第130話 その卵は、ぎゅーっとぶわー
「さっきから気になっとったんじゃがの、その首から下げとるモノは何なのかの?」
僕が卵を撫でているのを見て気になったようで、ボロックさんがそう聞いてきた。
「あ~……これですか」
少し考えたけど拒否する理由も思いつかなかったので外套を開いて卵を見せる。するとボロックさんが「触ってもええかの?」と聞いてきたので頷くと、彼は卵を手に持って色々な角度から観察し始めた。
「モンスターの卵かのう……。これは、どこかで拾ったのかの?」
「いや、モンスターの卵ではなぃ……ような気がしますけど。少し前に拾いました」
あぁ、そりゃそうか。モンスターの卵だと思われても仕方がないよね……どうしよう、これは失敗したかもしれない。危ないから潰すように、とか言われたら困るぞ。
「ふむ……食えるかの?」
ボロックさんが卵に向かって怖い事を言った瞬間、卵から焦りのような波動が伝わってきたので慌てて卵を奪い返した。
「冗談じゃよ、冗談。ほっほっほっ」
本当かよ! 僕が食べれると言ったら即、炭の中にぶちこみそうな空気出してたじゃない……。
「流石に人の卵を取って食いやせんよ。孵化させて従魔にでもするんじゃろ? ……卵は、旨いらしいがの」
ちょっと本音が漏れてるよ! ……いや、それよりも気になる単語があったぞ。
「あの、従魔ってどんなモノなのですか?」
「ん? なんじゃ、従魔を知らんのかの? ではやはりこの卵は食べるつもり――」
「はないですから」
「……そうかいの。まぁ簡単に言うならば、モンスターを使役する事じゃの」
「使役、ですか」
ボロックさんは卵をチラッと見て干物を頭からかじり、葡萄酒で流し込んでから言葉を続けた。
「うむ。モンスターを捕まえてきて使うんじゃよ。成体じゃと魔法で縛るにしても抵抗されるからの、幼体や卵から育てて馴れさせるのが理想なんじゃよ。まぁ育成や世話の手間もかかるからの、普通の冒険者が扱うにはちと大変じゃの」
そう言って彼はまた卵を見た。
いや、食べないからね!
でも確かに、強いからとグレートボアを従魔にしても町の中に連れて入るのは不可能だろうし、そのエサ代だけでもどれぐらいかかるのか想像出来ない。逆にゴブリンやフォレストウルフを従魔にしてもあまり戦力にはなりそうにない。騎乗出来るモンスターとかだと違うかもしれないけどさ。
◆◆◆
部屋のドアをパタンと閉め、机の上に卵を置いてイスに座る。
あれからボロックさんが「旨い魚でちと飲みすぎたかの」と言い、そこでお開きとなった。その後、二階の部屋を貸してもらったのだけど……その時の「息子が使っとった部屋じゃよ……」というボロックさんの言葉とさみしそうな顔を見て――僕は何も言えなかった。
「さて、と……」
気持ちを切り替えて、今やるべき事をしよう。
魔法袋の中から聖石を出し、呪文を詠唱する。
「わが呼び声に答え、道を示せ《サモンフェアリー》」
魔法を発動するといつもの派手なエフェクトの後、いつものようにリゼが現れた。幸いな事に、この家は全面石造りで光も音も漏れにくいはずだし、少しぐらい彼女を呼んでも大丈夫なはずだ。
『あっ! この子! 助けてくれたんだね!』
リゼは現れてすぐ、卵に飛びついてそう言った。
うん。どうやらこの卵でよかったみたいだね。まぁまず間違いないとは思ってたけど、万が一の可能性があるしさ。
「それでこの卵なんだけどさ、どうすればいいのかな?」
そう言って卵を指差す。この卵をしかるべき場所に持っていってあげるべきなのか、親を探してあげるべきなのか、それとも他に何かしてあげるべきなのか、よく分からなかったのだ。
『うんうん、あのね! あのね! ギューっと、ぶわっーっとしてほしいの!』
「ぎ、ぎゅーっと……ぶわー?」
いや、まったく分からないのだけど!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます