第174話 演習の後の変化
長らくお待たせしました。
今日から連載再開します。
さて、7月5日に極スタの2巻が発売となります。
そして、なんと!9月から極スタのコミカライズが始まります!
コミカライズですよ!
コミカライズ版の詳細と、休載している間に何をやっていたか、みたいな話を近況ノートにまとめたので、暇な方は読んでやってください。
https://kakuyomu.jp/users/kokuiti/news/1177354054890183222
2巻についての情報はこちらにまとめましたので、よろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/users/kokuiti/news/1177354054890214081
1巻の時と同じように、今回も書籍化記念SSがレーベル公式で掲載されています。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888105601
それではよろしくお願いします!
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部屋の扉をパタリと閉め、倒れるようにベッドに寝転がる。
「うぐっ……」
「キュ!」
脇腹からの痛みに声が漏れ、フードから投げ出されたシオンが抗議の声を上げる。
やっぱりただのヒールだとあの傷は治しきれないみたいだ。
魔法はINTが上がれば効果が上がるけど、下位の回復魔法では限界があるのかもしれない。
「神聖なる光よ、彼の者を癒せ《ホーリーライト》」
脇腹に当てた右手から広がる輝くオーラが傷を癒やしていく。
そして数秒後、今までの痛みが嘘だったかのように消えていた。
「やっぱり神聖魔法は凄いや」
折れていた脇腹をさすりながらつぶやく。
手の感触的にも大丈夫そうだ。
ダンの傷を治した時に気付いたけど、このホーリーライトは大体の傷なら治せるっぽい。
内蔵に損傷があるレベルの裂傷に骨折。ここまでいけたら大体はいけるはず。
ただ欠損した部位を元に戻せるかは分からない。それはちょっと試してみようとも思えない。
「う~ん、しかし……ゴルドさん、強かったなぁ」
体を起こしてベッドに座り、シオンを膝の上に置いて撫でながら演習のことを考えていく。
この世界はレベルアップ――女神の祝福によって能力が上がる。それは理解していたし、実感もしていたけど、こうやって高レベルの圧倒的格上な人と戦ってみると改めてその効果の凄まじさを実感する。
女神の祝福は力や魔力だけでなく、防御力やスピードなど全ての能力を上げる。高レベルになると僕の頭の中にある人間の枠など大幅に飛び越えてしまっていて、僕とゴルドさんぐらいレベル差があると、もはや工夫や戦術といったモノはほぼ意味がなくなっていた。仮に今の僕が万全の状態でゴルドさんの寝込みを襲ってもまず勝てないだろう。それぐらいの差があった。
「なにか考えないとな」
ゴルドさんぐらい強い人は多くないはずだし、そうそう出会わないだろうけど、そういう人となにかの拍子に出会ってしまって敵対してしまった時のための『ナニカ』は考えていく必要はある。
しかしそうはいっても今は女神の祝福を得るぐらいしか思いつかない。
その他の確実性がない方法だと、新しい神聖魔法に期待するとか、凄い能力を持つアーティファクトを探すとかだけど、前者はともかく後者は難しいだろう。凄いアーティファクトは皆が狙っているしね。
神聖魔法に関しても地道に探していくしかない。情報がない以上、狙って探すのは無理だ。
「キュ」
シオンが鼻をヒクヒクさせ、僕の膝の上から立ち上がってこちらを見た。
「もうそんな時間か。じゃあ行こうか」
「キュキュ」
シオンをフードの中に入れ、ベッドから立ち上がって部屋の外へ出る。
少し赤くなってきた太陽に照らされた階段を下りていると、やっと僕の鼻にも良い香りが届くようになってきた。
一階に下り、いつものように食堂に入って列に並ぶと――なんとなくいつもとは雰囲気が違う気がした。
なんだか皆がこちらを注目しているような――
「おい、新人!」
「えっ」
背中をバチンッと叩かれて振り返るとガタイの良い男が立っていた。
誰だっけこの人。見覚えがあるような、ないような……。
「やるじゃねぇか! ゴルドさんに手傷を負わせるなんてな!」
「えっ、ありがとうございます?」
いきなり褒められてちょっと驚いていると、前に並んでいた人がこちらを振り返った。
「ん? おぉ、さっきはキッチリ治してくれて助かったぜ!」
「あぁ、はい」
えっと、こっちの人はゴルドさんに顔面を殴られてた人だっけ?
しかし、いつもは皆こちらに関わろうとしてこなかったのに、いきなりフレンドリーに一八〇度変わって困惑してしまう。食堂のおばちゃんにも「あら! 頑張ったらしいじゃない!」などと言われたし、どうやらさっきの演習のことが噂になっているみたいだ。
「おーい、こっちだ!」
「おいおーい」
今日の夕食を持って席を探していると、近くのテーブルからサイラスさんとシームさんが手を振っていた。
それに応え、彼らが座るテーブルの空いている席に座る。
「大活躍だったな。まさかゴルドさんに一撃入れるとは思わなかったぞ」
「うんうん」
「いえ、たまたま……というかゴルドさんが手加減してくれたからああなっただけですよ」
あれはゴルドさんがこちらの力量を測るために攻撃の機会を与えてくれたから成功した奇策で、僕のどの攻撃もゴルドさんからしたら本来避ける必要すらない攻撃だったはず。ゴルドさんが本気なら、攻撃する前にこちらが瞬殺されていた。
「いや、マジで凄かったぜ! あの流れるような連撃とかここの騎士団の奴らでも真似出来ない。ルークはどこかでちゃんとした技を習ったんだろ?」
「あぁ、まぁそうですね。実家で親から習ってました」
「親か……じゃあ騎士の家か、貴族か」
「とんでもない! そんな立派なモノじゃないですよ! まぁ……神官、みたいな感じです」
なんだか変な誤解が生まれそうだったので咄嗟に否定する。
貴族とか騎士とか、そういう家の生まれなどと思われると後々面倒になるかもしれないし。
「神官の一族か。……そういえば全ての神官が武術を修めている国があると聞いたことがあるが……」
「いや、そういう国ではないですけどね……。それより、騎士団ではちゃんとした剣術とかを習えるんですか?」
話が面倒な方向に進みそうになったので無理矢理軌道修正する。
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