第28話 勧誘、思案、返答
それからしばらく、お互いの事やら世間話やらで盛り上がった。
メルの機嫌も直っている。
そして話が一段落して、会話が途切れた時、ダンが真面目な顔でこんな事を言い始めた。
「なあ……ルークはパーティ組んでないんだよな? それで、パーティを組む気はある、とも言ってたよな? ……良ければさ、俺達のパーティに入らないか? メルとラキもいいだろ?」
そう言ってダンは皆を見た。
外野からは「あんな魔法が使えると知ってたら先に勧誘してたのによ」とか「万年草むしりのおめーらに回復持ちなんて必要ねぇだろ」とかガヤガヤと聞こえてくる。
外野も外野で盛り上がっているようだ。
メルが真っ先に答える。
「いいんじゃない! 回復魔法持ちなら大歓迎よ!」
その後、少し考える素振りを見せたラキも頷きながら「いいと思う」と言った。
いきなりの勧誘に僕は少し驚いていた。
まさかそういう流れになるとは思わなかったし。
いや、回復魔法持ちが珍しいなら、そうなるのは必然なのか?
んー、これは渡りに船と言えるのだろうか? パーティについては考えていたところだし。
少し話しただけだけど彼等は悪い人ではないと感じた。それに久しぶりに同世代と対等に喋って、笑って、楽しかった。彼等とは、またこうやってワイワイ騒ぎたいとも思った。
それで十分な気もする。
でも、もっと慎重に考えないといけない事のような気もする。
うーん……。すぐには答えを出せそうにない。
物語の主人公達ならパッと即答出来るのだろうか? 僕には無理そうだ。
「少し考えてもいいかな? 明日には返事するからさ」
◆◆◆
朝、一階でゴトゴトと酒場のマスターが仕込みを始める音で目を覚ました。
この宿に泊まるようになってから毎日この音で目を覚ましている。
しかしそれも今日で最後だ。
昨日は、あれから部屋に戻って色々と考えた。
でも最初から順序立てて考えていくと、意外と簡単に答えはまとまった。
まず、この村での生活は低い位置ではあるけど安定してきた。でもこれ以上の何かをするなら、とりあえずはどこでもいいから大きな街へと出る必要がある事。
そして、僕はこの世界を色々と見ていきたい事。
ヒーラーだからこそパーティに所属する必要性を感じた事。
僕をパーティに誘ってくれる彼等の事。
その彼等を良い奴だと思った事。
彼等が拠点としている場所が大きな街で、これからそこに帰る事。
そうやって順番に考えていくと、迷う必要なんてなかったのでは? と思うほどあっけなく、答えは目の前にあった。
そして僕は彼等のパーティに入る事にした。
部屋を出て階段を下り、一階の酒場へと歩く。
これまでの毎日、出かける前にここで薄い葡萄酒を買って水筒に入れる。
誰も井戸水は生のままでは飲んでないし、他の冒険者もこれかエールを買って入れているので僕も真似ている。
「マスター。今日から町に出ようと思います。お世話になりました」
そう言って軽く頭を下げる。
最後だし酒場のマスターに別れの挨拶をした。
この村と、そしてこの宿屋には二週間ほどしかいなかったけど、なんだかんだで最初に降り立った場所だし、のどかな村という事もあって愛着も湧いてきていた。こうやって別れの挨拶をしていると寂しい気持ちになってくる。
マスターはこちらを確認すると、「……おう、また泊まってくれや」と言いながら軽く片手をこちらに振り、仕込みへと戻っていった。
それを見送ると、僕は踵を返して歩きだした。
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