第278話 マッスルパラダイス
「フンッ! フフンッ!」
「ハッ! ヘアッ!」
「……」
大教会やステラ教会の話を聞いた翌日、どんな場所か確認するためそのステラ教会にやってきた。
教会の敷地は大教会と比べられるような大きさではないけど普通の宿屋なんかよりは大きい。が、建物は木製だが壁板なんかは乾燥してボロボロになっており、老朽化が進んでいることが見て取れた。
「フォォォ! アイィィ!」
「ホアアアア! ホイポイッ!」
「……」
やはり教会の位置が町の外周沿いでスラムに近いこともあり、お金がないのだろうか? それにしたって大教会の方はあんなに立派なのに、こっちのステラ教会がこの状態で放置されているのは意味不明ではある。
「ホッ! ハッ! 武具強化! いけっ!」
「いくぞぉぉぉ! 筋肉! 武具強化!」
「……」
いや……もう見えないフリは止めよう……。
何故かは分からないけど、この教会では筋骨隆々な半裸の男達が変なポーズをキメてから武具強化をしているのだ。
まったく意味が分からないよ!
「あぁぁぁぁぁ! 俺のミスリルソードがぁぁぁぁ!」
「おい! 止めろ! 燃えるな! ああああああああ……」
「……」
そして失敗。
上半身裸のムッキムキな男らがボディビルダーのようなムキムキポーズをキメながら泣き崩れている。
どうやら高価な武具を燃やしてしまったらしい。
「う~ん……」
思わず声が漏れる。
他の地域の教会でも武具強化にチャレンジする男達と、そして失敗して昇天しかける男達は沢山見てきたけど、ここの教会はちょっと状況が違う。気合の入り方が違うというか……なんだか全体的にムキムキマッチョな武具強化なのだ。
それについて色々と話を聞いてみたい気もするけど、それが許されるような雰囲気でもないので彼らの横を通り過ぎて教会の方に向かった。
「すみません」
ギシギシと軋む扉を開けて教会に入る。
中はキレイに整えられてはいるものの、長椅子や柱に年季を感じるし、ガラス窓もないので全体的に薄暗い。
「教会内での武具強化はお断りしておりますよ」
教会の奥にある祭壇らしき場所にいた初老の男性がそう言った。
「あぁ、いえ。お祈りをさせていただければと思いまして」
「そうでしたか。お若いのに素晴らしいことです――こちらへ」
彼はそう言ってテスレイティア像の前に僕を導いた。
そこに進み片膝を突き、両手を合わせる。
光の神である最高神テスレイティア。四属性の神々。そしてここに加えてもよいのか分からない名もなき闇属性っぽい神。更に例の転生時に出会った謎の神。それらの神々を想いながら祈りを捧げる。
「フンッ! アチョォ!」
「ハイィ! ホイッ!」
「……」
教会の壁がボロくて隙間が多いせいか、外から男共の猛々しい声が響いてくる。
厳かな雰囲気が一瞬でマッスルパラダイスに変わっていく。
「……ダメだ、集中出来ない」
「そうでしょうな」
僕の隣まで歩いてきた司祭様がそう言った。
「どうしてこのようなことになってしまったのでしょうな……。全てはあの伝説が始まりなのでしょうが、それにしても……」
「伝説? って、あの『祝福を受ければ強化に成功する』的なヤツですよね?」
「? いえ、確か『鍛え抜かれた体を神に示せば強化は成功する』とか、そういう感じの噂らしいですよ」
「えっ?」
ちょっと待てよ。なんだか前に聞いた話と少し違うぞ。
確か、教会で祝福を受けた男が武具強化に成功しまくってたから真似する人が増えたけど、上手くいかなくて教会が恨みを買ってしまって事件に発展したから祝福を与えなくなった。みたいな話だったはずだけど……。
もしかすると、伝説が伝わる過程で尾ひれが付いて別のモノに変質してしまったのだろうか? その場合、どちらが元でどちらが変質したモノなのかが重要になるけど、そうなると両方が尾ひれが付いた話で真実は別にある可能性も否定出来なくなる。
それに両方共に正解である可能性も捨てきれない。武具強化を成功させる方法が複数ある可能性もあるからだ。
……まぁ、はっきり言ってしまうと両方共にただの与太話でしかない可能性もかなり高いと思うのだけどね。
「そのような噂を信じ教会であのような姿を晒すなど、実に嘆かわしい……」
「そうですよね」
僕も自分の家の前で毎日毎日マッスルお兄さんがフンッフンッ! やり続けたら流石に気が滅入ると思うし、それは嘆かわしいよね。
それから司祭様と少し話をして、教会を出た。
「さて……」
せっかく教会に来たのだし、ついでに記念すべき初武具強化をやってみよう!
