第38話 ハズレアイテムと親の心

「うーん……だからね、ダンジョンには色々なアイテムが出るの。武具もあるけど素材もあるし、魔法書や日用品なんかも出たりする。良いアイテムもあるけど、中には何の使い道もなかったり、何に使えばいいのかすら分からないアイテムもあるの」


 あれからすぐに金貨一枚を払い、急いでアイテムを背負袋に詰め込み、グロッキーなゾンビ行商人から逃げ出した。彼もすぐに店をたたんでいたので、すぐにあの場から離れたはずだ。もう商品も残っていなかったしね。

 そして今は歩きながらメルにダンジョンのアイテムについて教えてもらっている。


「冒険者では判別出来ないからダンジョンから持ち帰られるけど、大半は価値の低い物だったり、用途が分からない物だったりして、適当に処分されるか安値で引き取られるの。でも、さっきの本みたいに見た目はしっかりしてて本物の魔法書に見えるような物は詐欺に使われたりもするのよね」

 そう言ってメルは僕の方を見る。

 引っかかりそうになってすみません……。いや、あの行商人はボッタクろうとしたかもしれないけど魔法書自体は本物なんだよ! だから騙されてはいないはず?

「そもそも、下級ならともかく、上級魔法の魔法書が露天商なんかに流れる事はまずないから。あんなところに売ってる魔法書なんて偽物で確定よ」

 と、メルは自信満々に言い切った。

 まぁ確かにそうかもしれない。上級魔法がどれぐらいのモノなのか、上級魔法の魔法書がどれぐらいの価値があるのか知らないけど、希少な物だったり有用な物だったりするなら大商人なりが買い取って最終的には権力者などの手に渡るだろうね。

「でも、そういう本とか丸い石とか、一見すると何か意味がありそうなアイテムを買い取ってる好事家とか研究者もいるらしいから、然るべき場所に持っていけば良い値で買い取ってもらえるかもね」

 なるほど。いつの時代も変わった物を集めたがる人はいるし、変なものを研究したがる人はいるものだ。しかしそういう変わり者の研究からとんでもない発見が生まれたりする。誰もが諦めて手を付けなかった分野を、理解も得られない中でやり続けてノーベル賞を取った人もいるのだから。


 さて、結局のところ、この浄化の魔法書と、そして同じ系列の魔法書に関しては、やはり上級魔法の魔法書なんかではなく、まったく別の系統の魔法書で、世間一般的には価値ナシと思われている、という結論でいいのだろうか?

 この魔法書に価値がないと思われているなら、つまりそれは使える人が皆無か、それに近いほどいないと結論付けていいはず。僕みたいにこの魔法書が使える人なら他の魔法書と同様に触れば分かるし、実際に使って見せればそれも証明出来るはずだから、使える人がいるならもっと広まっているはず。

 いやよく考えると、それ以前に、この魔法書が魔法書であると判別出来る人自体がほぼいない、という結論が出るのではないだろうか。もし所謂、鑑定のスキル、など、アイテムの詳細を見る能力なりアイテムなりがこの世界に存在するなら、誰かがこの魔法書を鑑定して、それが広まるはずだ。

