第192話 鑑定を依頼しよう
「ふぁ……」
ベッドから身を起こし、そのままベッドに腰掛けた。
飲み会の次の日、起きて気が付いたらベッドの隣に知らない人が! からの~恋愛に発展してどうこう的な恋愛漫画のようなベタな展開はないらしい。相変わらず、隣で寝ているのはシオンだ。それはそれでかわいいからいいのだけど。
しかし、昨日はよく飲み、よく食べた。こんなに飲んだのは久し振りな気がする。やっぱり仕事が成功した後の打ち上げは楽しいから仕方ないよね。
でもちょっと頭が痛いかも……。
少し考えてから魔力を練った。
「……神聖なる風よ、彼の者を包め《ホーリーウインド》」
キラキラと輝く優しい風が僕の周囲を包み込む。
と同時に頭の痛みや気持ち悪さが消えていく。
「これも治せるのか……」
なんとなくいけそうな感じがしたので使ってみたけど治せてしまった。
しかしこんなことに神聖な神聖魔法を使ってしまっていいのだろうか? ……まぁお風呂代わりに神聖魔法を使っている人間が考えることじゃないか。
と思いつつ、いつものお風呂魔法で身支度を整えて部屋を出る。
「おはようさん」
「あっ、おはようございます」
廊下で出会った人と朝の挨拶。
だいぶこのクランでも顔馴染みが増えてきた、かもしれない。
町の宿屋に泊まっている時は人の入れ替わりが多くてあまりこういう感じではなかったけど、やっぱりクランだと距離は近くなる。最初にお世話になった南の村は人も少なくて顔馴染みになりやすかったけど。
クランハウスを出て鍛冶屋へ向かって歩いた。
街路樹の葉がカサリとも揺れない無風の中、陽の光がギラッと降り注ぐ。
今日は雲がない晴天でちょっと暑い。でも日本の夏とかのレベルとは程遠く、十分許容範囲。これが日本のような気候だったらリアルに絶望してたかもしれない。エアコンもないこの世界であれは耐えられないよね。
と考えている間にいつもの鍛冶屋に着いた。
カランと扉を開けて中に入るといつものようにドワーフの親方がカウンターで頬杖をつきながら鍛冶場の方を見つめていた。
「すみません」
「ん? おう、お前か。やっぱり闇水晶の武器は使えなかったか?」
「いえ、それは問題ないのですけど。指輪の鑑定をしてもらえませんか?」
「そりゃあ他あたってくれ。この店には鑑定持ちがいねぇんだ」
鑑定持ちがいない、か。
どうしようか。本職の人にオリハルコンの指輪を見てもらえば、ランクフルトでギルダンさんに麻痺ナイフを見てもらった時のように効果が分かるかもしれないと思ったのだけど。
でも、この親方って以前、闇水晶の刃を見た時に色々と言い当ててたよね?
「親方は鑑定出来るのでは? 以前、闇水晶の刃を鑑定しましたよね?」
「あれは知識と経験で分かっただけだ。俺は鑑定持ちじゃねぇよ」
「……鑑定持ちって少ないんですか?」
「そりゃそうだ。鍛冶の才能があっても鑑定出来るようになるとは限らねぇからな。俺の体感だと鍛冶師の一〇〇人に一人もいねぇよ」
ん~、なるほどね。ということは、ギルダンさんってかなり凄い人だったのでは?