「となると、なにを強化するべきか、だけど……」
今回の強化はお試しだ。とりあえず武具強化がどういうモノなのかを確かめるためのモノ。だから失敗しても問題のないアイテムで試したい。しかしゴブリンのナイフみたいな、仮に消滅してもどうでもいい二束三文のアイテムを強化するのもちょっともったいない。金貨一〇枚もするアイテムをそんなモノに使いたくはない。
となると多少でも使う可能性があるアイテムで試したいのだけど……。
「使う可能性があって、消えても最悪どうにかなるアイテム……となると最初に持ってた杖とか、闇水晶のナイフ、ミスリル合金カジェルも……まぁギリなんとかなりそうかな?」
そう考え、手に持っていたミスリル合金カジェルを眺める。
そして腰の魔法袋から強化スクロールを取り出した。
「……」
強化スクロールをミスリル合金カジェルに巻き付け、地面に置く。
あとは強化スクロールを触りながら『強化』と言えば強化スクロールが発動するはず。
そうすれば武器が強化されるか――もしくは消滅するか……。
成功すれば強化されてハッピー。……でも万が一、失敗してしまうと消えてしまう。
消えてしまう。消えて、しまう。消滅してしまう……。消滅してしまうと、また新しい武器を買わないといけないし、メイン武器がなくなるから暫く大変になる。
二つに一つ。……いや、そんな単純なフィフティーフィフティーなモノじゃない。成功率によってはもっと楽観視してもいいかもしれないし、悲観的なモノかもしれないし――
「あぁぁ……ダメだ。ミスリル合金カジェルではチャレンジ出来ない」
失敗した場合のことを考えるとちょっと決断出来なかった。
強化スクロールを回収し、教会の影でこっそりと魔法袋の中から木の杖を取り出していく。
こっちなら最悪、消滅しても問題ないし気分的にも大丈夫そうだ。
「よしっ! やるか!」
強化化スクロールを巻き付けて発動――の前に……。
「まぁ……とりあえずやっとくか」
いや、ここでは全員がやってるらしいしさ。神頼み程度かもしれないけど、やるだけならタダだし。
周囲を見回し、変に注目が集まっていないことを確認し、安心してササッと「フンッ! フフンッ!」とボディビルポーズを見様見真似でやっておく。
うん……。別に見られてるわけじゃないけど、やっぱりちょっと恥ずかしい……。
「今度こそいくぞ! 強化!」
そして強化スクロールを発動。
するとスクロールがホロホロ解けて光の粒子となり、杖を包み込んだ。
そしてすぐに光が収まって、それまでとまったく変わった様子のない杖が現れた。
「成功……した?」
恐る恐る杖を触ってみて、持ち上げてペタペタ触って確認していく。
「強化前と違いは……ない?」
ない? そんなことあるのか? なにかが変わってないとおかしいというか、リスクリターンが合ってないというか、フンッフンッやり損というか……。
う~ん、そもそもだけど、強化をしたことで具体的にどういった要素が強化されるのか、どういったことが起こるのか、完全には把握しきれてないんだよね。
「これは、ちゃんと調査していかないと見えてこないか」
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