第193話

『世界設定を作中で書く時は大変で、プロの小説家漫画家は化け物ばかりだぞ、という話』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885207682/episodes/1177354054897871847

192話193話辺りの話を書いている時の話です。


―――――――――――――――――――――――――


 鍛冶屋を出て町をブラブラ歩く。

 これまで道端の露店や本屋で神聖魔法の魔法書を見付ける偶然が何度か重なったことで、時間があれば可能な限り町を見て回ってお宝を探すことにしている。

 とはいってもほとんどの町で、その全てを見て回ることは出来ていない。

 大きな町には必ず危険なエリアがあるらしく、そういう場所には近づかないようにしているので、どうしても見られない場所は出てくる。ランクフルトにいた時は低ランクだったので比較的そういう危険なエリアに近くて安い宿屋にずっと泊まっていたけど、あれはダン達に紹介してもらった宿屋だったし、彼らもあの近くに店を持つ商人の子供で顔馴染みも多くて土地勘もあったから問題なかっただけで、僕が一人であの辺りに入って安くて良い宿を探すのは難しかったかもしれない。


 歩きながら見付けた露店を冷やかし、また次の店を探す。

 相変わらず用途が分からない謎のアイテムを売っていたりする露店が多い。

 以前、黄金竜が出た日に見付けた露店は見付からなかった。剣とか謎のスクロールとか売ってて面白い店で気になってたんだけど、行商人っぽかったし既に別の町に移動してしまったのかもしれない。

 やっぱり露店って一期一会というか。特定の店を持たない行商人だろうから仕方がないのだろうけど、タイミングを逃すともう二度と見付けられないんだよね。だからこそ詐欺まがいの偽物を売っても逃げればオッケーみたいな感じになってる気もする。でも、そんな中だからこそ、神聖魔法の魔法書のようなアイテムを見付けられたわけで、僕としては文句も言いにくいところだ。

 そんな感じで昼過ぎまで町を探索し、シオンと串焼き肉で空腹を満たしてからクランハウスに戻った。

 今日は特になにも見付けられなかったけど、凄い発見なんてそうそうあるもんじゃないからね。


「さて、と」


 自室のベッドに座り、今日の出来事を振り返りながらオリハルコンの指輪を魔法袋から取り出した。

 こいつを調べようと思っていたけど他人を頼るのは基本的にナシの方向になった。つまり自力でどうにかするしかない。しかし――


「自力でこれ以上、どう調べればいいんだろう?」


 思いついたことは大体調べた気がするし……う~ん。

 ミミさんに相談してみるってのもナシなんだよね。ミミさんは僕がこの指輪を持っていることは知っているけど、この指輪に特殊能力があることは知らないはずだし。……まぁ、ミミさんなら謎の力でなにか気付いてそうで怖いけど。

 ミミさんのあの能力に関しても、可能なら調べておきたいのだけど……まぁそれは後にして。あとは知識的な方面から調べるしかないだろうか? 過去に存在したアーティファクトや魔法武具とか属性武具から似た効果のアイテムを探すとか。


「アーティファクト、か……」


 考えていると、頭にその言葉が残った。

 もしかして、これってアーティファクトだったりする?

 ……いや、そもそも僕はアーティファクトの定義を知らない。というか、ギルダンさんもよく分かってなくて『人の手で作れないからアーティファクト』的なふわふわ認識だったはずだし、少なくとも一般的にはかなり曖昧な定義で通っているはず。

 う~ん、それ以前にまず魔法武具や属性武具についても詳細は分かってない、か……。

 もう一度、整理してみよう。

 魔法袋の中からメモを取り出して確認しながら思い出す。

 属性武具については以前、ウルケ婆さんのところで作られるのを見たし、大体は分かっている。

 属性武具は魔結晶を錬金術で融合し、魔結晶の属性を付けた武具。属性を付けた分だけ威力が上がり、付けた属性の魔法を強化出来る魔法発動体になる。しかしそれ以外の属性は扱いにくくなってしまう。

 つまりこの指輪には魔結晶は付いていないので属性武具ではない。それは確定でいいはず。

 次に魔法武具に関してだけど、これは魔道具を仕込んだ武具らしい。しかしまず魔道具についてがよく分からないのだ。

 何度かその存在を見たことはあるけど、使っている人達もその仕組を詳しくは理解していなかった。まぁ地球の人々だって一〇〇円ライターの仕組みすら理解せずに『そういうモノだ』と思って使っているのだから、そんなモノだと思うけど。

 自分で買って分解して確かめてみたいと考えたこともあるけど、値段が金貨単位で諦めたし。そういうモノを分解しても安全なのかすらよく分からないから難しい。なので結局よく分からないまま来てしまったけど、どこかでどうにか調べておきたいんだよね。まぁその調べるのが難しいのだけど。

 今の所、魔道具の仕組みとか作り方とかをまとめた本は見ていない。そりゃこんな著作権もなさそうな世界だと技術は門外不出である可能性が高い。普通に考えても詳細なんて教えてくれるはずがないんだよなぁ。

 メモをパラパラとめくって情報を探す。


「あっ!」


 そういえば、魔道具って基本的に魔石を動力源にするけど魔力を流すことで動力源に出来るモノもあるんだっけ。そう考えると案外、魔道具と魔法武具って機械的というか科学的な感じがするかも。

 そして見た感じ、このオリハルコンの指輪には魔石をはめるような場所は存在していない。つまりこれが魔道具――もとい魔法武具なら魔力を流すことで発動するのでは?


