第176話 町へ出かけて

長らくお待たせしまた。

色々とあって更新が途切れていましたが、再開します!

今回は3巻に入る部分のプロットは既に完成しているので、とりあえずそこまではすんなり更新出来ると思います。


Twitter等では既につぶやいていますが、3巻の企画は順調に進んでいます。

そしてコミカライズ版も順調に進んでいます。

明日ぐらいに第2話が公開されるはずです!


ニコニコ漫画版

https://seiga.nicovideo.jp/comic/43625?track=list

コミックウォーカー版

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_FS04201112010000_68/


コミカライズ版は書籍版を元に作られているので、WEB版で足りてない部分は補完したつもりですし、WEBでは明らかになっていない部分も見えてくるはずです。蒼井先生には無理を言ってしまいましたが細かい部分まで作り込まれていますよ!

やっぱり漫画になると分かりやすいですし、オススメです!


それでは今後ともよろしくお願いします!



――――――――――――――――――――



 翌日、いつものようにシオンをローブのフードの中に入れ、町に繰り出した。

 今日も空は青く輝き、太陽はポカポカと温かい。

 時期的にそろそろ真夏になる気もするけど、そこまで暑いとは感じない。日本の真夏のようなムシムシがないおかげなのか、ヨーロッパのように気温がそこまで上がらない気候なのか、そもそも一年の日数が地球よりもっと長いのか、そこはよく分からないけど、とにかく助かっている。このエアコンどころか扇風機すらない状態で日本の真夏が顔を出したら生きていける気がしない。

 ミミさんのメモを片手にクランハウスのある南側から中央を目指して歩いていく。

 今日の目的地は町の中央付近にある本屋だ。これまでも町や村に立ち寄ったら可能な限り本屋を探して神聖魔法の魔法書がないか調べていたけど今回はこの町に詳しいミミさんに情報を聞けたのは大きかったと思う。流石にこの大きな町を全て自力で調べるのは大変だしね。

 馬車が行き交う大通りに出て北進していると、武具とか謎アイテムを扱っている露店を見付けた。

 鞘に収められた剣とナイフが数本。服のようなものと箱のようなものと、なにかのスクロール。その他、色々。少し気になって足を止める。


「これ、抜いてみてもいいですか?」


 露店の前で屈みながら剣を指差し店主の男にそう聞くと、彼は「あぁ、いいぜ。自由に見ていってくれ」と言った。

 店主の了解は得たので適当に選んだ一本の剣を鞘から抜き観察していく。

 形はシンプルな両刃の直剣。銀色に光る剣身は歪みもなく、波うってもいない。……ように見える。色的に材質は鉄で、刃こぼれもなく、普通に良さそうに感じるけど、どうなのだろうか?

 その後も他の剣やナイフをいくつか見ていったけど、どれも『普通に良さそうかな』としか感想は浮かばなかった。


「どうだ、どれも良い剣だろ?」

「あぁ……そうみたいですね」

「そっちの剣は伝説の鍛冶師エルデが鍛えたとされる剣だ。そしてこれはとある公爵家に秘蔵されていたとされる剣で、こっちは――」


 露天商の説明ではどれも凄そうに感じるが、ぶっちゃけよく分からない。

 伝説の鍛冶師とか、どこ産の鉄だとか、そういう知識は流石に持ち合わせていないしね。

 次に箱を手に取って調べてみる。

 材質は木材がベース。角を金属で補強してあり頑丈そうに見える。蓋も同じように補強がしてあって、そこに鍵穴らしき穴が一つ。いかにも『宝箱!』といった感じがする。しかしこの箱がなんなのかよく分からない。


「これは?」

「箱だな」

「箱?」

「鍵もかけられるぜ!」

「あっ、はい」


 なにかありそうに見えてなにもない。ただの箱らしい。

 いや、でもこちらの世界の鍵といえば閂みたいな単純なものばかりで、僕らにはおなじみ、棒状の鉄にギザギザが付いたアレを鍵穴に差し込んでクルッとカチッと回す系の鍵は高級ホテルぐらいでしか見ていない。もしかするとこれは地味に凄い物なのかも。

 そう考えながらドヤ顔の店主を一瞥し箱を置き、スクロール――紙をクルクルと巻いて紐で留めたものを手に取った。


「そいつは火種のスペルスクロールだ」

「スペルスクロール……?」

「そうさ、それを使うと誰でも封じ込められた魔法が使えるんだぜ! このあたりのダンジョンじゃ出ないからな。珍しいだろ?」


 スペルスクロール? 使うと魔法が使える? このあたりのダンジョンじゃ出ない? そんなものが存在するという話、聞いたことあったか? 南の村で読んだ初心者向けの魔法解説本にも書いてなかった気がするけど……。いやでも、ダンジョンから出るアイテムはダンジョンごとに違っているし特定のダンジョンでしか入手出来ないレアなアイテムもあるだろう。遠方にあるダンジョンでしか手に入らないレアなアイテムの情報が一般に広まっていない可能性は普通にあるはずだ。


「で、いくらなんです?」

「金貨一〇枚だ」

「……ちなみに、何回使えるんですか?」

「そりゃ勿論、一回だぜ!」

「あっ、はい」


 いや流石に高すぎでしょ! 生活魔法を一回使うために金貨一〇枚はちょっと出せない。それにその値段なら似た効果の魔道具とかが買えてしまうはずだし。

 火種のスペルスクロールとやらを地面に引かれた布の上に戻す。


「おいおい、これは遠方から輸入してきた貴重な一品だぜ! ここいらじゃお偉いさん向けのお高い店でも中々置いてないはずだぞ」

「今回はご縁がなかったということで」


 適当な返事をしながら立ち上がり、踵を返す。

 う~ん、スペルスクロールというアイテムは凄く気になるけど流石に値段が値段だし……。

 そう考え、歩きながら顎に手をやり首をひねる。

 いやそもそもスペルスクロールというアイテムは本当に実在するアイテムなのだろうか? 高い店でも中々置いていないらしいアイテムをこんな露店が普通に扱っているものなのだろうか? よく考えると並んでいた剣にしても凄そうな肩書を持つモノばかりだったし嘘っぽい。つまり全てが嘘である可能性の方が高いのでは?

 立ち止まり、肩越しに後ろを振り返って露店を見る。


「う~ん……」

「キューン……」


 なんでもかんでも調べられる鑑定能力的なモノでもあれば話は早いけど、人生そう上手くはいかない。僕の持ってる鑑定能力っぽい能力は神聖魔法の魔法書などごく一部のアイテムしか調べられないし、なにが正しくてどれが嘘なのか、自力で見極められるように地道に知識を蓄えていくしかないね。


 などと考えながら大通りを進み、屋台で腸詰め肉の串焼きを買ってシオンと食べたりしていると、ザワザワとした人混みの中からポロンポロンと弦を弾く音が聞こえてきた。

 一人と一匹で腸詰め肉をかじりつつ、その音に誘われるまま足を進めた。

 大通りから一本中に入った道。お店の裏側っぽい場所に積み上がった木箱。そしてその上に腰掛けた男の手の中から流れるゆったりとした旋律。

 男をまばらに取り囲むギャラリーの中に紛れ込み、男を観察する。

 男は金色の髪に整った顔で、上質な布で作られたゆったりとした服に身を包み、つばの広い円形の帽子をかぶっていた。手の中の楽器は見たことのない形。長方形の箱に弦を張ったような作りで、それをギターのように抱えて演奏している。全体的な風貌はエレムの北側にある高級店などで見かけたお金持ちに近い。吟遊詩人というか、その整った顔もあって貴族と名乗られたら信じてしまう気がする。

