第194話 新しい○○!……の前に考察を始めよう

 手とソレが繋がるような感覚。

 ゆっくりと魔法袋からソレを引き出していくと。


「水滴、の魔法書?」


 これは洞窟の中にあった神殿っぽい建物に放置されていたモノをパク……もといゲットした生活魔法の魔法書だ。……伝説の勇者も昼間っから民家に押し入ってアイテムかっぱらってるんだから大丈夫だよね? それにあそこは一〇年単位で放置されてたっぽいし既に所有者は放棄してるはずだ。うん、そうに違いない。

 ……いや、そうではなくて。


「何故、水滴の魔法書が反応するんだ?」


 これまで使えなかった水滴の魔法書が使える状態、つまり魔法を覚えられる状態になっていた。

 生活魔法は一番簡単な魔法とされていて、適性がなくても訓練を続けていれば大体いつかは使えるようになる。そう聞いた。その訓練とやらの方法は分からないけど、魔法の練習をするとか女神の祝福の回数だろうと予想している。

 僕は光魔法の適性しか持っておらず、光源の魔法は最初から使えたけど他の生活魔法はまだ使えていなかった。だから洞窟の神殿で他の生活魔法の魔法書をゲットした後は定期的に魔法書に触って習得可能か調べていたのだけど……これまでまったく反応しなかったのに今はしっかり反応している。

 確か、最後にチェックしたのは数日前だったと思うけど、この数日の間になにかがあって生活魔法を覚える条件を満たしたのだろうか? それとも――


「いや、そんなまさか……」


 オリハルコンの指輪を外し、もう一度、水滴の魔法書に手を伸ばす。

 少し緊張しつつ、ゆっくりと触れてみると――反応がない。


「うわぁ……」


 もう一度、オリハルコンの指輪をはめて魔法書に触れてみると、今度は反応する。

 つまり、オリハルコンの指輪を装備すると水滴の魔法を覚えられるようになっている。

 これは……ちょっと……どう言ったらいいのか分からない。


「他の魔法はどうだろう」


 気になったので魔法袋から他の魔法書を取り出して確かめていった。

 微風の魔法書、使える。操土の魔法書、使える。重量軽減の魔法書、使える。火種の魔法書、使える。ディスポイズンの魔法書、使えない。ストレンジスの魔法書、使えない。アーススキンの魔法書、使えない。ラージヒールの魔法書、使えない。

 なるほど。検証してみた感じ、生活魔法に関しては全て使えるようになっているものの、その他の魔法書は反応しない。どうやら全ての魔法が無条件で覚えられるようになる的な超強力なアイテムではないらしい。

 なんだかホッとしたような残念なような微妙な気分になる。

 超強力アイテムは嬉しいけど胃が痛くなりそうで微妙なんだよね。今の僕には、そんな貴重なモノを守りきれる力はないのだから。


「まぁ、超強力な能力でなくて良かった良かった……いや、本当に良かったのか?」


 もう一度、メモを見返しながら考える。

 アーティファクトの定義は一般的には決まっていない。ただ、人間に作れないアイテムをアーティファクトと呼んでいる。

 人間には作れないアイテム……。このオリハルコンの指輪……人間に作れるのだろうか?

 ステータスを上げ、覚えられない魔法を覚えられるようにして、見えないモノが見える? かもしれない指輪。

 魔法武具については詳しく分かってないし、正確には分からないけど。


「……無理じゃない?」


 そういうアイテムが店で売られているのを見た記憶がない。いや、庶民の店しか行ってないから、高級店に行けばあるのかもしれないか。

 これまで魔法武具について聞いた話だと、例えば火が出る剣とか防御魔法が発動する盾とか、以前持っていた麻痺のナイフのように毒効果が出たりとか、比較的イメージしやすい能力のアイテムが多かった。そういうのだと、作り方は分からなくても『魔法と同じようになんらかの方法で魔力を火とか毒に変換してるのだろうな』と想像出来た。しかし『魔法を早く覚えられるようになる』という効果がどういった仕組みで成り立つのか、想像出来ない。


「いや、そもそも……」


 魔法を早く覚えられる効果が出た時って指輪に魔力込めてないよね? ステータスが上がってるっぽいのもそうだけど、これは明らかに自動で発動している。でも、魔道具や魔法武具って使用者か魔石の魔力を使って発動する仕組みだった気がする。

 ……もしかすると使用者が使わなくても勝手に使用者の魔力を使って発動する、呪いのアイテムのような仕組みも存在している可能性はあるのか。

 う~ん、この辺りは深く調べてみないと分からないな。


「あっ!」


 待てよ。僕はこのオリハルコンの指輪に『魔法が早く覚えられるようになる効果』があると考えていたけど、可能性としてはMNDの数値によって覚えられる魔法が変わる可能性もあるのか。

 このオリハルコンの指輪でMNDが上がっているのはほぼ確定的で、MNDが上がったことによって覚えられる魔法が増えた。そうとも考えられる。


「まぁ、これは分からないな」


 個人的には『レベルが上がったから覚えられる魔法が増えた』というシステムが分かりやすくていいのだけど、それならどれぐらいで魔法が覚えられるのか、目安みたいなモノがもっと一般に知られていてもおかしくない。けど『どれだけ女神の祝福があれば○○の魔法が覚えられる』みたいな話は聞いたことがない。つまりそれは傾向が見えにくい、ということだ。


「もしかすると女神の祝福の回数とMND……含めたパラメータの数値で決まる可能性もあるか」


 ○○の魔法を覚えるには、女神の祝福一〇回とINTが二〇必要、みたいな感じで。

 でもそれだと魔法の適性とはなんだ、という問題が出てくるので難しい。


「……これ以上は考えても分からない、か」


 ベッドに倒れ込んでフッと息を吐く。

 今は情報が少なすぎる。

 この世界はとにかく情報を得るのが困難で困るんだよね。まぁほとんどの人にとって、こういう情報はどうでもいい情報だから広まらないってのもあるんだろう。僕だって日本では電信柱の上のグレーのバケツになにが詰まっているのか気にもしなかったし、それでも毎日毎日、電気を使っていた。もしかするとあの中では小さなオッサンが発電機を回しているのかもしれないし、ハツカネズミがハムスターホイールでカラカラと発電しているのかもしれないけど、そんなことを確かめようとは思わなかった。僕はこうやってまったく別のシステムで作られた世界に来たから、赤ん坊が手に取った物をとりあえず口に入れるように、目の前にあるモノにかじりついているだけで、この世界の一般人にとってはどうでもいいことなんだろうさ。


「さてっ!」


 ベッドから勢いよく体を起こす。

 とりあえず指輪の考察はここまでにして、今は他にやることがある!

 ベッドに散らばった魔法書の中から適当に一つ選ぶ。


「水滴の魔法書、か」


 水滴の魔法は以前、メルが使っていて何度か見た記憶がある。

 なんとなく懐かしい記憶を引っ張り出しながら、ページを一つ一つめくっていく。

 パラパラと読み進め、最後のページまで読んだ瞬間、魔法書が炎に包まれて消えた。


「よしっ! 一気に全部、覚えちゃおう!」

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