第246話 超超トレイン
それから『剣の岩』を目指して進み続け、またブラッドナイトをターンアンデッドで倒す。
「はぁ……」
やっぱりまだ緊張する。早くレベルを上げないとね……。
ブラッドナイトに近づき、死体を漁っていく。
鎧を外して胸の魔石を取り、腰のベルトにある剣とポーチを外して確かめる。
「剣……は使えるかな?」
鞘から抜いた剣は両刃の直剣で、恐らくは鉄製。錆や刃こぼれはあるけど研げばまだ使えそうな気はするし、持って帰って武器屋にでも売れば多少の値段にはなるだろう。しかし――
「これを大量に持って帰ったら魔法袋がバレるんだよね……」
結局はそこがいつもネックになる。
僕もそこそこは強くなってきたので、そろそろ魔法袋の存在がバレても問題ないかもしれないけど、まだ少し怖い。
今は僕の見た目が若いからただの低ランク冒険者だと思われて変に狙われるようなことはないけど、魔法袋という貴重なアイテムを持っていると知られたら僕のこの見た目は逆にデメリットになってしまう。与し易い低ランク冒険者が魔法袋を持っていると思われると厄介だ。
錆びた剣を捨て、ポーチの中を見ると、ガラス瓶が一つあった。
「おっ、これがポーションか」
そのガラス瓶は透明。直線的な形状で少し飾り彫刻も入っていて、やっぱり今のこの世界で作れるモノとは思えない形になっていた。
そしてその中に入っているのは薄い赤色の液体。量は錬金術師の魔力ポーションの半分ぐらいだろうか。
少しチャプチャプと振ってみる。
「……これがポーション、なんだよね?」
真っ赤なアンデッドが持っていた薄い赤色の液体。そう考えると嫌なイメージしかない。でも、情報からすればポーションで間違いない。しかしこの階でポーション以外が出ないとは言い切れない。
とりあえず自分で飲んでみるのは控えておいて、先に錬金術師とかに確認してみよう。
そうしてブラッドナイトから魔石とたまにポーションをいただきつつ荒野を進み、やがて目的地の『剣の岩』に到着した。
そこは小高い山の上に剣や槍先のように尖った形状の岩が見える場所で、地図の中にあった簡易的な絵とも一致している。
とはいっても僕が写したモノなので、この地図の絵はオリジナルより微妙な絵なんだけど……。
「こんなことになるなら、もっと精密に写しておけばよかったかも……」
次にアルッポの冒険者ギルドに行った時に描き直す方がいいかもね。
「さて……それよりも」
山の上、剣の岩の横から空を見上げると、太陽が真上に上がろうとしていた。
また地図を見てこの場所を確認すると、まだ地図の四分の一ぐらいしか進めていなかった。
つまり、このまま進み続けても夜までに全体の半分も進めない可能性が高い。
「これは、予想以上に広いのかも」
六階はこれまでの階より明らかに広い。ということは、この階を踏破するには野営が必須になる。
「……」
Bランクモンスターが闊歩するフィールドで野営? しかもアンデッドは夜に活動が活発になるのに? それって無理ゲーじゃない? ソロではキツすぎる……というか、パーティでもキツい気がするぞ。BランクパーティならBランクモンスターを倒せるだろうけど、夜は交代で見張りをするから戦力は落ちるはずだ。
それに四階の野営地や五階村であったように、大量のモンスターが一気に襲ってくるあの現象がここで起こればパーティでもひとたまりもない。
「う~ん……」
まぁ、この問題にはどこかでぶち当たると思ってはいたんだ。話に聞く限り、六階からは冒険者が少なすぎて複数パーティが集まるような野営地は生まれないし、当然ながら五階村のような村もない。そうなると僕みたいなソロの冒険者は一人で野営をしなければならなくなる。
そんなことが可能なのだろうか?
「……まぁ、無理だから冒険者はパーティを組むんだろうね」
それでも、野営向きな守りやすい場所があったり、なにか可能性があるかもと淡い期待を持っていたけど、実際に六階に来てみるとそんな気持ちが薄れていくのが分かる。
「なにか考えないとな……」
そう考えていると、遠くの方からドドドドッと地響きのような音が聞こえ始めた。
「なんだ!?」
慌ててその場に伏せて周囲の様子を伺うと、僕が来た方向から馬に乗った一団が猛スピードで接近してきた。
数は一〇……いや、それ以上。
彼らは僕がいる山の麓をスピードを落とさず抜けていく。
それを観察していると、その中に見知った顔を見付けた。
「公爵の五男……か」
ポーリという名の公爵家の五男。彼らが五階村に来た時は彼を含めて五人のパーティだったはずだけど、今は人数が倍以上に増えている。
よく観察すると、馬上の数人の鎧が五階村で見た公爵家の従士団の鎧と似ている気がする。つまり、従士団を大量に引き連れて六階に入ってきた?
