第56話 補給物資と黒い山

「よーし! じゃんじゃん焼いていけ!」

 あれから、すぐに前衛部隊が門を出て後始末を始めた。そして今回のモンスターがエルシープだった事から、それを解体して焼き始めたのだ。


「お待たせしました! 物資を持ってきましたよ!」

 そうこうしていると、馬に引かれた荷車が到着し、男達が荷台から箱や樽をおろしていく。

「商業ギルド一押しの葡萄酒です! 飲んでみて下さい」

「矢の補充はこちらです。沢山ありますからね」

「シチューだ。欲しい奴はこっちへ」

 どうも商業ギルドと話が付いたようだ。次々と色々な物が荷台からおろされていく。

 降ろされた大きな五徳が道の端にいくつか置かれ、その下に薪が放り込まれ、上には大きな鍋がのった。

「火よ、この手の中へ《火種》」

 誰かが魔法を使うと、薪へと火の玉がゆっくりと飛んでいき、メラメラと薪を炙る。一〇秒ほど経った後、火の玉が消え、そして薪に火がついていた。

 魔法って便利だなぁ、と思う。

 通常、薪に火をつけるのって、そこそこ大変だったりするのだ。ライターのような道具で薪を炙っても火なんて中々つきやしない。だから通常は紙などの火がつきやすい物から燃やし、その炎で細い枝などを燃やし、そして細い薪、太い薪と順番に火をつけていく。しかし魔法はその順番をすっ飛ばし、いきなり細い薪に火をつけた。それだけの熱量があるという事だろう。


 彼らはそうやって全ての薪に火をつけていった。

 その一つでは大きな鍋を煮込み。他では肉を焼いていく。

 肉は適当な大きさに切り落とされ、そして何かの壺の中に漬けられてから網の上で焼かれていく。壺の中には黒っぽい色の液体が入っており、何か細かく刻まれた葉っぱのようなものも見える。

 秘伝のタレなのだろうか?

 ジュウジュウと音をたて、炙られた肉から油が滴り落ち、熱せられた薪の上でジュワっと弾け、辺りに食欲を刺激する芳香を放つ。

 その音と匂いに五感を刺激されたのか、周囲の冒険者達が少しずつ集まってくる。そして皆、何も言わずとも荷物の中から入れ物を出していた。

 誰かの、ゴクリ、というツバを飲み込む音が聞こえた。

 誰かの? いや、僕が自分で出した音なのかもしれない。

 僕も慌てて背負袋から木製の丼鉢とスプーンを出した。ちょっと箸が欲しいかなと一瞬思ったけど、ないものは仕方がない。今はスプーンで何とかして食べよう。またいつか暇があれば自分で作ってみるのもいいかもしれない。


「さあ出来たぞ! 欲しい奴は何か入れ物を出してくれ。まだまだ数はあるからどんどん食っとくれよ!」

 その瞬間、周囲の冒険者達が殺到して押し合いになった。

「親父! 三つくれ!」

「俺は四つだ!」

「じゃあ俺は五つくれ!」

「こら! まだまだあるから押すな! 順番だ、順番」

 そして冒険者達との戦いをくぐり抜け、肉を三切れ確保し、そして葡萄酒を入れてもらい、その場から離脱した。


「こいつぁうめぇ……いつも飲んでる水増し葡萄酒とはモノが違うぜ」

「この肉のヤベェぞ! 何だか知らねぇがめちゃくちゃうめぇ!」

 肉を食べて歓喜の声をあげる冒険者達を横目に見ながら僕も肉を食べてみる。

 拳の半分ぐらいの大きさの肉にガブリと噛み付き、モガモガと歯を立てた。

「……固い」

 舌に感じる味は、塩味とハーブがガツンときいてておいしく感じるけど、固くて噛み切れない。

 周囲の冒険者を見てみる。

 肉を食べている冒険者達のほぼ全てが何かしらのナイフのような物を持っていた。そのナイフは様々で、小さな果物ナイフのような物から大型のサバイバルナイフのような物まである。

 暫く観察していると、彼らは摘んだ肉をナイフで切り落とし、一口サイズにしてから口に放り込んでいるか。肉に豪快にかぶりついてからナイフで切り落として食べていた。

「なるほど……そうやって食べるのか」

 僕も背負袋からゴブリンナイフを出し、指で摘んだ肉を削ぐように小さく切り取って口に入れる。

「うん、これは、新しい味かも」

 口の中にガツンと塩味が広がり、バジルのようなハーブの爽やかな風味もあり、何か香辛料のようなピリッとした刺激もあった。そして肉汁の旨味が口中にぶわりと広がり、最後にスモーキーな香りが鼻から抜ける。

 肉を小さく切り落としておくと、固さもあまり気にならない。

 肉を切り落として口に入れる。

 そして肉汁を絞り出すかのように咀嚼し、味わい、飲み込む。

 ふと思い出し、さっき入れてもらった葡萄酒を水筒から飲んでみる。

「これも悪くないな」

 いつも飲んでいる薄い葡萄酒とは違う。味が濃く、酸味も少ない。飲みやすい葡萄酒だ。ただ、薄められてないからか、アルコール度数も少し高いような気がする。飲みすぎないようにしよう。


 肉を切り落とし、口に含み味わって、葡萄酒で口中を洗い流す。そしてまた肉を切り落とし、味わってから葡萄酒で飲み込む。

 これは、いつもの安宿では経験出来ない味だ。塩の量もそうだし、ハーブの種類も違うし、香辛料が入っている。葡萄酒も普段は飲めないレベルの物だろう。

 周囲の冒険者達も、その味に満足したのか笑顔も出ている。

 さっきまでのトゲトゲした雰囲気はなくなり、下がっていた冒険者達の士気も格段に上がったように、僕には見えた。



◆◆◆



 壁の方が騒がしくなり、何か雰囲気が変わったような気がした。

「おい……あれは何だ?」

「な……んだ……あんなもの、見たことないぞ」

 壁の上にいる冒険者がザワザワと騒ぎ出す。

 その雰囲気の変化に僕も異変を感じ、階段を上って壁の外を見てみる。


 そこにあったのは、さっきまでと同じ風景。そして黒っぽい小さな山だった。

 山? と思い、目を凝らしてしっかりと見てみると、その山は動いていた。

 こちらへと向かって。


「あれは……ワイルドボア? ……いや、それにしては何かバランスが……」

 という横の冒険者の言葉を聞きながら、さらによく見てみる。

 よく見ると、その山は猪のような形に見えるけど……何かがおかしい。


 異変に気付いたギルマスが階段を駆け上がってきて、壁にしがみつくようにしながら例の黒い山を見た。

「あれ、は……グレートボア……?」

 ギルマスは、「グレートボア……グレートボア……」と小さく呟き、そしてカッと目を開き、叫んだ。

「グレートボアだ! Bランクモンスターの! 全員、休憩は終わりだ! すぐに準備にかかれ! 土魔法持ちは急いで壁を作れ! これでは保たん! 早くしろ!」

 ギルマスのその叫びに、一瞬、皆がぽかーんと動きを止めるも、状況を飲み込めた者から顔色を変えてすっ飛んでいく。

 辺りが一気に緊張に包まれ、人々が慌ただしく動き、そして悲鳴をあげる人もいる。


「くそっ! 何故、私がギルドマスターの時にこんな問題が起こるのだ! この町にBランクモンスターを討伐出来るような冒険者はいないのだぞ!」

 そう言いながらギルマスは壁の手すりに拳を振り下ろした。

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