第207話 新たなる魔法書とアーティファクトの発見
それから落ちていた黄金竜の鱗や毛を一部回収していった。
本来なら伝説級の素材をこの手に触る機会を喜ぶべきなのだけど、とてもそんな気分にはならなかった。
黄金竜の鱗は小さめの盾ぐらいの大きさがあって、思ったより軽かった。当然、それらはミミさんに回収されてしまう。可能なら僕も一枚ぐらい確保しておきたいけど無理だろうね。諦めよう。
しかし神聖教会か……これはどうなるのだろう。
「それでは本日はこちらの町に泊まりますので、日没まで手分けして町の調査を行います。ルシール、貴方には黄金竜の巣の調査と公爵様に提出するレポートの提出をお願いしておりましたが、こうなった以上、この町の調査についてもお願いしたいのですが、可能でしょうか?」
「問題ない」
「では、よろしくお願いします。それと皆様、分かっているとは思いますが、調査の中でアーティファクト等の重要アイテムが見付かった場合、全て公爵様に献上していただくことになります。ただし、それ以外についてはうるさく言うつもりはありません」
「おっ? えらく気前がいいじゃねぇか」
「よしっ!」
これで冒険者組がやる気になってきた。
まぁ今回の調査は公爵様の依頼ということになっているしね。ちょっと強いぐらいのアーティファクトならともかく、仮にもしここで国宝クラスのアーティファクトが出たとしたら大騒動になるはずだし、予めそういう条件を付けてくるのは当然だろう。それ以外については冒険者に譲るというのも冒険者の士気を考えた場合、妥当な線か。
そうして手分けして町中の調査が始まった。よく勇者が初めて来た町でやるアレである。
「この石は……魔法による物……だとすると年代は――」
ルシールはそういった宝探しには興味がないらしく、建物や石畳の素材や模様などについてスケッチを取りながら調査していて。サイラスさんとシームさんはその奥でガサゴソと廃墟の中を漁っている。
僕は少し気になることがあったので、道を戻って神殿へ向かった。
「その力は全てを掌握する魔導。開け神聖なる
神殿の入口で周囲に誰もいないことを確認してからマギロケーションを使う。
魔法によって広がった視界により、周囲の地形を把握出来るようになった。そうして洞窟の中を進む。
さっきここに来た時、確かここに……。
「あった!」
黄金竜の巣へ続く道の途中に別の道があったのだ。
その小さな脇道に進むと、道の左右に小さな小部屋が見えてきた。
やっぱり、以前、死の洞窟の中にあった神殿と同じような造りだ。
マギロケーションで中の安全を確認しつつ、辛うじて残っている木の扉を開いて小部屋に入る。
中は予想通り汚れにまみれていて、ほとんどの物が腐食していたりして使い物にならない。鉄製っぽいナイフなどもサビが酷くてどうにもならない感じだった。しかしマギロケーションでくまなく探していくと、銅貨や銀貨などが見付かり、多少のお小遣い稼ぎにはなったけど、それぐらいだ。
そうして次々と部屋を見て回り、一番最後、突き当りの部屋の扉を空けた。
「やっぱり」
やはりここは倉庫のような造りになっていた。
木製の棚が並んでいて、そこにいくつかの物資が置かれている。
端からしっかりと見ていったけど、ほとんどの物は朽ち果てていて使い物にならない。ここがどれだけ長い間、放置されていたのかを実感する。
金属の鍋のような物。鎧のような物。布製のなにか。かつては乾燥肉だったはずのミイラ。そして――
『ホーリーレイの魔法書』
『神聖魔法の魔法書』
『ターンアンデッドの魔法書』
『神聖魔法の魔法書』
『ディバインシールドの魔法書』
『神聖魔法の魔法書』
あった! しかも三つ!
神聖魔法の魔法書は長い年月を経たはずなのに、腐食することなくその場に残っていた。
しかし……。
「神聖教会の神殿の中に神聖魔法の魔法書があるということは……」
少なくともこの時代の神聖教会では神聖魔法の存在が認知されていた?
そういう認識でいいのだろうか?
