第117話 黒と白の扉。その先には…
Twitterで刻一画伯による『やっつけ仕事テスラ地図1章2章分』を公開しました。
ついでに『ルークの見た風景』も随時公開していきます。
刻一画伯による素晴らしい挿絵にイメージが膨らむか、イメージがぶっ壊されるかはあなた次第だ!( ・`ω・´)
――――――――――――――――――――――――――――――
山頂に並ぶ大小様々な岩の中に埋もれるようにその岩はあった。
高さ二メートルほどの四角形。他の岩と比べると黒っぽく、まるで何者かがこの場に縛り付けようとしたかのように蔦がからみついている。
「エラルディンの扉……エラルディン……の扉?」
頭の中に浮かぶ謎の言葉を何度も繰り返しながら考えていく。
扉……? どう見ても岩……だよね?
エラルディンとは何か、という前に、扉とは何か、という疑問が湧いてくる。
岩を観察しながらゆっくりと近づいていく。
恐る恐る、蔦やその葉をかき分けて岩を触ってみると、表面に苔でも生えているのか何かの堆積物が付いているのか、グズッという感じの感触と共に黒い何かに指が沈み込み、ボロボロと崩れて落ちた。
「うわっ……」
慌てて引き抜いた指先に付いた黒い何かを払って落とす。
何だかよく分からないけど、このエラルディンの扉とやらは物凄く汚れているみたいだ。
岩を乗り越え、草をかき分けて岩の周囲を一周しながら観察していく。
やはり全体的に黒く汚れていて、全体的に何かの植物の蔦がからみついていた。
「う~ん……」
さて……どうするべきだろうか。
今まで、僕の頭に文字が浮かんだ場合、僕に関係する何かがあった。恐らくこの岩にも何かがあるんだろう。
そして、コレを綺麗にするなら浄化を使えばいいはずだ。どんな頑固な汚れでも一回の洗濯……いや魔法で綺麗に出来る浄化なら、この黒い汚れも綺麗に出来るはず。でも……。
「前にも似たような事があったんだよなぁ……」
そう……。妖精の庭にあった妖精の門。あの時は妖精の門が汚れているように感じたので、深く考えずに何となく浄化を使ってみたら、漂白剤でも入ってんの!? とツッコミたくなるほど綺麗に変わって冷や汗をかく事になった。
神聖魔法は外で軽々しく使うべきではない、とあの時は痛感したのだけど。でもあの時、妖精の門に浄化を使わなければリゼとも出会えなかったかもしれない。
それは悲しい事だと思う。
今回のコレに関しても、浄化で綺麗にすればこの岩の変貌ぶりが注目を集める事になるかもしれない。でも、あの時のように――リゼの時のように、この先には新たな出会いが待っているかもしれない。そう考えると心に光がさした。
「決まりだな」
結論は出た。
まぁどうするかは最初からほぼ決まっていたのだけどね。それでも考える事は重要だ。何も考えずに行動すると、何かあった場合に大きな後悔が残る。でも、考えて、考えて、自分が納得してから行動したなら、その先に何が待ち受けていても納得は出来る。
右手を黒い岩に向けて呪文を詠唱した。
「不浄なるものに、魂の安寧を《浄化》」
体から駆け巡る魔力が右手に集まり、輝くオーラになって黒い岩に降り注ぎ、その周囲をグルグルと動きながら包み込む。そして輝くオーラに触れた黒い汚れのようなモノが浄化され、白い粒となってパラパラと落ちていった。
暫く魔法を発動し続け、何となく浄化が終わった、という手応えを感じたところで浄化を止める。
「……」
そのままその岩の周囲をぐるっと回って全体を確認していく。
周囲に散乱する白い粒。既にあの黒い汚れはどこにも見当たらない。海からの潮風が優しく周囲の木々を揺らす中、からみついた何かの植物の蔦はそのままに、太陽の光を受けて白く輝く四角柱の物体。
白く輝く四角柱の物体。
大事な事なのでもう一度……いや、そんな場合じゃなくて。
「やっちまった!」
まさかこんな激変するなんて……。
納得出来たからといって後悔しないとは限らないんだよなぁ……。
そう考えながら空を仰いだ。
◆◆◆
「う~ん……どうしよう」
真っ白になった岩。いや、今はもう岩とは呼べない白い物体を見ながらつぶやく。
葉っぱとか被せて蔦とかをもっと巻き付ければカモフラージュ出来るだろうか? 幸いにもこの場所はこの山を超えるコースからは外れている。人通りも少ない。僕みたいな変わり者が探検しにこない限りは見つかりにくいだろう。
「いや……」
そこまで気にする必要はないか。どうせすぐに別の場所に行くしね。
それより今はこのエラルディンの扉そのものについて考えないと。
エラルディンの扉に近づいてしっかりと観察してみる。
形は四角柱。色は白。材質は……妖精の門と同じように見える。そして蔦とその葉に覆われていてはっきりとは見えないけど、妖精の門と同じように表面に何かの模様があるようだ。
だとすると……。
恐る恐る右手を出してエラルディンの扉に触れてみる。
するとその瞬間、エラルディンの扉の表面の模様が輝きだし、ゴゴゴゴと音を立て、蔦を引き千切りながら縦に二つに割れた。
「おおおおぉっ!?」
何だこれ! ちょっと予想外なんですけど! てっきり妖精の門の時みたいに魔法覚えられるとかそんなのだと思ったのに!
そんな事を僕が考えている間にもエラルディンの扉は広がり続け、そのまま一メートルほど広がった後、やっとその動きを止めた。
「扉って……自動ドア?」
いやそんな……山頂にこんなオーパーツな自動ドアだけ設置とかシュールすぎる……。と思いながら目線を下へと落とすと、そこには真っ黒に染まった地下へと続く階段があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます