第271話 昇格条件を聞こう
翌日、朝から町に繰り出した。
外はどんよりとした曇り空で、もう少しでも悪い方に空が傾くと降ってきそうな感じがする。
少し気分が暗くなりかけるも店の位置とか特徴的な建物なんかを簡単にメモしつつ、町の構造とか大体の雰囲気とかを把握していく。
その途中でいくつか陶器の皿を購入し、足りなくなった物資なんかも補給しながら冒険者ギルドの情報を集めていく。これから比較的長くお世話になりそうだしランクアップもする予定の冒険者ギルドだからだ。
そうして一つの店が気になって立ち止まる。
「ん~家具、か……」
二階建ての店の一階部分は八百屋のように開口部が大きく、外からでも店の中が見通せる。
店内では職人が木材を加工していたり組み立てたりしていた。
販売店、というよりは木材加工所という感じだろうか。
店に入り、入口に近い場所に置いてあるイスを観察する。
素材は悪くはなさそうだけど、やっぱりこのサイズの家具を買って帰るのは無理があるよね。やっぱり家具類を購入してホーリーディメンション内に設置するのは諦めた方がよさそう。出来れば、みかん箱でもビールケースでもいいから小さくてもテーブルになるようなモノが欲しいのだけど……。
でも、家具が無理でもクッションとかならギリギリ大丈夫な気がしないでもない。
「すみませ~ん」
「はいよ」
奥で作業している店員を呼ぶ。
「このイスに使うようなクッションとかないですか?」
「クッションだ? お前さん、冒険者だろ? んなモンなにに使うんだよ?」
「いやぁ、ほら馬車で使ったりとか……。それに寝心地良い枕が欲しいなって……」
「あぁそう……」
店員は若干、呆れたような目をした。
いや勿論、一般的な冒険者がそんな理由のために無駄に荷物を増やさないことは知ってるよ! でも、こちらも快適なホーリーディメンションライフのために色々と欲しくてですね……ってな説明は出来ないのだけどさ。
「まぁここいらじゃそんな素材はほぼ採れねぇからな。他の町で探しな」
「素材がないと?」
「見たら分かるだろ。この周辺は木すらまともに生えない。この店だって家具の修理がメインで、作りはしないんだぜ」
よく観察してみると作業している職人も折れた机の脚を直しているだけだし、置かれている商品も年季が入ったモノばかりだ。恐らく補修した中古品なんだろう。
この町では木材――特に家具の作成に耐えうる強度のある木材が貴重だから他の地域で作った完成品を持ってきているのだろう。それは家具だけでなくクッションなんかも同じで、周辺地域で素材となる植物やらモンスターやらがいなければ作れないのだ。
う~ん……日本全国どこでも大体同じモノが手に入る、あの感覚がまだ抜けてなかったのかも。
「まぁ、高い仕立て屋なら作ってるかもしれねぇがな」
「でもそれって入りにくい店ですよね?」
「お前さんが実はお貴族様の御落胤だって言うなら入りやすい店だぜ」
そう言って店員は肩をすくめ、僕も『ナイナイ』と手を振って否定する。
当然、僕はどこかの貴族の子供ではないので入りにくい。前に入店拒否された武具屋みたいになるのがオチだ。
店員に礼を言い、店から出る。
それからいくつもの店を巡って、適当に入った店で微妙な昼食を食べ、昼過ぎ頃に冒険者ギルドに到着した。
調べた感じでは、ここの冒険者ギルドの評判は良い方だと感じる。
まぁ、いきなり余所者が第三者に話を聞いてみたところでギルドの内情なんかは出てこないだろうし、どこまで意味があるのかは分からないけど、少なくとも噂になるような悪評はないし、むしろ良い評判が聞こえるぐらいだった。
まず入ってすぐにギルド内の掲示板を確認すると、雑用的な依頼の中に『ホーンラビットの肉』という依頼が多く出ていることに気付いた。
「見たことないモンスターかな?」
魔法袋からメモの束を取り出してペラペラめくり確認するけど、やっぱり初モンスターっぽい。
「これは資料室で確認だね」
ホーンラビットは後回しということで、先に受付に向かい、ギルドカードを提出する。
「すみません。このギルドでBランクに昇格可能だと聞いたんですが」
そう言うと受付嬢が少し驚いた顔をして、僕のギルドカードを隅々まで確認した後、こちらを向いた。
「確かにBランクへの昇格申請は受け付けています。しかし、ルークさんはこのギルドは初めてですよね?」
「昨日こちらに来たばかりですね」
「では、推薦状などはお持ちですか?」
「推薦状ですか……」
推薦状……当然ながらそんなモノは持っていない。いや、アルノルンに帰って頼めば黄金竜の爪のコネで誰かが用意してくれそうな気はするけど。