とりあえずマギロケーションで付近に誰もいないことを確認し、三つの魔法書を使っていく。
いつものように本を読み進め、燃やす作業を繰り返す。
「なるほど……」
なんとなく理解した感じ、『ホーリーレイ』は攻撃魔法らしく、次に『ターンアンデッド』はその名の通りアンデッド系を倒す魔法っぽい。ライトボールよりもっと強い攻撃魔法が欲しいと思っていたけどライトアローはまだ覚えられないし、最近は物理攻撃ばかりになっていたので嬉しいのだけど。
「ディバインシールド……これは、なんだろう?」
防御魔法であることは分かる。だけどなんだかちょっと……。
「とりあえず使ってみるか……」
と思って発動しようとしてみるけど、出る気配がない。
「なら聖石が必要なパターンかな」
魔法袋から聖石を一つ取り出して魔法を発動させてみようとする。
しかし発動しない。
「どういうことだろう? 一つじゃ足りない、とか?」
そう考えてもう一つ、聖石を取り出して発動しようとする。しかし発動しない。続けて三つ、四つ、五つ、六つと増やしていくも発動せず。そして一〇個の聖石を握りしめて発動しようとして、やっとイケる感覚があった。
「ちょっと消費数が多すぎでしょ……まぁいいか……。神聖なる光よ、全てを拒む盾となれ《ディバインシールド》」
ディバインシールドの魔法を発動した瞬間、手の中の聖石が崩壊し、二割ぐらいの魔力と引き換えに一メートルぐらいの大きさの光り輝くラウンドシールドが現れた。
虹色に輝くその光が倉庫の中をギラギラと照らす。
「おぉぅ! ちょっと派手すぎ!」
まるで九〇年代のダンスホー……いや、それ以上いけない。不敬罪で神の雷が振ってくるかもしれない。
と思っていると、輝くラウンドシールドが崩壊していき、綺麗サッパリ消えてなくなった。
「う~ん……なんだか凄そうな防御魔法な気がするけど……」
とりあえず消費が多すぎる。それに防御魔法ってどれぐらいの守備力があるのか分からないと怖くて使えないよね……。ちょっと試しに使ってみたら耐えきれずに攻撃が貫通して『グワッ! やられた……』では笑い話にもならないし。とりあえずちょっと保留かな。
攻撃魔法はここでは使えないし、また今度、試してみよう。
◆◆◆
洞窟を出て町に戻る。
皆はまだ町のそこら中で探索を続けているようだ。
僕も探索に参加しようと思ったけど、どこが未探索エリアなのか分からないので、とりあえずマギロケーションで怪しい空間を探りつつ町の入口の方に歩いていくことにした。
すると横の家からドスンとなにかが崩れる音がした。
「それ、貴重な歴史的遺産、壊さないで!」
「わ、悪い! ちょっと邪魔で……」
いつも聞かないようなルシールの声とサイラスさんが謝る声がする。
どうやら壊しちゃいけないモノを壊してしまったようだ。
歴史的建造物の価値は人々の生活にある程度の余裕が出てこないと認知されにくいだろうし、仕方がないかもしれない。世界遺産になった日本の某歴史的建造物も一時は民間企業に売却され、解体されて素材売りされそうになったところ、規格が合わなかったために売れずに放置されて現代に残って世界遺産になった、という話もあったりする。大体そんなモノだ。
などと考えつつ歩いていると、最初に入ってきた門の前に着いた。
この辺りは破壊後もない。最初に着いた場所だったからか、逆に誰も探査してないのかも。
じゃあここを探してみようかな、と思って周囲を見渡してみると。
「ん?」
マギロケーションに丸い物体の反応があった。
門の真横。恐らくこの町がまだ生きていた頃は門番とかが使っていたのであろう詰所的な場所。
その建物に入り、中を物色していく。
最初の部屋を抜け、その隣の部屋の奥。崩れた天井の下にある木の箱の中。
崩れた天井を持ち上げて除去し、現れた箱を開けると、中からホコリにまみれた丸い玉が出てきた。
「なんだこれ……」
とりあえずそれを持ち上げてみようと手で掴んでみると、その玉が青く輝きだした。
「うおっ!」
驚いて、慌てて手を離すと光がゆっくりと収まっていく。
なんだこれ?
恐る恐るもう一度、手で触れてみると、また青く光り始める。
「害は……なさそう?」
持ち上げて布でホコリを払ってみると、ホコリの下から透明な水晶が現れた。
「なんだこれ……」
◆◆◆
「これは……真実の眼、でしょうか」
「おぉ! よく見付けたな!」
謎の水晶玉をミミさんとゴルドさんに見せると、そう言われた。
「真実の眼?」
「はい、おめでとうございます。これは、アーティファクトです」
「アーティファクト……アーティファクト!?」
これがアーティファクト! なんだかちょっと感動してきたかも……。
いつか自分でアーティファクトを見付けてみたいと思っていたけど、こんなところで見付けられるなんて……。
「古代遺跡を探索してアーティファクトを見付けるとかよ、冒険者の目標の一つだぜ? もっと喜べよ!」
「はいっ!」
「まぁ、このことは誰にも自慢出来ねぇんだがな」
「……はい」
そうなんだよねぇ……凄く嬉しいけど、ここに古代遺跡があるとは誰にも言えない。下手に自慢するのもリスクが高いし、そもそもこのアーティファクトは公爵様に持っていかれるから手元に残らない。なにも自慢出来る要素が残らないのだ……。
「確かに人に話すことは出来ませんが、公爵様から褒美をいただけますからね。真実の眼はそれなりに数が出ていますが、重宝されるアーティファクトですから」
「重宝される、ということは効果も分かっているのですか?」
「えぇ、こうやって触れると――」
ミミさんが真実の眼に手を乗せると、僕が触った時より弱いけど、水晶玉が青く光り輝いた。
「通常は水晶玉が青く輝くのです。しかし犯罪者が触れると、赤く輝きます」
「なるほど」
ん~……つまり犯罪者を見分けられるアーティファクト、ということか。道理で門の横にある家に置いてあるわけだ。でも、こんなアーティファクトが持ち出されずに残っているということは、この町の住人はこの町がこうなった時、逃げられなかったのかも……。
しかし、犯罪者を判別するアーティファクトって、どういう基準で分けているのだろう?
一度も悪いことをしたことがない人なんてほとんどいないだろうし、生物を殺すことが悪いことなら、僕達冒険者は真っ赤だ。しかし青かった。この水晶玉は何らかの基準で青と赤を出しているのだろうけど、そこがちょっと見えてこない。基準が見えないというのは怖いことだ。自分が大丈夫だと思っていても、基準が分からなければ絶対ではないのだから。
そんなこんなで僕達は黄金竜の巣の調査を終了し、ボロックさんと共に山を下りてアルノルンに向かった。
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