 前奏が終わったのか、男はゆっくりと唇を開き、詩を紡ぎ出した。


「その日、男は、恋に落ちた。屋敷で、新しく雇った、メイドの少女。あぁ、それは素晴らしき出会いだった――」


 そういう歌い出しで始まったそれは、まさしく『詩』だった。

 現代の地球の『歌』とは少し――いや、まったく違う、メロディに乗せて歌う『詩』。

 歌というより物語というか、朗読に近いのかもしれない。

 その物語のストーリーはどうやら恋愛系。貴族の男とメイドの少女の恋物語らしい。

 男を取り囲むギャラリーを改めて見回してみると若い女性が多く、彼女らは主人公とヒロインの恋模様を聞きながらクスリと笑ったり頬を染めたりしている。

 その光景になんとなく新鮮味を感じつつ、「たまにはこういうのもいいかも」と、ギャラリーと一緒に物語を楽しんだ。


「おぉ父上よ、なぜ駄目なのですか? 私は彼女を、愛しているというのに――」


 どうやら物語は山場を迎えたようで、二人の間に壁が立ち塞がる。

 貴族の男とメイドの少女は互いに想い合っていたが、メイドの少女の身分が低いため親には認められず、メイドの少女は別の屋敷へ転属になってしまった。

 ギャラリーの若い女性たちもハラハラとした表情を見せる。

 話は既に終盤。弦を弾く男の指に力がこもり、その声は熱を帯びていく。


「ラララ~、少女は崖から身を投げ――」

「って、バッドエンドかよ……」

「キュキュー……」


 ラララ~じゃないっての! とツッコミたくなるのを抑えて息を吐く。

 どうやら貴族の男との関係を認められなかったメイドの少女は、思い悩んで崖から身を投げ命を絶った。というところで本当に終わりらしい。

 周囲からは女性のすすり泣く声が聞こえてくる。

 こういう物語って王道的にハッピーエンドの方がウケがいいはずだし、てっきり逆転ホームランでハッピーエンドだと思ってたのに……。


「それではこれにて終了。ありがとうございました!」


 吟遊詩人の男は大きな帽子を取って優雅に頭を下げ、それをひっくり返して目の前に掲げた。

 女性たちは涙を浮かべながらその帽子の中にコインを入れていく。

 結局、最初から最後まで全部聞いてしまったので僕も銀貨を一枚入れておくことにした。


「なんだか暗い気分になっちゃったね、シオン」

「キュ……」


 しかしシオンはなんとなくこちらの喋る内容を理解しているっぽいけど、さっきの物語まで理解してたのだろうか? なんとなくシオンも暗い顔をしている気がするし、そんな気もする。

 まぁでも娯楽の少ない世界だし、こういうのは普通に良いよね。なんだかんだで僕も普通に楽しんだし。この世界でこれからの人生を楽しく生きるなら、こういう娯楽も沢山見付けていくべきなんだろう――


「あれ、は?」


 どこかで誰かが発したらしい言葉がやけに鮮明に耳に届いた。

 周囲がざわつき始め、やがて人々がなにかに気付いたかのように空を見上げはじめた。

 それに釣られるように、僕もまた空を見上げた。


「お、黄金竜だ!」


 誰かの叫び声。

 それに被さるように、「黄金竜だ!」「なぜ出てきたんだ!」という声が上がり、周囲が、町全体が喧騒に包まれていく。


「黄金竜……」


 それは、クラン『黄金竜の爪』の名前の由来になった存在。

 全身を黄金色の鱗で包み、大きな二枚の翼をはためかせ、町の上空を飛んでいく存在。

 その姿は地上から見る限り拳一つ分程度の大きさでしかないけど、それが実際はとてつもなく巨大であることは想像できた。今まで見たモンスターの中で一番大きかったのはグレートボアだけど、それよりも圧倒的に大きいことは間違いないだろう。

 あれに襲われたら、この町でもひとたまりもない。

 そう思えるほどにその姿は神々しくもあり、光り輝いて見えた。


 幸いなことに黄金竜はこちらのことなど眼中にないのか、黄金色の翼をはためかせ、西の空へと消えていったのだった。

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