「推薦状などがないのでしたら、まずこのソルマールのギルドに貢献していただく必要がありますね」
「えぇっと、まず『推薦状など』って具体的にどんなモノがあるんですか?」
「そうですね……。他の地域のギルドマスターが能力のある冒険者を推挙したりですとか。それに貴族家が発行した感状なんかも対象になることもありますね」
「感状とは、なんです?」
「そこからですか……」
ほんの一瞬、面倒そうな顔をしつつ彼女は言葉を続けた。
「貴族などの有力者が功績を上げた者に対し、その功績を称え証明するために送る公式文書ですね。冒険者ギルドでは戦争などで武功を立てた武人に送られた感状を参考にする場合もあります」
今まで色々な戦闘に参加してきた気がするけど、そんなの貰ってないんだけど……。って、アルノルンでは色々と戦後処理が始まる前にそそくさと脱出してきたし、アルッポでは功績を自らなすりつけたわけで、そんなモノを貰う可能性なんて僕にはなかった……。
「では、ギルドに貢献とは具体的にどうすればいいのですか?」
「まず町周辺モンスターの討伐で実績を積むのがよろしいかと」
「では、町周辺のBランクモンスターを討伐しろと?」
「とんでもない! 町の周辺にBランクモンスターなんてまず出ませんよ!」
う~ん……いや、そうか、町の近くにグレートボアみたいなモンスターがポンポン出てたら町が消滅してるよね。
でもそうなると……。
「じゃあどうやってBランク相当の実力を証明するんです?」
「すぐに実力を証明する必要はありませんよ。実績を積んでいけば、その内お声がけする機会もあるでしょうから」
う~ん、これは想像以上に厄介かもしれない。
冒険者ギルドが町ごとに独立した組織であって、ギルドカードに過去の功績が記載されるような謎の便利機能なんて存在していない以上、町ごとに実績を積む必要があると。
……あぁ、だから推薦状とか感状なのか。別の地域の実績を証明する手段がそれぐらいしかないんだ。
しかしそうなると、Bに上がるにはこの町でじっくり実績を積んで地道にギルドに貢献して、ギルドに認められ、ギルドのお偉方の目に留まってようやくBに上がれる感じか……。それっていつまでかかるんだ?
いや、でもそれが本来のやり方なんだろうね。普通はそうやって長い期間をかけて実績を積み上げて信頼を勝ち取る必要があるのだ。
「あの、Bランクモンスターの魔石ならいくつか持ってるので提出出来ますけど……」
そう言うと受付嬢の顔がピクリと動いた気がした。
「出していただけるなら買い取りますし、それも評価にプラスされますが、それだけではランクアップは出来ませんよ。魔石は他で買ってくることも出来ますからね」
「……BへのランクアップってCまでより厳しくないですか?」
Cランクまではそれなりに妥当なノルマをクリアすればいつかは上がれる感があったけど、Bはちょっと基準が曖昧だし厳しすぎる気がする。
「当然です。Bランクからは求められることが違いますから。町の存亡に係わるような強いモンスターと戦うこともありますし、本当に失敗出来ない依頼を受けてもらうこともあるでしょうし、貴族の方々と接する機会も増えます。強ければ良いという単純な話ではないのですよ」
「なるほど……」
どうしようか? なんだかBランクって無理に狙って目指すようなモノでもないような気がしてきた。
まぁでも、現時点では特に急いではないし、この町には冬の間は滞在しなきゃならない状況だし、特にランクアップのことは考えずに普段通り生活していてもいいかもしれないね。
「……ちなみにですけど、他に評価を上げる方法ってないですか?」
「そうですね……。なにか特技などがお有りなら、それに合わせた依頼をご紹介出来るかもしれませんし、人に出来ないそういった依頼を達成することで大きく評価を上げる冒険者もいると思いますよ。薬草の採取とか、特殊な素材の入手とか、物資の運搬とか、引く手数多な特技はありますから」
なるほどなるほど……。その冒険者にしか出来ない特殊な依頼を達成することで評価を上げる感じか。確かにそれならギルドから注目されるだろうし貢献度も高いだろう。
そうかそうか……って――
「……いや、実は回復魔法が使えるんですけど、これって特技に入ります?」
僕がそう言うと、受付嬢の眉がピクピクッと動き、クワッとこちらを向き、弾けるように叫んだ。
「それはもう! めっちゃくっちゃ特技ですよ!」
「お、おぅ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます