第270話 今後について考えよう
「さて、と」
僕もベッドに座り、シオンをワシャワシャしながら今後について考えていく。
王都ソルマールに来たものの、特に目的があってこの町に来たわけではない。状況的にこの町が冬を越すのに最適だと判断しただけだ。なのでこの町でやれることを探しつつ目標や目的を早い段階で設定しておいた方がいいと感じた。
「う~ん、やっぱり火力不足は問題だよね」
相性が悪いとはいえDランクのロックトータスが完全に守りに入ってしまうと、それを崩す手立てがないというのは心もとない。今後もっと守備力の高い敵が出てきた時にどうしようもなくなってしまうと詰んでしまう可能性があるし、それがダンジョンの中とかだと人生が詰んでしまう可能性もあるからなんとかしたい。
「となると、武器かな?」
ミスリル合金カジェルは比較的軽めで耐久性も高くて使い勝手は良いけど、所詮はただの打撃武器でしかない。ここはもっと高い威力が必要だ。だから新しい武器を買うか、それとも――
「武器の強化、か……」
強化スクロールという謎のアイテムを使って武具を強化する謎すぎるシステム。
エレムの町で武器強化に失敗して高そうな武器を『燃やして』しまった冒険者の姿を思い出す。
一体全体、強化されてなにがどうなるのかはよく分からないけど、あんな風に多くの人間を狂わせている以上、実際になんらかの効果があることは間違いない。
最初に武具強化についてハンスさんに聞いた時、確か『一人前になってからにしろ』的なことを言われたはず。でも今の僕は冒険者としては一人前と考えても大丈夫なCランクになっているわけで、そろそろチャレンジしてみてもいい気がする。
「強化スクロールについて、本格的に検証し始めてもいいかもね」
顎に手を当て考える。
とりあえず強化スクロールの検証はやるとして、新しい武器探しも並行してやろう。
「とすると、冒険者ランクか」
アルッポの町では高級武具店から立入禁止を告げられた。
高級な店にはそれなりに肩書きがある人しか入れないらしい。僕らのようなしがない冒険者が得られる肩書きなんてのは冒険者ランクぐらい。もしくは武功でも立てて貴族にでもなるかだけど、今は特定の国に縛られたくないからそっちはナシ。
「Bランクになるかどうか、だよね」
王都のギルドならBランクへの昇格を受け付けていると聞いた。
いやまぁ、そもそもなれるのかどうかも分からないのだけどね。
でも、流石にBランクになったら大体の店には入れる気がするし、冒険者が良いアイテムを探すならランクアップは必須だと感じる。
「でもなぁ……目立ちすぎる気がするんだよなぁ……」
今の段階ではギリギリ『才能ある少年』という枠に入っているようで、要するに『珍しいけど聞かない話ではない』ぐらいだからそこまで目立ってないけど、これが今の僕の見た目でBランクになってしまうと『異常さ』が出てしまうのではないか、という予感がある。
冒険者ランクはCまではそこそこ真面目にやってればいつかは到達するらしいし、実際、冒険者の大多数はCとDランクという話は聞いた。でも、Bランクからは一気に数が少なくなる。その理由は簡単で、つまり町を破壊しかねない――グレートボアのようなモンスターと戦える強さが必要だからだ。
あの巨体と質量を相手にするということは、やっぱり技術とか経験とかそんな次元を超えて、ちょっと人外の領域に一歩、足を踏み入れないと難しいわけで、僕がそういう存在として見られるということは、少しばかり異常さが出てしまい変に目立ってしまう気がするのだ。
はっきり言って、悪目立ちして変なところから絡まれてしまっても、それを跳ね返せるだけのチート能力なんて持ち合わせてはいない。仮に暗殺者なんかに四六時中狙われる状況になってしまったら普通に死ぬ。間違いなく死ぬ。夜中、寝ている間に首掻っ切られて蛍の光が流れて終了。またの転生にご期待くださいだ。当然ながら警戒してホーリーディメンション内で寝れば大丈夫だろうけど、そもそも狙われているかどうか知ってなきゃ警戒出来ないし、平時から四六時中警戒し続けることは難しい。
それに一番面倒そうなのが監視の目だろう。もしかすると壁をすり抜けて透視・遠視するような、健全な男子なら大喜びしそうなスキルやアーティファクトが存在している可能性だってあるし、僕が変に目立つことでそういったモノを向けられる対象になる可能性もある。
「……まぁ、とりあえずギルドで話だけでも聞いてみますか」
そもそも今の僕がBランクの条件を満たしてるのかすら分かってないしね。
行ってみたら全然まだまだだっていう可能性も普通にある。
「後は……住む場所とか仕事だけど、これは冒険者ギルドに行ってから考えるとして――」
というところで階下から「メシだぞ!」という声が聞こえてきた。
「行こっか」
「キュ」
広げた荷物をまた持って、部屋を出て階段を下りる。
食堂には既に数人の冒険者っぽい人がいて、食事をしていた。が、その食事風景を見て嫌な予感に襲われる。
しかしどうにもならないので食堂のカウンターに向かい木の板を見せた。
