第119話 黒いスライム

「不浄なるものに、魂の安寧を《浄化》」

 魔法の発動と共に右手から放たれたオーラの輝きが通路を満たし、床、壁、天井までもビッシリと覆っていた黒い汚れを浄化して白い粒に変えた。天井からパラパラと白い粒が落ちてくる。

「だめだ。キリがない」

 階段から入って浄化しながら通路を進み、コの字の階段を下りてまた通路を進んできたけど目的のは見えてこない。何となくこの黒い汚れが悪いモノだと感じたので浄化してたけど、このまま進むと魔力が尽きてしまいそうだ。浄化しながら進むのは無理そうだ。

 そう考えていると通路の上の方からゴゴゴゴと重たい物を引きずるような音が聞こえてきて、その後にドンッと何かがぶつかる音がした。

「ああっ! ……はぁ」

 ここからでは見えないけど十中八九エラルディンの扉が閉まった音。

「閉じ込められた……とは思いたくないな」

 恐らく大丈夫なはず。自動ドアが閉まっただけだ。触ればまた開いてくれるさ。


 意を決して黒い汚れに一歩を踏み出す。新雪を踏み抜いたようなグズッとした感触。何だか凄く嫌な気分になったけど、それを無視して靴底でグリグリしながら足下を確かめる。

「いけるかな? 歩きにくいけど」



◆◆◆



「えっ?」

 ギュッともグチュとも聞こえるような音を響かせながら漆黒に染まった通路や階段を進んでいると、一〇メートルほど先、マギロケーションに何かの反応があった。槍を構え、慎重にその反応へと近づいていく。

 近づくにつれ、光源の魔法の光が少しずつそれを照らし出し、その姿が見えてきた。

 色は通路と同じ黒。しかし黒い軽石のような質感の通路の汚れとは違い、ツルツルとしているように見える。

 そこにあったのは重油のような黒い水溜りだった。

「スラ……イム?」

 初心者ダンジョンで見たスライムと似ている気がする。しかし色が違う。単純にスライムがこの通路の色に染まっただけとも考えられるけど――

「――っつ!」

 突然、黒いスライムが丸くなったかと思うと、いきなりこちらへと凄い勢いで飛びかかってきた。それを咄嗟に槍で受け流しながら体を捻って避ける。が、黒い汚れの層に足を取られてバランスを崩してしまう。

 くそっ! これは普通のスライムじゃない!


 足を踏ん張りながら、ミスに気付いて舌打ちしそうになる。

 先に地面だけでも浄化しておくべきだった。これじゃあ戦いにくい!

 左手で地面の黒い汚れに楔を入れるようにして体を支え、スライムの方を向く。そしてまた飛びかかってきた黒いスライムを、足を滑らさないように最小限の動きを心がけながら迎え撃った。

 飛んできた黒いスライムを槍の石突で打ち返す。黒いスライムは壁に勢いよくぶつかり、すぐにその反動を生かして跳ねるように飛ぶ。それに合わせて槍を叩きつけ、また弾き飛ばす。そうして、時にバランスを崩して床に転がったり、全身真っ黒になりながら何度も黒いスライムとぶつかり合った。

 やがて黒いスライムの動きが鈍くなり、吹き飛ばした壁から地面へとポトリと落ち、床の黒い汚れに吸収されるように溶けて黒い魔石が残った。


「……はぁ、終わった……ゴホッ!ゴホッ!」

 何かが気管に入ったのかもしれない。咳を我慢しながら黒い魔石を拾う。

 大きさは三センチほど、Dランクぐらいかな? 野生のモンスターは魔石の大きさが一定ではないのではっきりとは分からない。でもこの大きさだとFランクはありえないと思う。

「そりゃ強い、か」

 この黒いスライムは普通のスライムではなかった。明らかに別の種類。これがどういう類のモンスターなのかはよく分からないけど、この先にある何かが原因なのは間違いなさそうだ。

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