これまで他のダンジョンでもあんな大人数で挑む人は初めて見たかもしれない。
「うぉっ!」
彼らが通り過ぎた後、それを追って一〇体ぐらいのブラッドナイトがアンデッドとは思えないような凄いスピードで現れた。
体が緊張ですくみ、一気に変な汗をかく。
クソッ! トレインだ! 今、あの数のブラッドナイト達に気付かれたら確実に死ぬ。あんなの、今の僕が相手に出来るわけがない!
山の上で身を隠しながら、奴らが通り過ぎてくれるのを待つ。
一秒一秒、まだかまだかと頭を抱えながら、骨や金属がこすれ合うカチャカチャという音が通り過ぎることを願う。
それから何分待っただろうか? 気が付くと、奴らの音は全て消えていた。
ゆっくりと顔を出し、周囲を伺う。
見る限りブラッドナイトの姿はない。
「はぁ……」
大きく息を吐き、仰向けに寝転がる。
ほんと、やってくれるな……。
タイミングが悪ければ本当に死んでいてもおかしくない。彼らは僕にブラッドナイトをなすり付けても屁とも思わないだろうし。たまたまこの山に登っていたから避けられたけど、山の下にいたら高確率でアウトだった。
「それにしても、ゲームでも厄介だったけど現実ではもっと厄介だな」
モンスターを引き連れて移動する行為はゲーム用語で『トレイン』と呼ばれていて、しばしば範囲攻撃でのレベル上げに使われたりしたけど、自分で集めたモンスターは自分で処理するのがマナーだった。自ら処理し切れなければPK――プレイヤーキルを疑われることもある。何故なら実際に嫌がらせで他人にモンスターをなすり付けて殺そうとするプレイヤーがいたからだ。この方法はPKが出来ないMMORPGでもPKを可能にするから厄介だったりするのだけど……現実にこうやって遭遇すると本当に洒落になっていない。
「帰ろうか?」
「キュ……」
そうして山を下り、五階村を目指した。
◆◆◆
「ヒボスさん、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだよ」
初の六階探査を終え、五階村の宿屋の酒場で一杯やっているとヒボスさんが来たので聞いてみることにした。
「ヒボスさんって確か七階まで行ったんですよね? どうやって七階に行ったんです?」
「七階、ねぇ……。親父、酒だ」
「はいよ」
ヒボスさんは少し考えるような素振りを見せ、そして言葉を続けた。
「ありゃあよ、若気の至りってヤツだな」
「若気の至り?」
「あぁ、あの頃はまだ若くてよ、俺達のパーティがどこまでやれるのか確かめたくなった」
マスターが葡萄酒が注がれたカップをヒボスさんの前に置く。
「だから無理に七階まで突っ切ったんだがよ、夜はブラッドナイトに襲撃されてマトモに寝れねぇしよ。大変なんてもんじゃねぇ。そこまでやって七階に辿り着いても安定して休める環境を作れなきゃ長期滞在は出来ねぇからな。割に合わねぇよ」
「なるほど……」
「まぁ、俺らみたいな普通の冒険者じゃ六階の日帰り出来るエリアまでが限界ってこった」
そう言ってヒボスさんは葡萄酒を呷った。
やっぱり、六階はモンスターが強すぎて野営には向かないんだろうね。
「それじゃあ、七階とか八階で狩りをする冒険者ってどうやってるんです? 話を聞く限り難しそうですけど」
「人数だよ、人数。最低でも二パーティ以上でチームを組んで、順番に休憩出来るようにするしかねぇ。……まぁ、それはそれで難しいんだがよ」
「そうなんですか?」
「実力があって、ダンジョンの中で完全に背中を預けられるぐらい信用出来る相手を探す必要があるからな。簡単じゃねぇよ」
つまり、この先の攻略には複数のBランク冒険者パーティが協力する必要があると……。今の僕には絶望的にも感じる話だな。僕ではそんな人数を集められる気がしないし、そういった協力関係にある集まりに今から僕だけパッと参加出来るとも思えない。
ふと、六階で見たポーリの一団を思い出した。
確か一〇人以上の大人数で爆走していたけど、あれは自らのパーティと実家の従士団を使って人数を確保して七階を目指してたからあの人数になっていたのか。
う~ん、やっぱりズルいよね。
「ところで、こうやって話を聞かせてもらってますけど、情報の対価の話はしてないですよね?」
「あぁ? お前、俺が対価がなきゃなにも話さねぇヤツだとでも思ってんのか?」
「いや、えぇっと……」
「そうじゃねぇんだよ、そうじゃ。俺達冒険者は情報屋じゃねぇんだぜ。馴染みのあるヤツとなら世間話ぐらいするだろうがよ」
「あぁ……。そうですね、確かに」
なんとなく言葉にはしにくいけど、ヒボスさんが言いたいことは分かった気がする。
結局は人と人の関係性なのかもしれないね。
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