第64話 サモンフェアリーとリゼロッテ
聖石を指でつまみ、天井にある光源の魔法の光を透かすようにして見る。
そのまま、例の魔法を使ってみようと考えてみた。
「……あ……やっぱりそうだ。これだ。これなら上手くいく気がする」
何となく、その感覚で、あの魔法に必要なのはこの聖石なのだと感じた。
「あっ……そう言えば」
前にギルドで見た本に、高難易度の魔法には魔石が触媒として必要な場合がある、というような記述があった気がする。
聖石は魔石とは違う? だろうけど。もしかすると六属性魔法の触媒が魔石で、神聖魔法は聖石なのかもしれない。
腕を組み、右手で顎を触り、ぐるぐると部屋中を歩き回りながら考える。
初めての魔法。どんな事が起こるか分からない。このままこの場所で、この魔法を使ってもいいのだろうか? 問題ないのだろうか? 別の場所に移動した方がいいのではないだろうか? リスクは? メリットは? デメリットは?
歩きながら色々と考えていく。
考え事をする時は、歩く。歩くと何故か考えがまとまっていく。それが何故だかは分からない。しかし脳内作業が捗るのだ。偉い人もそう言っている。
暫く、ぐるぐると歩き続けながら考え、そして立ち止まる。
「うん、わからない。考えがまとまらないな!」
……まぁこんな日もあるさ。
ベストな行動をチョイスしても、ベストな結果が出るとは限らないのだから。
よし! とりあえず使ってみよう!
考えても答えが出ない時は、まず行動、あるのみだ。
ゆっくり深呼吸して気持ちを切り替える。
聖石を右手の手のひらに乗せ、目の前に掲げる。
そして静かに、ゆっくりと呪文を唱えた。
「わが呼び声に答え、道を示せ《サモンフェアリー》」
その瞬間、僕の中の魔力が身体中を駆け巡り、右手へと収束し、そして手のひらの上にある聖石へと流れ込んだ。
そして虹色に輝いていた聖石が輝きをさらに強め、その輝きが流れとなって手のひらの上で踊る。
そのまま僕の残りの魔力を半分ほど吸い込んだ頃、魔力の流出が止まり、聖石が外側からホロホロと崩壊して周囲の輝きの渦に飲み込まれ。その渦がぐるぐると渦巻きながら立体的な丸い魔法陣へと変わっていく。
「……っ」
自分の手のひらの上で始まった物凄い光景に驚きすぎて声が出ない。
魔法って、呪文を唱えると魔力が放出されながら何かに変換されて効果が現れる的な感じに考えていたけど、今、僕の目の前で起こっているコレは、そういうモノとはまったく違うナニカだ。
一般的に知られている六属性魔法のように、属性を操る魔法とは明らかに違う。
何が違うのか、それが何なのかを説明しろと言われても、今の僕には説明出来る気がしないけど、明らかに違うのだ。
そうこうしている内に、完成した立体魔法陣がぐるぐるとゆっくり回転し始め、暫くすると中央付近に光が現れて、その光が少しずつ形を成していく。
そして魔法陣がパキンと割れ、飛び散って消えた。
『こんにちは!』
「えっ……あ、はい、こんにちは」
反射的に返事をしてしまう。
しかし、いきなりすぎて頭の中が状況についていけてない。
僕の手のひらの上に浮いている、彼女。
彼女、は身長二〇センチほどで、金色の長い髪を後ろに纏めていて、服はクリーム色のチュニックにショートパンツ。そして、背中には二対四枚の半透明な羽が付いていた。
『ひさしぶりだね!』
そう言われて……困る。
どう考えても会った記憶がない。
と言うか、こんな不思議な女性と会ったら忘れるわけがないよね? 絶対に覚えているはず。
もしかして、宇宙人に記憶を改変されたのか! くそっ! 宇宙人め!
……とかつまらない事を考えるほどには焦ってしまった。
ああ……。いきなり知らない人から友達のように話しかけられるけど、まったく顔を思い出せない時のアレだ……。そして何とか相手に合わせながらヒントを得つつ、何とか思い出そうとするけどまったく思い出せないっていう……。
まぁ今は異世界に来てから数ヶ月だし、過去に会ってるなんて事はないはずなんだけど……。今回は素直に聞こう。
「えぇ……っと。どこかで会ったかな?」
僕がそう聞くと、彼女はちょっと怒ったような顔をした。
『えー! 会ったよー! ほらー、お庭で!』
お庭? 庭? 庭……庭……ん? 妖精の庭か!?
よく思い返してみると、あの時、最後に何かの声が聞こえたような……。
「えーっと、妖精の庭かな?」
『覚えてた! あのね、わたしリゼロッテ! みんなはリゼって呼ぶの! よろしくね!』
「あ、はい、僕はルーク。よろしくね」
そう挨拶すると、彼女、リゼロッテはニコニコと何か嬉しそうに微笑んでいた。
よかった。やっぱり妖精の庭で合ってた。でも、合ってはいたけど会ってはいないと思うぞ。でも声は聞いたような気がするから、会っていたのだろうか? 何かもうよく分からなくなってきた。
『あのね、あのね、今日ね、お庭にね、青い花が咲いていたの』
「ふむふむ」
『でね、その青い花に黄色い虫さんがいたの』
「ほう?」
『だからね、うんしょうんしょって、その虫さんを別のところに運んだの』
「ふーん、なるほど」
『それからね、青い花のね、上でね、お昼寝したの!』
「ほー、気持ちよさそうだね」
『あっ! もう帰らないと! じゃあ、まったねぇー』
「あっ、はい。また今度ね」
そしてリゼは光に包まれると、パシュンと一瞬でその場所から消え失せた。
「……えっ? えぇ……」
賑やかだった空間が一気に寂しくなったように感じた。
外を歩く誰かの音や、一階で飲んでいる冒険者の声が遠くに聞こえる。
「いや、あの……うーん」
何と言えばいいのかな……。いや、うん、これはさ。
「これは……どういう魔法なんですかね?」
大量の魔力を使って妖精さんとお話しする魔法?
えぇ……何この、夜の街の綺麗なお姉さんが一杯いる店みたいなシステムの魔法は!
まぁ確かに妖精さんはかわいかったけど! かわいかったけど!
……魔力ほとんど持ってかれたよ……。
「これはちょっと、頻繁には使えない魔法だね……」
そして、「出てくる時はあんなにド派手だったのに、帰る時は一瞬だったな……」とか考えながら、僕はベッドに転がった。
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