その先へ
第245話 六階でブラッドナイト
その翌日。村を出て東北へ進む。
この五階は湖を囲むように『C』の形に陸地があり、本来は南の方にある裂け目から入ってきて、湖を時計回りにグルっと一周しながら北東にある六階への裂け目に抜けるのが正道なのだろうけど、長い年月の間に冒険者ギルドが『C』を『O』にするように橋を架けた結果、四階から六階までショートカット出来るようになった。
そしてその中間に村を作ることで、四階、五階、六階を狩り場とする冒険者が日帰りで狩りが出来る環境を作り上げた。なので五階村はこのダンジョンで重要拠点なのだ。
周囲を確認しながら林の中を進んでいく。
こちら側は人の往来が多いのか、幅が二メートルぐらいの道が出来ていた。おかげで分かりやすくてありがたい。
でも、これを見ると五階を西に進む本来のルートの寂れ具合がよく分かるね。
暫く林の中の道を歩いていると、幅が二〇メートル以上ある川に木製の橋が架っているのが見えた。
「これが例の橋か」
簡易的な橋かと思ったけど予想以上にしっかりしていて少し驚く。
でも、これならモンスターなどが多少乱暴に使っても壊れないだろう。
橋を渡って対岸に着き、そのまま道沿いに歩いていくと、木と木の間から六階へ向かう裂け目が見えてきた。
持ち物を改めて確認し、最後の準備をしていく。
冒険者ギルドなどの情報によると、ここから先はモンスターのランクがまた一つ上がってBランクになる。
つまり、ランクフルトで僕やCランク冒険者などが束になっても正攻法では敵わなかったグレートボアと同じランクのモンスターがいる。
モンスターのランクは、モンスターの体内にある魔石の大きさから判断しているだけなので全てのBランクモンスターが同じように強いということではないらしいけど……。やっぱりグレートボアとの戦いを思い出すとちょっと考えてしまうところはある。
首を振り、それを打ち消すように一歩踏み出した。
「……よしっ! 行くぞ!」
「キュ!」
◆◆◆
裂け目を抜けると、そこは今までの階層とは打って変わり、枯れた木々が建ち並び、地面にはほとんど草がない荒れ地だった。
「なんか、ちょっと雰囲気が……」
これまで森を中心とした世界だったのに、いきなり荒れ地になって……なんだか世界が変わったような感じがする。
それにこれでは身を隠せるような場所があまりない。
「……まぁ、とりあえず一体、倒してみましょうかね」
マギロケーションを展開しながら慎重にモンスターを探すことにした。
ギルドで描き写した地図をポケットからゴソゴソと出して開く。
ここは他の階とは違っていて『森』や『川』等の地形を示すようなモノはなにもなく『剣の岩』とか『大樹の枯れ木』とか、ランドマーク的なモノが地図に描き込まれていた。
この地図を書き写した時にも疑問に思ってたけど、ようやく意味が分かったかもしれない。要するに六階全体が代わり映えしない荒野で、地図とするには特徴がありそうな岩などを描き込むしかなかった感じだろう。
「じゃあ……『剣の岩』でも目指してみようかな」
とりあえず近場にある目印に向かうことにして、地図の北側へ歩く。
最初の目印までの所要時間でこの階の大体の大きさを把握しておきたい。
その時間によっては……色々と考え直すことが生まれるのだけど――
「いた!」
小高い丘の向こう側に一体のモンスター。
やっぱり見えないのに分かるってのは本当にチートだと思う。このマギロケーションがなければ、いくらターンアンデッドがあってもこのダンジョンでの狩りは成功していなかっただろう。僕のターンアンデッド狩りの本質は『敵に気付かれないこと』にあるからだ。
現時点では勝つことが難しい相手にも、気付かれないように密かに接近しターンアンデッド一閃で葬り去る。相手は自分が死んだことすら気付かないだろう……。
って、思考が完全にアサシンなんだが! ここで高笑いでもすれば完全に悪役だ……。
などと考えつつ、慎重に音を立てないように乾燥して草も生えてない丘を登る。
ゆっくり、ゆっくり、一歩一歩。
額にジワリと汗が浮かぶのが分かる。
ここでモンスターに気付かれて襲いかかられると……危険だ。
流石に一撃で殺られることはないと思いたいけど、焦って戦闘中にターンアンデッドを上手く使えなければ終わってしまう。それぐらいのリスクを背負ってここにいる。
「……」
腹這いになって丘の上から顔だけ出し、向こう側を見た。
そこにいたのは赤黒い骸骨。
全身、血で濡れたかのような赤色。兜や盾や鎧も赤黒なら骨まで赤黒い。
「不気味すぎるだろ……」
アレの名はブラッドナイト。アンデッド系モンスターでBランク。この六階に出る唯一のBランクモンスターで、他にはスライムしか出ない。
名前からして分かるように、ナイト型モンスターで剣による攻撃をしてくる。つまりスケルトンの上位互換のようなモノだ。しかし、だからこそ逆に怖い。正攻法で戦うのに強いということは単純に身体能力が高いということだし。
さて……じゃあ、始めますか。
魔力を腹の奥から引っ張り出し、右手に送る。
「《ターンアンデッド》」
詠唱を破棄し、発動句だけで魔法を発動。
しかし魔力が抜けるだけでなにも起こらない。失敗。
「《ターンアンデッド》」
もう一度、ターンアンデッドを使う。
しかし失敗。
「《ターンアンデッド》」
次こそは! と願いながら放ったターンアンデッドは白い光の輪を生み出しながら発動し、ブラッドナイトをあちらの世界へ連れて行く。
そしてブラッドナイトは、まるで操り人形の糸が切れたようにグシャリと地面に崩れ落ちた。
「勝った……」
丘を滑り下り、崩れたブラッドナイトを見つめながら呟く。
なんか、こう……感慨深いような不思議な気分になる。
思えば僕が明確に『強くなろう』と思った最初の理由は同じBランクのグレートボアだった気がするのだ。
グレートボアにまったく歯が立たず、偶然持っていた麻痺ナイフで上手く切り抜けられたけど、ただただ町で普通に暮らしているだけでもあんなとんでもないモンスターに襲われるという事実に気付いてしまい、強くなる必要性を感じたし、あの麻痺ナイフがなければ甚大な被害が出ていたであろう事実に震えた。
だからこうやってBランクモンスターをあっさりと倒せてしまっていることが、なんだか感慨深い。
「まぁ、全てはターンアンデッドのおかげなんだけど」
そう。ターンアンデッドがなければブラッドナイトには勝てていない。
僕はまだまだグレートボアには勝てない。
「よしっ! ターンアンデッドがなくてもブラッドナイトに勝てるよう頑張るぞ!」
「キュキュ!」
そう、決意を新たにブラッドナイトの遺留品を剥ぎ取っていく。
……暗殺からの良さげなことを言いつつ死体漁りとは……どんどん職業が盗賊っぽくなってる気がしないでもないけど、気にしないでおこう。
「兜……は魔法袋に入らないから回収出来ないし、鎧も無理。剣は……折れてるし! 下級ポーションを持ってるって書いてたけど持ってないな……こいつろくなモノ持ってないぞ!」
「キュ!」
気にしないでおこう。
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