第118話 リゼロッテの能力

「これは……」

 二つに割れた白い石碑の間。白い石碑があった場所。その地面にぽっかりと空いている穴の中の階段は陽の光の下でも真っ黒に見えた。

 その場に片膝を付き、恐る恐る穴を覗き込む。

 陽の光が差し込まない階段の奥がどうなっているかは見えない。

 目線を手前に戻し、階段の一段目を指で触ってみる。

 グズッとした触感。見た目で黒カビかと思ったけど、違う。焼け焦げた木材の表面のような、タールの塊ような、何ともいえないこの触感には覚えがある。

「……浄化前の石碑と同じだ」

 最初、岩のように見えていた石碑の表面を触った時と同じなのだ。


「……」

 何となく嫌な想像をしてしまい、白い石碑をちらりと見る。

 この白い石碑が黒い汚れを生み出し、それが地下にまで到達した――という可能性は少ないと思う。人間が新陳代謝で表皮に垢を作り出すみたいな事をこの石碑がやってたら流石にビックリする。となると考えられるのはその逆。

「階段の先にあるナニカがこの黒い汚れを発生させていて、それがここまで侵食してきている」

 そう考えた方がしっくりくる。

 黒い汚れがこの白い石碑――エラルディンの扉にだけ付いているなら単純に汚れとか枯葉とかの堆積物である可能性が高かったけど。地下の、その壁まで黒く覆われているとなると話は変わる。

 だとすると、この階段の先には――

「出会って嬉しいが待っているとは思えないんだよなぁ……」

 それが何かは分からないけど、良いイメージが何も浮かばない。


「う~ん」

 この先に何があるのか確かめたい気持ちはあるけど、明らかにこの場所はヤバそうだ。しかしこの石碑を見た時、頭の中にエラルディンの扉と浮かんだ以上、この石碑は僕に関係する何かがあるはずで、それは気になる。

 暫く考え、そしてに聞いてみる事にした。


 彼女――リゼロッテは何らかの特殊能力を持っている。その事は流石の僕でも気がついている。それが具体的にどういう能力なのかは完全には分からないけど、今は彼女に聞けば何かヒントが得られそうな気がした。

「わが呼び声に答え、道を示せ《サモンフェアリー》」

 呪文を詠唱し、手のひらの上の聖石が崩壊していくのを見ながら、ふと思いつく。


 


 最初から答えはここにあったのではないだろうか?

 彼女の能力。そしてこのサモンフェアリーの魔法の意味。それは――

 そう考えるとスッと納得が出来た。


 パキッと立体魔法陣が割れて消え、リゼが現れた。

 いつもとは違い、手にはガラス瓶のようなモノを持っている。

「やあ、リゼ」

『あのね! あのね! ここにいる子がね、助けてー助けてーって言ってるの!』

 リゼは現れてすぐ、何に迷いもなく階段の奥を指差しながら言った。

「えぇっと、ここに子供? か何かがいるのかな? 助けてってどういう状況なのか分かる?」

 そう聞くとリゼは暫く何かを考えるように目をつむり、そして目を開ける。

『あのね! まっ黒いので出られないの! 苦しくて寂しくて、助けてー! って言ってるの!』

「なる、ほど……」

 何となくだけど、状況が見えてきた。

『助けてあげて! ルークなら出来るよ!』

 ……そう言われてしまうと行くしかない、かな。

 リゼの困った顔を見てしまうと行くしかないような気がした。

 まぁ僕も、何だかんだ理論的に考えて迷いつつも、この先へと進む理由を探していたような気がするしね。


「うん、分かった。この先に進めばいいんだよね?」

『ありがとー! ……あっそれと、これ! 長老が持ってけって!』

 リゼはそう言いながら手に持っていた五センチ程の透明な瓶を僕に差し出した。

『お菓子のお礼!』

 瓶をリゼから受け取って眺める。

 その瓶はこちらの世界では見たことがない透明な素材で出来ていて、その中には何かの液体が入っていた。それを軽くチャプチャプと振りながら聞く。

「これ、は?」

『お薬!』

 お薬? お薬……か。薬と一言に言っても塗り薬から飲み薬まで、そして風邪薬から痔の薬まで、いろいろと種類はあるし、間違った薬を使うと毒になってしまう事もあるはずだけど……。

『あっ! 時間だ! またねー!』

「あ、あぁ……いや、この薬は――」

 何の薬なのか聞く前に、リゼは光に包まれて消えていった。

「……」

 まぁいいか。今すぐ薬が必要という状況ではないし、また次の機会にでも聞けばいいや。


 それにしても……。

「妖精に長老っているんだ……」

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