第144話 謎ステーキの正体と雑貨屋

 そうこうしている間に完成した謎のステーキが木の皿に盛られ、カウンターに座るドワーフへと差し出された。そのドワーフは、「おう」と言いながら受け取り、腰から引き抜いたナイフを使い美味しそうに食べ始めた。

 見ている感じだと凄く柔らかそうに見える。肉、というより、少し火を入れたチーズに近いような……。


「……で、あれはどういうステーキなのですか?」

「ん? 遠くから来たのか? エルキャタピラーだよ。この村の名物なんだぜ」

 エルキャタピラー? ……何だか凄く嫌な予感がするぞ。

「……その、具体的にエルキャタピラーってどんなモノなんですか?」

「おいおい、エルキャタピラーも知らないのか? そこの森にいる緑色の――」

「あ、もういいです。分かりました」


 最悪だ……。さっき倒したアレか……。食べられるのか……。

 カウンター席で例のアレを食べているドワーフをちらりと見る。

 彼は美味しそうに例の白いステーキを茶色いパンに乗せて口に運んでいた。

 いやぁ無理だ、流石に無理。これは食べられない。美味しそうな匂いがしてたけど無理だ。理屈じゃないのだ。心の中のリトルルークがダメだと叫んでいる。

「……他に、他に何かありません?」

「そうだな……。少々値は張るがファンガスステー――」

「あ、それもいいです」

 何なんだろう? この村には普通の食べ物はないのだろうか?

 ……いや、ファンガスステーキは美味しいよ? うん、美味しい。でもそうじゃない。そうじゃないよね?


「……もっと、他に何かありませんか?」

「おいおい。あんた、好き嫌いが多すぎるぞ。……そうなると、乾燥肉のスープとパンぐらいしかないが……」

「じゃあそれで……」

 あるじゃないか、普通の食事が! それでいいんだよ、それで。

 そうしてシオンと分け合ってお腹を満たしたのだった。



◆◆◆



 食事の後、酒場を出て村の散策を続ける事にした。

 酒場もあるこの広場が村の中心なのか、周囲には何件かの店が建ち並んでいる。ぶらぶらと歩きながら物色し、その中の一つ、開け放たれた扉から様々な種類の物が覗く店へと入った。

 店内は一〇畳程の広さで、その狭い店内を窓と天窓からの光が優しく照らしている。棚にはロープとかコップ、皿、蝋燭など様々なアイテムが並び、壁際にはいくつか剣や槍などが立てかけられていた。雑貨屋だろうか。

 店の奥に座っていた厳しい顔のドワーフに軽く挨拶して店内を物色する。

 逃亡生活と洞窟生活が長かったおかげでストックしていた食料はほとんどなくなっている。一応、洞窟で暇潰しに大量生産した干しファンガスはあるけど、長く続いたキノコ生活のおかげで、今はアレを食料としてカウントしたくないのが本音だ。


「干し肉ってありますか?」

「ある……ちゃあるが、ちと高いぞ。このあたりじゃ干し肉に出来るモンスターはあまり出ないからな。こっちの干しエルキャタピラーが――」

「あ、いいです。それはいいです」

「お、おう。そうか」

 ちょっと引き気味のドワーフが干し肉を準備している間に壁際の武器を見る事にした。まず壁に立てかけてある剣を鞘から引き抜き、天窓からの光に当てた。

 刃渡り五〇センチ程の両刃の直刀。材質は普通に鉄だろうか。刀身は綺麗に整備されていて、おかしな不純物も見当たらない。刃こぼれも刀身の歪みも確認出来ない。武具の目利きはこちらに来てから少しずつ覚えていった程度。自信はあまりないけど、悪くはないと思う。やはりドワーフが多い村だから質が良いのかもしれない。

 剣を元の場所へと戻し、次は槍を手に取る。

 その槍も材質は鉄で、歪みも刃こぼれもなく、質は悪くなさそうに見える。しかし形が三股――つまりトライデントのような形で微妙にコレジャナイと思ってしまい、元の場所へと戻した。やはり武器はもう少し大きな町に行ってから探そう。


「干し肉は用意したぞ。他は何かあるか?」

「……あ、魔法書ってあります?」

「少しならな。生活魔法とボール系がいくつかだ」

「そうですか……」

 やはり小さな村では扱われている魔法書の数が少ない。これも次の町で探す事にするかな。

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