 そうなっていないという事は、そういう能力なりアイテムが存在しないか、あってもかなり希少という事になる。

 うーん……。何にしろ当初の予想通り、この魔法がかなり希少なのは間違いないはずだ。やっぱり使用する時と場は慎重に選ばないといけない。

 そう思って気を引き締めた。


 しかしメルが凄く色々と知っていて驚いた。一般人が普通に常識として知っているような話ではない気がするし。

 何か最初の頃のイメージとちょっと違うかも。

 そう思って「メルって色々と詳しいんだね」と、聞いてみる。

 するとメルはこちらを振り返り、こう言った。

「そりゃあね、これでも商人の娘だもん」

 そして尻尾をゆらゆらと動かし、ニカッと笑うのだった。



◆◆◆



「ここがそうだ」


 大通りから二本、中に入った南寄りの裏通りにその店はあった。

 表通りの店に比べると小さいが、しっかりした作りで綺麗にしてある。開かれた木窓から中を覗くと武器類が並んでいるのが見えた。

 視線を横にずらし、ドアの横の看板を見てみると、ギルダンの鍛冶屋、と書いてあった。


 ダンが扉を開けて中に入っていく。それに続いて皆が入っていくのを見て、慌てて僕も店に入る。


「らっしゃい! ……おう、お前らか」


 店のカウンターの中からそう声をかけてきたのは四〇歳ぐらいの大きな男性で、よく見るとダンに似ていた。いやこの場合は、この男性にダンが似た、と言うべきか。

 横でメルが「親父さん、久しぶり!」と挨拶してるし、やっぱりダンの父親なのだろう。

「新しくパーティに入ったルークを紹介しに来たんだ。それとこの鎧を直してほしい」

 そう言ってダンが背負袋から鎧を出していく。

 あぁそう言えば、モンスターにやられて大怪我した時、鎧が壊れたんだっけ。護衛中はどうにもならないからそのまま着てたけど、町に戻ったんだし直しておきたいよね。

 ってそんな事を考えている場合じゃない。挨拶しとかないと。

「パーティを組む事になったルークです。よろしくお願いします」

「おう、鍛冶屋のギルダンだ。よろしくな」

 そう言ってギルダンさんは手を差し出してきた。

 慌ててそれを掴んで握手する。


 そうこうしている間にダンが背負袋から鎧を取り出し終わる。

 ギルダンさんが目を細めてそれを見た。

「おめぇ……これは、致命傷じゃねーか!」

 ギルダンさんがダンの胸ぐらを掴む。

「おい、ちゃんと説明しねぇか!」

 そう言ってギルダンさんは叫んだのだった。



◆◆◆



「分かった。そういう事なら仕方がねぇがな。前から言ってるだろ。いくらこの辺りに強いモンスターが出ないと言っても絶対はねぇって。それとルークと言ったか? うちの倅を助けてくれて助かった。感謝する」


 あの後、皆でギルダンさんに当時の状況を最初から説明する事になった。

 と言っても僕はギルドでの騒動からしか知らないし、あまり発言はしなかったけど。

 しかし、ダンがこの店の話で微妙な顔をしていた理由がやっと分かったと言うか、よく考えなくても当たり前と言うか。

 そりゃ鍛冶屋なんだから、壊れた鎧を直すならここなんだろうし、そうすりゃ怪我したのはバレるし、親なんだから心配するだろうし、煩い事も言うだろうし、そりゃこうなるわけで、気まずいよね。


「そうだな……。武器を買うつもりで来たんだろ? よしっ! じゃあ好きな物を一つ持っていってくれ! それが俺からの礼だ」

 ギルダンさんはそう言って僕を見た。

 いいのかな? と思ってダンの方を見ると、ダンが頷いて「貰ってくれ」と言った。後ろからはメルの「タダなんだから貰っときなさいよ。タダなんだし」という声が聞こえる。

「……じゃあお言葉に甘えて」

 そう言って僕は店内をゆっくりと見ていく。

 壁に掛けられたブロードソードやショートソード。棚に置かれている小型のナイフ。立てかけられている槍。エストックのような細身の剣。

 立ち止まって考える。

 武器は買いたかったけど、どうせお金にもあまり余裕がないし、適当に安い武器の中から選ぶつもりでいた。けど何でも選んでいいと言われて迷ってしまう。

 さて、何の武器を買おうか。剣と槍ならそこそこやってたし、やっぱりそのどちらかになるかな。まぁ剣と刀の違いもあるし、無難に槍にしとこうか。

 そう考えて槍が置かれている場所へと行く。

 ざっと見た感じ、二メートルを軽く超えている槍もあるし、一メートルほどの槍もある。それぞれ用途はあるんだろうけど、普通に使うなら長過ぎる槍は持ち運びが不便だし、短すぎると槍の意味がない。

 色々と考えて無難に身長と同じぐらいで、真っ直ぐなシンプルな鉄の槍にした。

 何故かは分からないけど鉄の槍にしないといけないような気がしたのだ。これが僕の最強装備な気もしてくる。


 そして僕は鉄の槍を手に入れた。

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