「鑑定が出来ても鍛冶師としちゃそこまで特別有利じゃねぇ。重要なのはどれだけ良い剣が打てるかだ。鑑定が出来ても鍛冶の腕はイマイチな奴もいるしよ。まぁ鑑定を使える腕のいい鍛冶師は総じて鑑定もうめぇが、逆はねぇ。腕がイマイチな鍛冶師は鑑定もイマイチだぜ」
となると、やっぱり鍛冶とか木工などの生産系アビリティ能力と鑑定の能力は別物、ということでほぼ確定かな。恐らく鍛冶などの生産系アビリティと、確定はしてないけど天龍眼とか審美眼みたいな眼系のアビリティ、その両方をたまたま持って生まれた人が鍛冶を習得していくと鍛冶で作った物の鑑定が使えるようになる、と。恐らくそれは鍛冶以外でも同じなんだろう。
そう考えると鑑定を使える人が少ないのも分かる。
「腕がイマイチな鍛冶師は鑑定もイマイチ、というのは、鍛冶の腕がイマイチな人が鑑定してもあまり良く分からない、ということですか?」
「あぁ、そうらしいぜ。スゲェ鍛冶師が材質から能力、切れ味、色々と分かるところをヘボな鍛冶師じゃゴブリンの涙程度しか分からねぇ。まぁスゲェ鍛冶師でもアーティファクトのようなスゲェ業物はなにも分からねぇらしいがよ」
つまり凄いアイテムを鑑定するにはそれ相応の鍛冶師としての腕が必要、という感じなんだろうか。僕の鑑定でも、気が付いたら分かる内容が増えていたしね。
しかし……アーティファクトの鑑定ってどうしてるんだろうか? 凄腕の鑑定持ち鍛冶師でも鑑定出来ないらしいけど、文献を見る限りアーティファクトを上手く運用している国家もあるっぽいし。もしかすると別の鑑定方法もあるのかもしれない。
「えっと、じゃあどこか鑑定してもらえそうな人、紹介してもらえたりします?」
「ふむ、指輪……となると町北のデニスか……ウルケ婆さんもアリか」
「あれ? ウルケ婆さんは錬金術師なのでは?」
「冒険者が鑑定したがるような指輪だ、なにか効果がありそうなんだろ? そういう物なら鑑定持ちの錬金術師が鑑定出来ることもある。魔法武具なら鑑定持ちでなくても分かる錬金術師はいるらしいしよ。属性武具の指輪は……ないか」
「というと?」
「魔結晶の大きさを考えてみろ」
あ、確かに、魔結晶は小さくても三センチぐらいの大きさがあるか。それを指輪に融合させるとなると大きくなりすぎるし、その一番小さいDランクの魔結晶では大した効果にはならないだろう。出来るか出来ないかでいうと出来そうだけど、あまり作られない気がする。
そして指輪の鑑定を錬金術師も出来る場合がある、と。
僕のこれまでの『鑑定』に関する考察が正しいのだとすると、特殊な能力を持つ武具を作るには鍛冶だけでなく錬金術も必要ということなんだろうね。
「それとな、別に紹介してやるのはいいんだがよ」
そう言いながらドワーフの親方は後頭をかきながら大きく息を吐いた。
「鑑定を依頼するならよ、相手が信用出来るかは自分でもしっかり見極めてからにしろ。鑑定結果は鑑定した本人にしか分からねぇんだ。そいつが嘘をついて買い叩く可能性もある。それに誰かに鑑定を依頼するってことはよ、その能力が他人にバレるってことだ。若い冒険者が分不相応に良すぎる装備を持っていると広まれば色々と面倒になるからよ」
「そう、ですね……気を付けます」
ん~、それは確かに。でも自分で調べた感じでは完全には分からなかったし。某ゲームのように鑑定する方法がなくなって、とりあえず使って、装備して、飲み込んでみて、どんな効果があるか調べる男識別を続けていたら、あのゲームのようにいつかは呪いの装備にぶち当たったりレベルが下がったり痛い目に遭う気がするんだよね。だから結局は専門家に見てもらうしかないんだけど、その相手を選ぶのも旅の冒険者には難しいし……。
自分で鑑定をマスター出来ればいいんだけど、鑑定のシステム的に僕が鍛冶等の鑑定をマスター出来るようになる可能性は低いしさ。
でも、忠告はありがたく受け取っておこう。こういう忠告は若い内にしかされない。大人になってからはそれこそ本当に痛い目に遭って学ぶしかなくなるし、この世界でそれは死の時かもしれないのだから。
それにオリハルコンの指輪は仮になにも効果がなくても価値のあるアイテムのはず。それは想像以上に目立つのかもしれない。しかもこれは最低でもMNDアップの効果があると確認されている。それがどれぐらいの価値になるのか分からないけど、傍から見ると僕に相応しいアイテムとは思われないだろう。
う~ん、念の為、ドワーフの親方にもオリハルコンの指輪を見せずに話をしていたのは正解だったか。この指輪は当面、真の能力が分からなくても出来るだけ誰にも見せないようにしておこうか。
「で、どうする?」
「今回は止めておこうと思います」
僕がそう言うと、ドワーフの親方は「そうかい」と言いながら白い歯を見せたのだった。
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