「やってみよ……いや、待てよ」


 それでとんでもない効果が出たらどうするんだ?

 使用するとMPが回復するけど稀に壊れる、ぐらいの祈りたくなる効果ならいいけど、魔力を流すと爆発魔法が発動するとかだと色々と終了だぞ。


「ここでは止めとこう……」


 危ない危ない……気付いて良かった。

 でも、この指輪を付けて魔法使ったこともあるし、魔力は流れてる気がしないでもないけど……まぁ分からないな。

 とりあえずこの実験は次回、外に出た時にでもするとして。


「他になにか、ないものか……」


 思い付かないので背負袋の中に手を突っ込んでなにかを探る。

 いつも使ってるタオル、メモ用の紙、鉛筆、非常食、鍋、着替え、水筒、フサッとした毛皮の……シオン?


「こらっ! 背負袋の中に入っちゃダメでしょ」

「キュ?」


 やけに静かだと思ったら背負袋の中に入って遊んだ後、疲れて寝てたみたいだ。最近はこういうヤンチャな一面も見えるようになってきたけど、本当に困るようなイタズラはしないので、まぁこれぐらいは仕方ないかと思っている。そういう年頃だしね。

 シオンを取り出して横に置き、次に腰の魔法袋から中身を取り出していく。

 記号が彫られた丸い石、破れたスクロール。

 この辺りはランクフルトで浄化の魔法書と麻痺のナイフと共に金貨一枚で買ったアイテムだ。他にはボロボロの皮の盾と陶器っぽい瓶があったけど、そちらは既に捨ててある。皮の盾はどうやら普通にボロい盾でしかなく、陶器っぽい瓶は中にただの水が入っていた。しかしそれでも浄化の魔法書と麻痺のナイフと二つも当たったのだからハズレアイテムも捨てたもんじゃない。むしろアタリアイテムまであるよね。

 丸い石と破れたスクロールは用途がまったく分からないけど一応まだ持っている。紙で作られた巻物にも、文字の彫られた綺麗な球体の石もなにかあってもおかしくないと感じたからだ。

 スクロールの紐を解いて開いていく。

 クルクルとトイレットペーパーのように巻かれた紙には不思議な文字が書かれてあって、なにかがありそうな気がする。けど、その後半部分が破れてなくなっているのだ。もし意味があるスクロールだったとしても、これでは使えないだろう。


「でも似てる気がするんだよね」


 魔法袋の中から強化スクロールを取り出す。

 なんとなく、この強化スクロールや、以前露店で見たスペルスクロールとやらとも似ている感じがする。

 まぁ、人を騙すために偽造するなら似せて作るはずだし、似ていることにそこまで大きな意味はないかもしれない。けど、少し期待してしまう。

 また魔法袋をゴソゴソと漁る。

 聖石。

 既にストックが三〇個を超えた。現時点ではサモンフェアリーしか使い道がなく、増えていく一方だ。最近はそこまで積極的に増やしていこうとはしていないけど、いつかはこれを大量に消費するような魔法とかが出てくるのだろうか?

 そう考えながら聖石をオリハルコンの指輪に押し当てたりするけど、なにも起こらない。


「ダメか。次」


 光の魔結晶と闇の魔結晶。

 オリハルコンの指輪はなんの反応も示さない。

 干しファンガス。

 干しファンガスを取り出してオリハルコンの指輪に押し当ててみる。


「……」


 少しキノコ臭くなった。


「……次だ」


 塩。

 港町ルダで買った塩。その袋の中にオリハルコンの指輪をブチこむ。


「……」


 オリハルコンの指輪の塩漬けが出来た。

 ……なんだろう。思考がダメな方に向かっている気がする。

 そもそも僕は、なにがしたくてこんな作業をやっていたのだろうか? そこから分からなくなってきた。

 どんどん自分がなにをやっているのか分からなくなってくるこの感じ。実に良くない。


「はぁ……」


 一旦、思考をリセットし、オリハルコンの指輪を指にはめる。

 アテがない状態で合っているか間違ってるか分からない作業を延々と進めるのは精神的に来るモノがある。まさに霧の中を進むようなモノだ。

 そう思いつつ魔法袋の中に手をつっこみ、適当に残りのアイテムを引っ張り出すと――


「えっ……」

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