「はい」
「飲み物は?」
「なにがあるんです?」
「ラガーだな。銀貨一枚だ」
たっかすっぎ! とは思いつつ、銀貨を一枚カウンターの上にパチリと置く。
そして出された食事とラガーを見て色々と察する。
食事はスープとポタト、その二種類。スープは中に小さな肉片と野菜くずっぽいモノが浮いていて、ポタトはゴルフボールサイズが五個で、見る感じ茹でただけだ。
カトラリー類がなにもついてないので器からスープを直接、ミソスープスタイルでズズッと一口、飲んでみた。
「あっ……」
色々と察するモノがあり、思わず声が漏れる。
味は完全に塩。それ以外なく塩。肉や野菜の旨味なんてモノはほとんど感じない。
次にマイフォークを魔法袋から取り出し、それでポタトを口に放り込む。
「うん……」
別にマズくはないけど普通に茹でジャガイモだ。塩も使われてないから味もジャガイモそのもの。それ以上でもそれ以下でもない。
周囲を見てみると、周囲の冒険者らは文句も言わずに黙々と食べて席を立っている。
どうやらこれが普通であって、特に文句を付けるようなレベルでもないってことなんだろう。
「……これは、想像以上にヤバいかもしれない」
ちょっとした危機感を持ちつつ、少ない食事をシオンと分けて食べ、他の人らと同じようにすぐ部屋に戻り、ベッドに荷物を投げ出した。
「ダメだね、量も質も物足りないや……。そうだ、口直しじゃないけどオランでも食べる?」
「キュ!」
「よしっ! 決まりだ! それは新たなる世界。開け次元の
壁に現れた白い異空間に入り、オランが入った袋を掴む。
「う~ん……二人だけで食べるのもアレだし、リゼも呼ぼうか」
「キュ!」
「うん、そうだね。わが呼び声に応え、道を示せ《サモンフェアリー》」
聖石から生まれた魔法陣が割れ、リゼが飛び出してくる。
「こんにちは!」
「キュ!」
「やあ、実はオランを一緒に食べないかなと思ってさ」
そう言ってホーリーディメンション内に広げた毛皮の外套の上にオランをガサガサっと出す。
うん、やっぱりテーブルが欲しいな。いや、今の季節は毛皮の上に座りたいし、ちゃぶ台かな?
「おぉ!」
「シオン、リゼに美味しいヤツ、選んであげて」
「キュ」
シオンがオランをいくつか嗅いで、その中の一つを手でテシテシと叩いた。
「これか」
そのオランを拾い上げ、皮を丁寧に剥いてリゼに渡す。
「はい」
「ありがとう!」
僕も適当に拾ったオランを剥いて食べつつ、近況報告的な雑談などをして、気付けば二個三個とオランを消費していた。
「ん~……」
次のオランを食べようと手を伸ばし、明らかに数が減ったオランに気付く。
「どうしたの?」
「いや、ね……。このペースで食べてたらすぐになくなるな、と思ってね」
デザートとしてならともかく、夕食が物足りないからってこのオランで埋め合わせてたら数日中に食べ終わってしまうだろう。まだまだ冬は長いのにだ。今の時点でこれだと、今後もっと食料事情が厳しくなっていくであろう冬の後半には酷い状況になっているかもしれない。この町の食料の備蓄状況によってはお金があっても食料を買えないような事態になってしまう可能性だってある。
はっきり言ってしまうと、僕はこういう科学技術がない世界の冬を舐めていたのかもしれない。
今から対策をして間に合うのか分からないけど、なにかしら考えないと……。
「だったら、増やそうよ!」
「……増や、す?」
「ほら、これ!」
リゼがガッと突き出してきたのは、種。さっき食べていたオランの種だった。
「これをね! お水をあげたらブワッと芽が出てポンポンポンって沢山増えるんだよ!」
「いや……まぁ確かに、種を蒔いて上手くいけば、いつかは実がなるんだろうけどさ……」
仮に植えるとして、どこに植えればいいんだ? そんな場所なんてなくない?
町の外に植えても今は冬だからダメだろうし、仮に上手く生えても他の人に取られたら終わりだし、それ以前にこの町の周辺には植物の育成に適した土地が少ないらしいし。
と、考えていた時、ふと気になってホーリーディメンションの外側にある宿の部屋に目をやった。
外はもうすっかり夜になっていて、ホーリーディメンション内からの光が外に漏れ、暗い部屋を照らしていた。
ホーリーディメンション内を見回してみる。
こちらは光が溢れ、まるで昼間のように明るい。
このホーリーディメンションは謎の力によって壁や床が発光し、謎に二四時間年中無休で明るいままだ。
そう考えた瞬間、なにかの点と点がシュパっと繋がった。
「あっ、時間だ! じゃあまたね!」
「キュ!」
「あ、うん。またね」
リゼが消え、ホーリーディメンション内に静寂が訪れる。
聞こえてくるのはシオンがオランをハムハムする音だけだ。
床に落ちていたオランの種を指でつまみ、目の前に持ってきてよく見る。
その種は小さく、柚子やカボスなんかに入っている種と色や形、大きさは変わらない。どこにでもある普通の種だ。
「もしかして『ある』のか?」
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