連れてドワーフの里を出て、道を引き返す。
どうやら黄金竜の巣に続く道があるのは例の滝の付近らしい。
「ボロックさん、お久し振りです」
こちらに戻ってきて色々と立て込んでいてちゃんと挨拶出来ていなかったので、洞窟を進みながら改めてボロックさんに挨拶する。
「おぉルーク、久し振りじゃな。またこんなもんに巻き込まれおってからに……」
「いやいや、ボロックさんが推薦したからじゃないですか」
こんな重要そうな任務に抜擢されたのは大体ボロックさんのおかげだ。ボロックさんが手紙に色々と書かなければこうはなってなかっただろう。
「ボロックさん、なんで僕をクランに推薦したんですか?」
「……あんな凄い回復魔法を持つお前さんを見過ごすわけにはいかんじゃろうて」
まぁ、それはそうかもしれない。魔法では治らないとボロックさんが言っていた死の粉の病を治してしまったのだから。
僕もボロックさんにおかしいと思われる可能性は考えていた。でもボロックさんを見捨てるという選択はなかったし、仮におかしいと思われても山奥に隠居しているボロックさんではそこまで影響はないと考えていたし、仮にボロックさんが影響力を持っていたとしてもアルノルンの町からはすぐに発つつもりだったので、そこまで問題はないだろうと考えていた。
結局、問題大アリだったのだけど。
「ボロックさん、黄金竜の巣にはなにがあるのですか?」
今現在、気になっていることを聞いてみる。
「……ここで言っても信じられんじゃろう。ここまで来てしもうたなら実際に見てみるのが分かりやすいわい。じゃがの、ここで見たモノは誰にも言うでないぞ?」
ボロックさんはそう言うと、また前を向いた。
う~ん、これはなんだかちょっと面倒そうな感じがするけど、どうなのだろうか?
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