第153話 黄金竜のバッジ

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―――――――――――



 頭の中で話をまとめていく。

 ここのクランという組織に関しては概ね理解出来た。話を聞いた限りではリスタージュにおけるクランシステムと似たようなものだと思う。

 さて、問題は僕がここでクランに入るとどうなるかだ。

 このクランはどう見てもここの町を拠点にしている。つまり所属すれば僕もこの町を拠点に行動することになるはずだ。僕の目的、世界を見て回ることを考えると一つの町に居続けるのはよろしくない。そもそもダンやメル達とのパーティを抜けたのも世界を旅するためだしね。

 でも、具体的にこれからどこに向かって何をするか決まっているのか、と問われると、ぶっちゃけ何も決まっていなかったりする。というのも、何らかの情報を集めようにも人の噂か数少ない本ぐらいしか情報を得る手段がないからだ。

 この世界にはモンスターという目に見えた脅威があったり血の繋がりやコネがモノを言うせいか、人々はあまり他の町へと行こうとしない。自由な冒険者ですら大半は生まれた町を拠点として活動する。別の町に行こうとするのは商人か、一部の冒険者か、国に属する人か、あるいは生まれた町では食っていけない人ぐらいだろうか。つまり人々の往来が少ないおかげで一般人には重要情報以外、遠方の情報がほとんど入ってこない。そして地図も一般には出回っていない。

 つまり、この世界のほとんどの人は、自分が住んでいる町の周辺と、あとは王都や大きい都市のことぐらいしか知らないのだ。

 当初の予定では世界中にある面白い場所を巡ったり、ダンジョンや未開の遺跡などを探索したり、伝説に残るような場所を探したいと思っていたけど。現実には未開の地や伝説どころか二つ隣の村の情報を集めるのにも苦労している状況。

 とにかく情報を集めたいけどその手段が乏しく、少し手詰まり感があった。

 それにエレムでレベル上げの最中に逃げることになって、本当はアルムスト王国へと逃げるつもりで情報収集してたのに何故かこのカナディーラ共和国に来てしまい、この地の情報がほとんどないのもある。現状、この町、商業都市アルノルンの周囲がどうなっているのかもよく分かっていないし、ここでギルドカードを作った以上、Eランクになるまではこの町に滞在する必要もあるけど……。

 でも、だからといってクランに所属するかどうかは別の話だ。


「……このクランに入ったら、どんなメリットがありますか?」

 悩んだ結果、直球で聞いてみることにした。

 大きい仕事ができたり、この町では多少融通がきくかもしれないけど、それにどれだけのメリットがあるのか、考えるだけでは正確には分からないからだ。

 その質問にケヴィンさんが即答する。

「おう、良い女がいる店に連れて行ってやるぞ!」

 そう言って彼はガハハと笑った。

「いや、そういうのは別に……」

「おぅ……俺はソッチの趣味の店は知らねぇぞ?」

「マスター」

「冗談だ、冗談!」

 いや本当にソッチの趣味はないからね。

 ただ、今はそういうことを考える余裕がないだけなのだ。

「う~む……男は大体、女の話で食い付くんだがなぁ……。まぁあとは金だな。儲かるぞ」

 それは確かに魅力的ではある。でもお金は頑張れば普通に稼げるし、そこまでのメリットではない気がする。

 そういう微妙な顔をしていると、彼の後ろにいるミミさんがおもむろに口を開いた。

「我々『黄金竜の爪』は、この町は勿論、国内ではそれなりに名の知れたクランです。少々の伝手もございますし、多少のことなら融通がききますよ。例えば、武具の調達とか。希少なアイテムを優先的に入手できたり。職人との伝手もありますし――情報の入手も可能です」

「……情報」

 思わずそうつぶやいてしまう。その瞬間、彼女の目がキラリと光った気がした。

「そうです。我々は様々な方々との繋がりから一般には出回らない情報の入手が可能なのです。それに、ここには遠方から取り寄せた資料の数々が保管されています。他では滅多に見られない貴重な資料もありますよ」

 情報……資料……。

 その瞬間、僕の中の迷いが消え、「よろしくお願いします!」と叫んでいたのだった。



◆◆◆



「ところで、だ。親父のところにいたんだったら、アレ持ってるんだろ?」

「アレ、ですか?」

 細かい条件や仕事内容について話し合ったあと、ケヴィンさん――マスターがいきなりそんなことを言い始めた。

「そうだ、アレだよアレ!」

「いや、アレじゃ分からないですから」

「かぁー! じれったい! ファンガスだよファンガス!」

 あぁ、干しファンガスか……。あの場所は暇すぎて自分でもよく干しファンガスを作っていた。ぶっちゃけファンガスのフルコース生活のおかげで当面は見たくもなくなっているのだけど、長い地下生活のおかげで消えてしまった保存食の替わりに干しファンガスを大量に持ってきていた。

 横に置いていた背負袋から干しファンガスが入った包を一つ取り出してテーブルの上に置き、包を開く。

「おぉ! これだよこれ! この芳しい香り、濃厚な味、間違いない! いやぁこっちではなかなか手に入らなくてよ! これ貰っていいよな? 礼はするからよ! じゃあ後は頼んだからな!」

 そう言って干しファンガスの包をワシッと掴んで彼は部屋の外へと走っていった。

 部屋の中には僕と、頭を押さえるウサ耳メイドさんだけ。

 というか、『貰っていいよな?』と聞く前に食べてたよね?


「はぁ……マスターはファンガスに目がないのです。こちらではあまり出回りませんしね。後でちゃんと礼はするように言っておきますので大目に見てあげてください」

 そう言うとミミさんはマスターが座っていた机の引き出しを開け、中をゴソゴソと漁り、金色に光る小さな何かを取り出した。

「これは『黄金竜の爪』メンバーの証。これを見せると、ある程度なら融通がきくこともあります。あのお方がお認めになった人なら大丈夫だとは思いますが、悪用はしないように」

 彼女に手渡されたそれは、黄金色に輝く鋭い爪の形をしたバッチだった。

 しかし、『あのお方』とは……。いや、流れ的にボロックさんのことなのだろうけど。彼は予想以上に凄い人だったのだろうか。

 そんなことを考えながら胸に黄金色のバッチを付けた。


「ようこそ、『黄金竜の爪』へ」

 ウサ耳メイドさんはそう言って微笑んだ。

 こうして僕は、クラン『黄金竜の爪』に所属することになったのだ。

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