第208話 山を下りて得た新しい能力と、ヴェルナントカオリジナル

 山を下りて洞窟を抜け、タンラ村で馬車に乗り、また数時間もゴトゴト揺られ、アルノルン近くの森で解散となった。


「それではここで解散とします。報酬については公爵様に報告した後になります。それと、クドいようですが、例の話は誰にも話さないようにしてくださいね。あれを喋っても誰も得しませんから」

「あぁ」

「分かりました」

「では、公爵家の皆様。後程、公爵様への報告にご同行願えますか?」

「いいぜ」

「勿論だ」


 ダリタさんとモス伯爵が答え、トリスンさんが頷いた。

 そして外套のフードを深くかぶり、時間差で馬車を下りて町に入る。

 町はいつもと変わらないけど、暫く離れていたせいか見慣れない町に見えてしまう。


「暫くは休みにするか。今回の報酬はそこそこ良いはずだしな!」

「さんせー! 早く部屋に帰りたい!」

「キュ!」

「おー、シオンもそう思う?」


 ということで暫くの間、冒険者稼業は休みとなった。

 談笑しながら町を歩き、クランハウスに戻って自室に入る。


「不浄なるものに、魂の安寧を《浄化》」


 それと同時に数日間の汚れを浄化で落とし、シオンにも浄化を使う。皆といる時は流石に使えなかったので、なんだか常に違和感があったのだ。浄化の威力は凄まじく、拭き取っただけでは取れなかったベタつきや汚れがゴッソリ落ちて気持ちいい。


「う~ん、やっぱりこれがないとダメだ」

「キュキュ」


 シオンも同じ気持ちらしい。

 と、思っていたところ、体の周辺から光が立ち上り、僕の体の中に吸収された。

 女神の祝福だ。


「このタイミングで!?」


 戦闘以外でも上がることがあるとは聞いていたけど、まさかこんなタイミングとは。


「確かこれで一六回目だっけな。寝てる時に上がってたら分からないけど」


 久し振りに上がった気がするなぁ、さて今日は疲れたから寝ようか。と思ってシオンを抱き上げようとすると。


『聖獣リオファネル』


「ん?」


 天井を見上げてから、もう一度シオンを見る。


『聖獣リオファネル』


「マジですか……」

「キュ?」


 どういうことだ? これは謎の鑑定能力と同じ。これまで見えなかったのに、シオンの種族?が見えるようになっている。これはつまり生物の鑑定が出来るようになっている? 問題は、これがどこまでの範囲に効いているのかだ。

 シオンを抱いたまま急いで部屋の木窓を開けて覗き込み、誰かいないか周囲を探すと、丁度、窓の下の庭で体を拭いている中年男性を見付けたので凝視した。じっくりと、凝視する。


「……」

「フンフンフン……!!??!?」


 しかしその中年男性にはなにも表示されない。裸の中年男性のままだ。

 つまり、これはシオンだけに適応されている? いや、シオンは卵の時、確か今回と同じように聖獣リオファネルと表示された。つまり僕の謎鑑定に反応する存在、聖なるモノの枠の内だったはず。ということは今回のこれも聖なる生物だけ鑑定出来るということか? でもそれって範囲狭すぎない? そんな聖なる生物にポコポコ出会う聖獣のバーゲンセールみたいな状況には流石にならないだろうしさ……。ならないよね?

 木窓を閉めてベッドに座ってシオンをベッドに置く。

 う~ん、とりあえずこれでなにかが大きく変わることはなさそうかな。

 そう考えながら、その日は眠ることにした。


◆◆◆


 翌日、朝からウルケ婆さんの店に行く。


「すみません」

「お前さんかい。あの闇水晶の属性武器のクレームは受け付けないよ」

「あぁ、いえ、そうではなくてですね。今日は一つ質問がありまして」

「なんだい、冷やかしなら帰んな!」

「あぁ! いや、これが欲しいなぁ……って!」


 適当に棚にあったアイテムを掴んでカウンターテーブルに乗せる。


「ふん……金貨一枚だね」

「たっか……いや、はい金貨一枚。……それでですね、コンロってあるじゃないですか。あれってどこの誰が造ったのかご存知かなぁ……って」

「……さてね。私が気付いた時にはコンロとして売られてたからね。まぁ、アルッポに行けば記録なんかが残ってるかもしれないね。まぁ、そんな記録、一般人には見せてもらえないだろうけどね」


 アルッポの町か……以前にもその名前が出てきた気がする。確か、裂け目のダンジョンがある町だったはず。


「アルッポの町に行けば分かるって、そこにはなにがあるのですか?」

「あそこには錬金術師ギルドがあるのさ。大きいのがね。私も元はそこで修行してたのさ」

「なるほど」


 アルッポか。興味はあるけど、クランに入っている以上、移動は簡単ではない気がする。う~ん、やっぱりこういう時は組織に所属するデメリットを感じるなぁ。でも、黄金竜の巣とか古代遺跡とかに出会えたのはクランのおかげだし、このあたりは難しいね。

 ウルケ婆さんに礼を言い、店の扉を開ける。


「あぁ、それと。その魔力ポーションの使用期限は七日程度だからね。それまでに使っちまいなよ。期限が切れたら効かないからね!」

「その、って……あぁ、これか!」


 さっき適当に掴んで買ったこれか! メッチャクチャ高いと思ったら魔力ポーションなのか……そんなもの今まで一回もお世話になったことないのに、七日以内に使い切れって言われても無理だよ……。仕方がない、せっかくだし適当に魔力減らして効果を確かめるか……。


 そうして数日間は、減った物資を買い直したり、復活した滝に阻まれて家に戻れなくなりクランハウスに泊まっているボロックさんと酒を酌み交わしたり、楽しく休暇を満喫した。

 ボロックさんは久し振りに子供と孫に会えて喜んでいるようだった。サブスには色々と思うところはあるけど、ボロックさんからしたら孫だし、彼もまた、キャンディーが貰えるぐらいには特別な存在なのだろう。

 黄金竜の巣のあれこれに関しては、ボロックさんが言うには、公爵様への説明が長引いているようで、報酬はもう少しかかるらしい。

 さて、どうなることやら……。




――――――――――

この前後辺り、諸事情で少々駆け足気味になってるかもしれません。

ご了承いただければ嬉しいです。

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