第175話 あの人、再び
7月5日、極スタ2巻が発売されました!
↓内容や店舗特典について。
https://kakuyomu.jp/users/kokuiti/news/1177354054890300912
よろしくお願いします!
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「そうらしいぜ。確かナントカ流の先生が教えてるとか聞いたはずだぞ。なあ?」
「そうだっけ?」
いや、ナントカ流では分からないけど。
ローブのフードの中からシオンを取り出し、膝の上に乗せる。
「確かこの国が王国だった時代から騎士団に剣術を教えているという噂で……まあいい。剣なんて振り回してれば誰でもそれなりに使えるようになるし俺達冒険者は大体自己流なんだが、ルークの戦いを見ていると俺もちょっと技を習いたくなってきたぞ! こう、攻撃の後に流れるように次の動作に移って……なんて言えばいいんだ? 全ての動きが次の動きにつながっているような……」
そう言いながらサイラスさんは身振り手振りを交え、なにかを表現しようとした。
ブラウン色のパンをちぎってシオンの口元へ持っていき、スプーンでシチューをすすりながら疑問を口にする。
「そのナントカ流の先生には教えてもらえないんですか?」
「それは無理だろうな。騎士団と貴族の子弟にしか教えてないと聞いた。そもそもその先生がどこにいるのかも俺は知らないから頼みようがないしな。まぁギルマスやゴルドさんなら知っているだろうが、まず紹介してもらえないだろう」
「シオン~ほらほら!」
シームさんがどこからともなく取り出した乾燥肉をフラフラと振ってシオンを釣ろうとする。
それにまんまと釣られたシオンは首を左右に振り、そして飛び付いた。
やっぱり武術とかは基本的にあまり外に広めないようにしているのだろうか? 確か日本でも昔は門外不出や一子相伝の流派は少なくなかったはずだし、可能性はあるな。
技術や知識は財産だ。現代日本だと武術を使う必要なんてないから技を秘匿し続ける意味が薄くなり、情報化社会で隠しても隠しきれなくなって様々な技術が公開されるようになったけど、こういう世界なら価値は高いはず。
そういえばダンもギルダンさんの店に来ていた冒険者に頼んで剣の扱いを教わったと言っていた気がするし、思い返してみると町中で武術の道場みたいな場所を見た記憶もない気がする。ギルドにもそういうスペースはなかった。やっぱり一般人に戦闘技術を教えてくれるような場所は少ないのかもしれない。
「まぁよく考えてみたら面倒そうだし、俺には合わないな」
「シオンはなんでも食べられておりこうさんだね!」
シームさんがどこからともなく取り出した干しフルーツをシオンに与え、次によく分からないトカゲっぽい爬虫類の干物を取り出したところでシオンを抱き上げ、膝の上に戻す。
その得体の知れない物体はシオンにはまだ早いので、また今度でお願いします。
う~ん……。いや、そもそもこの世界の人々は、こと戦闘に関しては脳筋というか……技をあまり重要視しない傾向がある、ように僕には見える。
例えば今日戦ったゴルドさんにしても、硬く、速く、パワーがあって、反射神経が良い。それはそれで凄いのだけど、技術的に凄いという感じではなくて……つまり基礎的なパラメーターの差が凄いのだ。
その身体能力の差で押しきられた。
そうなってしまうのも当然。この世界には女神の祝福という地球には存在しない分かりやすい『システム』があるのだから。
魔物を倒してレベルアップすれば明確に能力が上がる。それは成長しているか分かり辛い練習を毎日積み重ね、少しずつ技術を上げていくより圧倒的に分かりやすく、シンプルに強くなる。地球でもこの女神の祝福というシステムがあったらあれほど武術は進化しなかったはず。
そういう状況だから、そもそも武術の需要が一般にはあまり高くないのかもしれない。でも騎士とか貴族とかの間ではその重要性が認識されていて需要が高い、とか?
まぁ今はなんとも言えないかな――
「おいっ!」
二人と話していると突然、横から大きな声がした。
どこかで聞いたことのあるその声に嫌な予感を覚えつつそちらを見ると、予想通りサブスがいた。
「いいか!? 俺は認めないからな!」
彼は大声でそう言い放つと、すぐに踵を返し食堂から出ていった。
それを見送り、目線を二人へ戻す。
サイラスさんは無言で肩をすくめながら首を振り、シームさんは両手で耳を塞いでいる。
実力は示したはずだけど、認められるどころか余計に敵視されている気がするんだけど……。さて、どうするか。
でも、前回より良くなったこともある。それは食堂の雰囲気。以前サブスと会った時とは違いネガティブな視線は少なくなった気がする。
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